見もの・読みもの日記

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水墨の名品、何でもあり/筆墨の美(静嘉堂文庫美術館)

2009-04-27 23:01:37 | 行ったもの(美術館・見仏)
静嘉堂文庫美術館 『筆墨の美-水墨画展〔第1部〕中国と日本の名品』(2009年4月4日~5月17日)

 水墨画三昧のその2。日本の水墨画を特集している出光美術館から移動し、さて今度は中国の水墨画だ、と思ったら、途中から日本人の作が並んでいたので、あれ?と思ってしまった。これは全く私の早とちり。ポスターになっているのが牧谿の『羅漢図』だったり、中国絵画史の小川裕充先生の講演会が組まれていたので、こっちは中国絵画特集、と思い込んでいたのだ。よく見ると、ポスターのタイトルには、小さな字で「第1部 中国と日本の名品」と付記されている。

 とは言え、やはり静嘉堂といえば中国絵画である。展示室の入口に掲げられたのは、とびきり可愛い『栗鼠図』。リス描きの名手、葛叔英(別名・松田)の筆で、これは1匹だけのリスを描いたもの。雪庵『羅漢図冊』は、色紙ほどの羅漢図の貼り込み帖だが、中国絵画らしからぬ、洒脱で即興的な面白さがある。ちょっと宗達や光琳みたいだ。解説に「黄檗僧の逸然が(強く望んで?)請来した」とあったので、調べてみたら、逸然性融(いつねんしょうゆう)(1601-1667)は明末の人で、ずいぶん時代が下る。自らも絵に秀で「長崎漢画の祖」といわれるそうだが、鑑賞眼も大したものだ。また、作者不詳の『寒山図』も元代の作で、ひらっと翻る上衣の裾に動きがあって面白い。ふと、直前に出光美術館で見た宗達の『鐘離権図』が頭を過ぎった。国宝の『禅機図断簡・智常禅師図』を含め、元代(13~14世紀)の水墨画が4点。すごいなあ、さすがだなあ。

 しかし、見ものはポスターになっている、牧谿筆『羅漢図』(南宋時代)だろうか。岩場で端座瞑目する一人の僧。高邁な禅の哲学を表した図かと思ったら、三白眼の大蛇が膝頭に迫っている。危うし!?お坊さん。何だかマンガみたいな絵だ。牧谿の作品って、実は意外と分かりやすい。

 明清の作品は、けっこう見覚えがあった。いちばん好きなのは、袁江筆『梁園飛雪図』である。昨年、大和文華館の『崇高なる山水』でも見たし、その前に、ここ静嘉堂文庫でも見ている。アルプスみたいな厳粛で壮麗な雪嶺を、遠景と近景で描き分けており、ねっとりとからみつくような木の枝の上の雪、水蒸気に曇る湖面など、自然の質感(温度・湿度)が見事に表現されている。「梁園」ってどこにあるのかと思ったら、河南省らしい。後梁の孝王が建てた園林の由。では、あの雪山は嵩山(すうざん)だろうか?

 後半は日本の水墨画。式部輝忠『四季山水図屏風』は大作だが、よくも悪くも日本人には親しみやすい風景だと思う。淡彩が美しい。左隅に「雪中帰牧図のバリエーション」が描かれているのをお見逃しなく。作者不詳の『三益斎図』(重文・室町時代)が、出光美術館で見た伝・周文筆『待花軒図』によく似ていたのも発見だった。窓辺に書籍を積んだ無人の庵、庭を掃く童子、それだけだけどね。

 最後に、そっとひとこと書いておくが、美術ファンは受付カウンター付近の案内掲示にご注意を。私は、思わぬおみやげを大量に貰って帰りました。

 また、この水墨画展「第2部」は、秋冬に予定されているようだが、まだ公式サイトでは詳細が分からない。中国と日本、元から明清、室町から大正までを第1部で総ざらいに扱ってしまって、次はどういう切り口で来るんだろう?と、不安でもあり楽しみでもある。
コメント
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