見もの・読みもの日記

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講演会「伊藤若冲の魅力」(講師:辻惟雄)

2010-06-07 23:58:42 | 行ったもの2(講演・公演)
千葉市美術館 『伊藤若冲 アナザーワールド』記念講演会「伊藤若冲の魅力」(講師:辻惟雄)(2010年6月5日)

 『伊藤若冲 アナザーワールド』は、若冲の水墨画を中心に165点を展示する展覧会。「首都圏での若冲の大規模な展覧会は昭和46年(1971)に開催された東京国立博物館での特別展観以来、約40年ぶり」という紹介に、そうだったか、と唸った。若冲と聞けば、京都でも信楽でも飛んでいっていたので。

 関連イベントとして、MIHOミュージアム館長の辻惟雄先生の講演会があるという。これは聞き逃せないと思ったが、「聴講無料、先着150名様」って、こんなアバウトな計画で大丈夫なのか…と初めから案じていた。14:00開演だが、1時間前ではいい席は取れないと思ったので、12:30を目指して出かけることに。ちょうど講堂の扉が開いて、50人ほどのお客さんを中に入れているところだった。続いて中に入って席を確保。13:00を数分過ぎた頃には、150席全て埋まってしまった。できれば、展覧会を見てくるか、同じ階のカフェでお茶でも飲んで待とうと思っていたのだが、開演までトイレ退場以外は「一切許しません」という幽閉状態。展覧会の図録を買いに行くのも「駄目です」と言われた。ええ~やることがお役人だなあ。客を客と思ってないだろ…。

 初めは受付のお姉さんが「暗くなるので立ち見は入れません」と言っていたが、結局、開演の少し前に扉が開いて、かなりの人数が、後ろと左右の通路で立ち見。お年寄りの分だけでも、椅子を追加してあげられなかったのかなあ。座っている身も心苦しかった。やがて、辻惟雄先生を伴って現れた小林忠館長が、われわれ、このような多数のご来場には全く慣れておりませんので、と弁明し、会場の空気が少しなごむ。言うまでもないことだが、辻先生は千葉市美術館の初代館長である。年来、この美術館を贔屓にしている私にとっては、2000年の蘆雪展、2001年の雪村展、2004年の岩佐又兵衛展など、今も記憶に新しい。

 辻先生のお話は、現在の若冲人気の「画期」となった、2000年、京都国立博物館の若冲展から始まった。スポンサーもなく、初めはガラガラだった企画が、後半ウナギのぼりに観客を増やしたのは、ブログなどによる若者の口コミの力が大きかったということが「だんだん分かってきました」とおっしゃる。うーん、先生、それはどうかしら。上げ足を取るようだが、2000年にはまだ、ブログ文化は一般的でなかったと思う。どうも若冲に関しては、ネットの力が過大に語られすぎのように感じる。誰か、「展覧会史(日本美術享受史)」の課題として、きちんと分析検証してくれないだろうか。また、若冲の、人を異次元の世界に誘い込む魅力は、村上春樹に似ている、ともおっしゃった。これは、なかなか卓見に思える。あっもしかして、昨秋の『若冲ワンダーランド』も村上春樹の引用なのかな。

 それから、若冲の生涯をざっくり紹介。近年、新出の資料『京都錦小路青物市場記録』(京大文学部所蔵)によって、「オタク」若冲像が修正を迫られていることは、昨秋、MIHOミュージアム『若冲ワンダーランド』展でも紹介されていたとおり。続いて、辻先生手作りのパワーポイントを見ながら、作品解説。系統だった解説でなく、いろいろ余談に流れるのが面白かった。ジョー・プライス氏が購入した『雪蘆鴛鴦図』を研究室に借りて、「アメリカに行ってしまう前によく見ておくように」と指導した学生の中に、小林忠さんもいたとか…。

 2009年に公開された『動植綵絵』30幅については、「もう当分出ないでしょうねえ」と言いつつ、でも2016年が若冲生誕300年なので、大きな企画があるようですが、宮内庁は出しますかねえ、ともぽつり。2007年に相国寺で、釈迦三尊図を囲んで公開されたときは、管長の有馬頼底氏が宮内庁をくどいて動かしたのだそうだ。

 若冲の目も面白いが、辻先生の目もさすがだと思ったのは、ときどき、思わぬところをクローズアップした画像を見せてくれたこと。『蘆雁図』で落下する雁の隣りに描かれた、枯れ枝に飛び散る雪を超拡大にして「僕はこういうところが好きなんです」と感に堪えたようにおっしゃっていた。これに比べると、近代の日本画家の作品は「粉っぽいし、平べったい」とも。確かに、若冲の雪は、ねっとりと油絵具のように輝いて見える。『池辺群虫図』でも、目ざとくへんな小動物を探し出していた。

 水墨画の話は少なかったが、若冲が、初めは黄檗宗のお坊さんから素人水墨(濃い墨)を学び、やがて薄い墨の使い方を習得し、筋目描きの技法を用いるようになった、というのは、作画年代を推定するときのために要メモ。

 さて、MIHOミュージアム所蔵の『象鯨図屏風』は、2008年に北陸の旧家で見つかったものだが、ちょうど辻先生のもとに小林忠氏がいらっしゃったとき、その写真が届けられたのだという。まるで小説みたい! すぐに、昭和3年(1928)に神戸の川崎男爵家(→Wiki:これか?)のオークションに出品されたものかと思ったが、調べてみると、少し違う。2種類の屏風の画像をかわるがわる見せてくれたので、なるほど、微妙な差異がよく分かった。ここで、意外なことに福岡伸一の名前が出て、彼の著書に、陸の象と海の鯨が、人間には聞こえない低周波で対話する場面が描かれており、その挿絵に『象鯨図屏風』が使われている(辻先生が頼んで使ってもらった)ことが紹介された。これは読んでみたい(→個人ブログから:写真)。

 最後は、少し時間が余ったので『菜虫図』の写真を見ながら、ここ面白いでしょー、ここもいいですねーと、みんなで幸せな気分になっておしまい。展覧会については、また後日。

※6/21追記。6/20の講演会「伊藤若冲の多彩な絵画ワールド」(講師:小林忠)は、格段に運営が改善されていました。
コメント (2)
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