見もの・読みもの日記

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二人の巨魁/大日本・満洲帝国の遺産(姜尚中・玄武岩)

2010-06-14 22:20:02 | 読んだもの(書籍)
○姜尚中・玄武岩『大日本・満洲帝国の遺産』(興亡の世界史18) 講談社 2010.5

 帝国日本を語る上で、何度も問い直されてきた「満洲国」に、朝鮮民族の視点から新たな光をあて、満州が生んだ日韓の権力者、岸信介と朴正熙の歩んだ軌跡を辿る。

 私がこの「興亡の世界史」シリーズを最初に手に取ったのは、2006年11月刊行の生井英考『空の帝国、アメリカの20世紀』で、続刊予定の中に、姜尚中氏の名前と本書のタイトルを見つけたときは、楽しみだけど、絶対、予定どおりに出るはずがない、と思った。案の定、刊行は遅れに遅れて、この巻以外は全て刊行済みになってしまい、本書はこのまま永久にフェードアウトするんじゃないかとも案じた。しかし、玄武岩さんの助力もあって(たぶん。はじめは名前なかったもん)奇跡のシリーズ完結に至ったことを喜びたい。(ハヤブサの帰還みたいだw)

 その内容であるが、「あとがき」で姜尚中氏が述べているごとく、厖大な「満洲国スタディーズ」の蓄積に、格別新しい発見を加えたわけではない。おおよその記述は、山室信一『キメラ:満洲国の肖像』をはじめとする先行文献の引用で成り立っている。ただ、ところどころで、ううむと考え込ませるのは、満洲国の建国が朝鮮半島の人々に与えた影響の大きさである。帝国日本に併合された植民地朝鮮の貧しい青年たちにとって、満洲国は、最後に残された「地位逆転」のチャンスだった。京城帝国大学では朝鮮人が正教授に採用されることはなかったが、満洲国の建国大学では教授になれた。朝鮮では普通文官試験しか受けられなかったが、満洲国では高等文官試験を受けて採用される道があった。それゆえ、田舎の訓導に過ぎなかった朴正熙は、「一死以って御奉公」と血書した半紙を同封して軍官学校を志願し、日本人よりも日本人らしい皇国軍人の道を選んだのである。

 そして終戦。満洲国のあっけない瓦解。強いられた雌伏のとき。再び風向きが変わり始める「冷戦」の到来。著者(たち)は、岸信介と朴正熙の共通項として、強い反ソ・反共意識とともに「内面深く米国への反発心を抱きながらも、同時に対米依存を通じて自らの権力を強化していったこと」を挙げている。これは、なかなか分かりづらいところだ。でも、岸信介は、スクラムを組んで安保反対を叫んでいた若者とは違ったかたちで、不屈の対米闘争をたたかい続けたともいえる。右とか左って、そう単純には割り切れない。反ソ・反共と言いながら、統制経済へのシンパシイも強いし。「保守政党は、労働者あるいは勤労者階層に対しても相当なことをやらなければならない」「すべてのものは自由競争に任すのではなく、全体としてひとつの計画性をもたねばならぬ」というのも、本書で見つけた岸の言葉である。

 朴正熙のことは、ほとんど何もしらなかったので、ひとりの人間として、すさまじい生涯だなあと思った。戦後日本が経済復興を遂げたのは、朝鮮戦争特需のおかげという話はよく聞くが、韓国の飛躍的な経済成長(1965~72年)もまた、ベトナム戦争特需に助けられた点が大きいのだという。初めて知った。あまり嬉しくないあわせ鏡だと思った。

※講談社:「興亡の世界史」シリーズ
6月18日(金)19:00~丸善丸の内本店3Fにて著者サイン会開催!
え、せっかく東京都民になったのに、その日は出張で行けないのが悲しい…。
コメント (2)
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