見もの・読みもの日記

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脱力の異次元/伊藤若冲 アナザーワールド(千葉市美術館)

2010-06-09 23:06:36 | 行ったもの(美術館・見仏)
千葉市美術館 『伊藤若冲 アナザーワールド』(2010年5月22日~6月27日):前期

 大入り札止めの辻惟雄先生の講演会が終わったあとは、混雑が収まるまで、レストラン(11階)で小休止。窓際席では広い角度の眺望が楽しめて、晴れやかな気持ちになった。人の波が一段落した頃を見計らって、展示室に向かう。金曜・土曜は20:00まで開館している。金曜に延長開館している美術館は多いけれど、土曜もゆっくり観覧できるのはすごくありがたい。

 本展は、水墨画を主体に、前後期あわせて165点の若冲作品を紹介。正直なところ、昨年のMIHOミュージアム『若冲ワンダーランド』の二番煎じ?と思っていた。しかし、会場に入ると初めに「若冲前史」の章立てがあって、若冲に影響を与えたと思われる画家たちの作品が並んでいる。これは『若冲ワンダーランド』にはなかった新しい試み。特に、神戸市立美術館で見て以来、「若冲に似ている~!!」と気になっていた鶴亭という画家(黄檗僧)の作品が、まとめて見られて嬉しかった。鶴亭の全ての作品が”若冲テイスト”ではないということも分かった。

 若冲作品は、彩色画から。京都・両足院所蔵の『雪梅雄鶏図』は薄墨色の背景に、こってり輝く白雪を載せた梅の木、そして宝石のような紅色サザンカ。ニワトリの脚の立体感と、料紙の地を塗り残した(たぶん)地面の対比が醸し出す奇妙な非現実感は、いま、図録を見ても全然迫ってこない。両足院は、長谷川等伯の『竹林七賢図屏風』についても、本物を見たとき、写真とは全く異なる印象にびっくりした経験がある。つくづく日本画は複製に騙されてはいけない、と思った。

 この絵の印章は、ちょっと珍しいかたちで「丹青不知老将至」とある。出典は杜甫の「丹青引(絵画のうた)」という長詩だそうだ。『若冲ワンダーランド』図録の印章解説(これは便利)で確認すると、使われているのは彩色画だけだ。「丹青」が水墨画には合わないからかな。本展の図録も、印章・署名の解説が丁寧でありがたい。

 水墨画は楽しい作品が続くので、思わず口元がゆるむ。時には、声に出して笑いそうになる。私のお気に入りはいろいろあるが、花火みたいな『墨竹図』。まるまるわんこの『狗子図』(顔が見えないっ)。『親犬仔犬図』も。あー若冲はイヌはよく描くけどネコはあまり描きませんね。唐子も布袋さんも寒山拾得も好きだ。会場の作品キャプションは、題名などのほか、美術館がつけた短い見出し+解説で構成でされていたが、この見出しが取ってつけたようで、真面目に読むとかなり笑えた。「ちまきは柔らかい」「海老は筋目描き向き」って…図録に採録されているかな?と期待して買ったんだけど、載っていなかった。後期はもっとメモ取ってこよう。

 気になる作品として、若冲の『海老図』に上田秋成が賛をつけたもの(無腸の号に合わせて蟹の花押)があったが、二人は実際に顔を会わせていたのだろうか。秋成も近代になって真価が発見されたところのある小説家なので、両者には少し共通点を感じる。それから、京都国立博物館所蔵の名品『果蔬涅槃図』や『石灯籠図屏風』が久しぶりに見られてよかった。西福寺の『蓮池図』では厳粛な気持ちになった。会場には、10代、20代の若者が多くて、文字どおり目を輝かせて作品に見入っている。ほんとに若冲は幸せな画家だなあ、と思う。

 若冲展をひとまわりすると、最後に『江戸みやげ』と題した所蔵浮世絵名品選の展示室に到達する。そうか、春信とか歌麿って若冲と同時代人なんだ、とあらためて気付く。当時の広汎な人々に受け入れられたのは、こっち(浮世絵)だったんだよなあ、と思って見比べると感慨深い。

※補記:若冲の来訪記事をめぐって(2010/7/14記事)
コメント (4)
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