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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

力強い脇役/仁王(一坂太郎)

2009-04-28 23:13:44 | 読んだもの(書籍)
○一坂太郎『仁王:知られざる仏像の魅力』(中公新書) 中央公論新社 2009.4

 思わず「そう来たか」とつぶやきたくなる仏像本である。昨年の『国宝 薬師寺展』に続き、今春の『国宝 阿修羅展』も大盛況である。書店にも、数々の関連本が並んでいる。そんな中で異彩を放つ本書は、北海道から沖縄まで、134件の仁王像を紹介した「日本ではじめての仁王ガイド」なのだ。

 全て著者が実際に踏査したもので、「○○駅から1日数本しかないバスに乗る」「タクシーを利用するしかない」「徒歩だと駅から1時間」などの、さりげないアクセス情報が泣かせる。ほとんど全てに写真が付いているのが嬉しい。仁王像は、寺門で風雨に晒され、朽ちやすいため、古い作例はあまり残っていないそうだ。そして、「どうせまた作り直さなければならない」と思うためだろうか、手の込んだ彫刻の優品は少ないように思う。中には、マンガから抜け出してきたような稚拙な造形もある。一方で、庶民に親しまれ、撫でられたり、お札を貼られたり、田植えをしたり、相撲を取ったり、さまざまな信仰・伝説を背負った仁王も多い。

 気になったものをいくつか挙げれば、漱石の『夢十夜』に登場する護国寺(東京)の仁王は「運慶」の作ではなくて、元禄期の作だそうだ。池上本門寺(東京)の仁王は、アントニオ猪木の肉体をモデルにしている。如来や菩薩像では許されない実験的な試みも、仁王や天王像だと許容されるのかもしれない。もっとすごいのは一心寺(大阪)で、普通の男性の裸像にしか見えない、現代彫刻の仁王像が立っている。

 古いものでは、財賀寺(愛知)の仁王像は平安時代の作で、奈良博に寄託されかけたところを、「カムバック仁王様」という市民運動で呼び戻された。東大寺・法華堂(三月堂)の仁王像=金剛力士像1対は、戦争末期、空襲を避けるために、奈良刑務所の囚人たちの手で円成寺に運ばれた。等々、こんな感じで興味深い話が続く。古寺巡礼の折々、時には「脇役」の仁王にも目を向けてみたいと思う。
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