見もの・読みもの日記

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さまざまな対話/「知」の現場から(原武史ほか)

2010-06-03 22:40:26 | 読んだもの(書籍)
○原武史編『「知」の現場から:明治学院大学国際学部付属研究所公開セミナー2』 河出書房新社 2010.5

 2009年10月6日から12月15日まで、明治学院大学横浜校舎で行われた10回の公開セミナーを収録。全て対談形式で、ホスト役を同研究所長の原武史氏(計7回)と国際学部教授の高橋源一郎氏(計3回)がつとめている。え~こんな興味深いイベントが開かれていたなんて、ちっとも知らなかった。まあ知っていても、毎週火曜日の夜じゃ、埼玉から戸塚まで通えなかったとは思うけど…。テーマもゲストも実に多彩なので、ここに書き抜いておく。

内田樹×高橋源一郎 哲学/教育
島薗進×原武史 宗教学
川上弘美×高橋源一郎 文学1
青山七恵×原武史 文学2
御厨貴×原武史 政治学
酒井順子×原武史 鉄道論
斎藤環×原武史 精神医学
福岡伸一×高橋源一郎 生物学
姜尚中×原武史 歴史認識
坪内祐三×原武史 都市論

 「国際学部」と称しているけれど、テーマは international affairs(国際関係論)というより、interdisciplinary studies(学際領域)のほうがふさわしい感じがする。読んでみて、いちばん面白かったのは、意外なことに福岡伸一さんの「生物学」。生命現象とは「自己複製するシステムである」という従来の見解に対し、「動的平衡を保つ仕組みである」という、全く異なる観点を導入する。「ゆく川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」みたいなものかな。この観点に立つと、ウィルスは生物の範疇を外れてしまう、というのも面白い。

 姜尚中氏の回は、600人収容の大教室でも立ち見が出たそうだ。観念論を避け、けっこう泥臭く、学者としての生い立ち(おふたりは同じ先生に師事している由)や、姜氏の故郷・熊本の風土論などを語っていている点が興味深い。話題が沖縄に及び、姜氏がテレビ関係者に聞いた話として、沖縄を取り上げると視聴率が下がるのは、つまり、一般視聴者は沖縄の問題に関心がない、むしろうざったく思っているのではないか、と紹介していることに、悲しい衝撃を受けた。

 島薗氏、御厨氏、斎藤環氏の回は、天皇論・皇室論が大きなテーマ。御厨氏によれば、本来、現憲法が定める天皇の「国事行為」とは内向きのもので、「皇室外交」というものは想定されていなかった。にもかかわらず、ご高齢の天皇夫妻に多大な負担を強いているのも、雅子妃が皇室の外交的役割に期待をして皇室に入ってしまったのも、何かおかしい、ということになる。

 ちなみに、2008年度の公開セミナーを収録した『「政治思想」の現在』も発売されているが、私は見た記憶がない。ちょっとテーマが重かったかも。本書は、文学論、鉄道論など軽く読める対談が適度に含まれていて、肩が凝らない。

2009年度公開セミナーのWebサイト
2008年度公開セミナーのWebサイト
コメント
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