〇山種美術館 特別展『犬派?猫派?-俵屋宗達、竹内栖鳳、藤田嗣治から山口晃まで-』(2024年5月12日~7月7日)
犬と猫を題材とした名品を紹介する展覧会。そろそろ会期が後半なので、混雑も落ち着いたかなと思って出かけたら、びっくりするほど混んでいた。何かイベントでもあったのか?と訝ったが、単純にイヌとネコの魅力が、大勢の人を引き寄せているらしかった。
本展には、けっこう個人蔵の作品が出陳されている。宗達の『犬図』は後ろを振り返るブチの仔犬。あれ?府中市美術館で見なかったかな?と思って図録を確認したら、同じように振り返るポーズだけど、こっちの『狗子図』は白犬だった。蘆雪の『菊花子犬図』はポスターにも使われており、大人気。長年の蘆雪ファンとしては、彼の仔犬の「可愛さ」が認知されてきて、とても嬉しい。しかし私が好きなのは、やっぱり若冲。『子犬図』2幅対は、箕(み)の中で丸まった三匹の仔犬(一匹だけ目鼻が見えている)と、箒の後ろに隠れるような仔犬(耳だけ黒い白犬、禅宗の「趙州狗子」に由来する定番の画題)を描く。若冲の墨画の仔犬は、なぜかみんな無表情な三白眼で、応挙や蘆雪の仔犬のような愛嬌がカケラもない。だが、私はかえって、そこが好きなのだ。
近代絵画では、奥村土牛『戌』の、ちょい不細工な仔犬が好き。麻田辨自『薫風』のちんまり並んだ2匹もよい。イヌは、人間が感情移入がしやすい動物だけに、分かりやすく「可愛い」顔をしていない姿に魅力を感じる。
初公開の『洋犬・遊女図屏風』二曲一隻(個人蔵、17世紀)は、右側に脇息にもたれて文を読む女性と、その前で墨を摺る小女を描く。二人とも髪を上げずに垂らしている。背景は金地。床が金銀(?)の市松模様になっているのは、どこか異国やファンタジー世界なのか。左側には焦げ茶色の犬がいて「ダックスフンドか」と説明がついていた。「天竺犬といって、足の短い犬が相国寺に連れてこられた記録がある」とのこと。ものすごく気になる。
その隣りに守屋多々志『慶長使節支倉常長』が展示されており、こちらも床が白と黒の市松模様。異国のしるしであると同時に、常長の衣裳、そして白黒のグレートデンとも合っている。もう一匹、黒いもしゃもしゃしたヨークシャーテリア(?)がいるのは、画家の愛犬チャールズがモデルらしい。
ネコは橋本関雪の『ペルシャ猫』(素描)がよかった。山口晃『捕鶴図』には爆笑。はんてんやちゃんちゃんこを着たネコたちが、庭の鶴を捕まえようと作戦会議を開いている。「鶴」と「猫」というお題を貰って即興で描いた「席画」だそうだ。さらにその隣りには『猫ハ鋭利餡(猫はエイリアン)』というふざけた(※褒めてる)作品を展示。ネコ顔・蛸スタイルのあやしい宇宙人が描かれている。6月15日放送のテレビ番組『新・美の巨人たち』で本展が紹介され、俳優の田中要次氏からのお題を受けて、山口晃さんが即興で描いたものだという。田中要次氏の題字にも山口さんがイラストを添えていた。会場のお客さんたち、やや困惑した表情で眺めていたけど、仙厓や蕭白の席画に対する反応もこんなものだったかもしれない。
第2展示室は「鳥(トリ)」のミニ特集。上村松篁の『白孔雀』、お高くとまりすぎだと思っていたが、あらためて見ると、なかなかよかった。