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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

絵師の見たもの、見えないもの/ファンタスティック(府中市美術館)

2016-03-22 00:59:44 | 行ったもの(美術館・見仏)
府中市美術館 企画展・春の江戸絵画まつり『ファンタスティック:江戸絵画の夢と空想』(2016年3月12日~年5月8日)

 恒例、春の江戸絵画まつり。今年は「思わず『ファンタスティック』と呼びたくなるような作品」をテーマに約160点を展示。前期・後期で全作品が入れ替わるので、できれば二回行きたいと思い、まだ桜の開花には少し早い府中に行ってきた。

 会場の構成は、まず「身のまわりにある別世界」が示され、次に「見ることができないもの」が続く。前者は細かく「月」「太陽」「黄昏と夜」等々のテーマで作品を集めている。別にフツーの月の図でも、こうやって集められると、なんとなくファンタスティックに見える。山口素絢の大作『四条河原夕涼図屏風』は1800年前後の風景かなあ。細部を見ていると飽きない。人魚の見世物は怖いけど笑える。「動物の世界」では司馬江漢・鏑木梅渓の『草花群鳥虫図』二幅のうち、鏑木梅渓という初めて聞く画家の作品が印象に残った。

 「天空」では森一鳳の『星図』が面白かった。題名のとおり、薄墨の空に白丸(少し黄色い)で星が描かれている。右側が南斗六星であることは分かったが、左側の四つ星が分からなかった。図録の解説を読んだら、斗宿(いて座)と氐宿(ていしゅく、てんびん座の一部)だそうだ。ん?こんな位置関係にあったっけ? 解説には「なぜ斗宿と氐宿なのかは、残念ながらわからない」とある。この「江戸絵画まつり」は、いろいろ気になる作品を発掘してきてくれるので楽しい。図録を見ると「天空」関係は後期のほうが充実していそうだ。また来なければ。でも原鵬雲筆『気球図』が見られたのは収穫。画家は文久の遣欧使節に加わって、実際に気球を見てきたひとだという。面白い。

 「見ることができないもの」は、まず「海の向こう(外国)」。ガラス絵(ガラスに描かれた絵)『紅毛女人海辺舞踊図』は、今見ても愛らしい調度品。浜松市美術館所蔵で、同館はガラス絵(18~19世紀の伝統的な作品および現代作品)を重点的にコレクションしているらしい。それから「伝説と歴史」。浮田一の『那須与一図』はいいなあ。「神仏、神聖な動物」はかなりヘンな作品もあって、小泉斐(あやる)の『七福神』三幅は、全然おめでたさが感じられなくて異様。小泉斐という画家は、たぶんこの「江戸絵画まつり」に通っているうちに覚えた名前だと思う。「地獄」「妖怪、妖術」は、歌川国芳が目立つと思ったが、後期は国貞も多数登場するらしい。吉川一渓の『白狐図』は怖いんだか、かわいいんだか、気に入った。

 展覧会の後半は「ファンタスティックな造形-いくつかのポイント」「江戸絵画の『ファンタスティック』に遊ぶ」と題して、独自の視点から分析をおこなう。たとえば「見上げる視線」が「ファンタスティック」な感覚を誘発する、というのは面白かった。狩野永岳というのも知らない画家だったけど『唐人物図屏風』の、木にもたれて遠くを見上げるおじさん、好きだわ。あと特筆しておくべきは、巨野泉祐筆『月中之龍図』。紺地に金泥で、雲と満月が描かれていて、満月(らしき)球体の内部に、龍の姿が透けて見える。ある人が語った夢を絵にしたもので、泉祐に描かせたのは松平定信。画中の定信が金泥で賛を入れている。

 今年も魅力的な作品をたくさん発見することができて、まだまだ江戸絵画には「お宝」が眠っていることを感じた。近年の江戸絵画ブームに、この「江戸絵画まつり」シリーズが果たしている役割は、とても大きいのではないかと思う。そして、図録を眺めていると、やっぱり後期も行きたくなった。
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