見もの・読みもの日記

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NHK木曜時代劇『ちかえもん』と最近のドラマ

2016-03-08 00:37:49 | 見たもの(Webサイト・TV)
○NHK木曜時代劇『ちかえもん』(2016年1月14日~3月3日、全8回)

 久しぶりに、感想を特筆しておきたいと思うドラマに出会った。時は元禄16年(1703)、近松門左衛門(本名・杉森信盛)(松尾スズキ)は、人形浄瑠璃作者になるべく故郷・越前から大坂に出て来たものの、「出世景清」を当てて以来、スランプとなり、妻には逃げられ、母の喜里と二人暮らし。竹本座の座長・義太夫から新作を求められても、「書けてなーい。今日も一行も書けてなーい」とつぶやきながら、元禄のキャバクラ「天満屋」で、年増遊女のお袖を相手に愚痴をこぼすばかり。時の将軍・綱吉は「親孝行」を顕彰し、前年・元禄15年の暮れに起きた赤穂義士の討入りが忠義の美談として世にもてはやされる中、近松の前に現れたのは、親不孝を勧めて「不孝糖」を売り歩く謎の渡世人・万吉(青木崇高)。なぜか近松は懐かれて、「ちかえもん」という可愛らしいニックネームで呼ばれることになる。

 近頃、天満屋に入った遊女のお初(早見あかり)は美人だが愛想なし。お初に一目惚れした平野屋の跡取り息子の徳兵衛(小池徹平)は、全くいけすかないあほぼん。善か悪か、謎の油屋九平次(山崎銀之丞)と、人形浄瑠璃「曾根崎心中」に登場する人々が、近松のまわりに集まり始めるが、キャラクター設定がぜんぜん違う。これが、どうやって「曾根崎心中」に至るのか?と首をかしげているうちに、あら不思議、物語は大きく急転して「曾根崎心中」を生み出し、さらにそれを越えてしまう。脚本が『ちりとてちん』『平清盛』の藤本有紀さんと聞いたときから、近松&曽根崎心中とのコラボレーションに期待はしていたものの、まさかこれほどの名作が生まれるとは思わなかった。

 ちかえもんの心の声に現代語を平気で混ぜていたり(出世景清、Don't miss it! には笑った)、「うた ちかえもん」の昭和歌謡の数々とか、変なアニメーションとか、遊びの演出はたくさんあって、どれもセンスがよかった。文楽協会の協力はもちろん、狂言師の茂山家のみなさん、落語家、漫才師など「関西芸能界の人々」が、影にも日向にも大活躍。美術もよかったなあ。芝居小屋の野外セットは歴史的に間違いという指摘もあって勉強になったが、天満屋や九平次の部屋など、非日常性がよく表現されていて、わくわくした。

 俳優さんは、上に名前を上げた方ばかりでなく、脇役・端役も含めて素晴らしかった。特記しておきたいのは、悪役・九平次を演じた山崎銀之丞さん。数か月前に朝ドラで知ったばかりの俳優さんで、こんなエキセントリックな悪役が似合うとは思いもよらず、びっくりした。あと竹本義太夫役の北村有起哉さんは、劇中の重要人物として活躍しつつ、かなりの量の浄瑠璃を自分の声で語らなければならない難役だったが、かなりサマになっていた。声の質が浄瑠璃向きなんだろうなあ。

 5月には、国立劇場の文楽鑑賞教室で久しぶりの曽根崎心中が掛かることになっている。ドラマの序盤は、これで文楽ファンが増えると嬉しいから、今回の公演は行くのをやめて後進に席を譲ろう、などと行儀のよいことを考えていたが、最後まで見たら、やっぱり舞台を見たくなった。たぶんこのドラマを見て、文楽協会の皆さんも、いつもにまして奮い立っているのじゃないかと思うのだ。古典「曾根崎心中」の最上の舞台を見せようと。やっぱり行こう!いい席でなくてもいいから。

 正月の大阪・文楽劇場の正面に飾ってあった「ちかえもん」のポスターの写真をあげておく。



 この2ヶ月間、毎週木曜日は全てを擲って、8時までに家に帰り、テレビの前でオンタイム視聴した。最終回が「ひなまつり」の3月3日というのは狙ったみたいだった。このほか、今、朝ドラ『あさが来た』と大河ドラマ『真田丸』も楽しんでいて、まもなく大河ファンタジー『精霊の守り人』も見ることになるだろう。元来、私は二つ以上の連続ドラマを並行視聴するのは苦手だったのに、大丈夫かな、この状況。全てNHKのせい。
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