見もの・読みもの日記

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風俗画・身体のリズム/出光美術館

2006-03-13 22:54:59 | 行ったもの(美術館・見仏)
○出光美術館 企画展『風俗画にみる日本の暮らし-平安から江戸-』

http://www.idemitsu.com/museum/honkantop.html

 「風俗画」に焦点を絞った展覧会である。ただし、その意味するところは、かなり広い。ふーん、風俗画? 室町から江戸期の洛中洛外図とか、花下遊楽図のことかな、と思って行くと、いきなり平安時代の『扇面法華経冊子断簡』が待っていて、びっくりする。経文の下地には、水辺にたたずむ童子と女房(女童か?)の姿が描かれている。なるほど、平安時代の風俗画にちがいない。

 それから、しばらく絵巻が続く。家族の幸せな日常を描いた『橘直幹申文絵巻』(出光美術館の所蔵らしいが、あまり見たことがなかった)。降ってわいた富貴に困惑する老夫婦を描く『福富草紙絵巻』。その隣は『小柴垣草紙絵巻』ではないか! びっくり! これは、絶対清浄であるべき伊勢の斎宮が、警護の武士・平致光(むねみつ)と禁断の恋に落ちるという、超スキャンダラスな物語を絵巻にしたもの。その実態は、「春画の元祖」みたいな、鎌倉時代のポルノ絵巻である。

 さすがに展示では、巻頭で、恋の喜びに輝く斎宮の表情をアップにして、「醜聞という恋愛の魔力のすべてを語っている」という注釈を付けるにとどめているけれど、軸に巻かれた続きの紙面には…。知りたければ、橋本治の『ひらがな日本美術史2』(新潮社 1997.8)を見るのがよい。「科学するもの」という章題で、『小柴垣草子絵巻』が取り上げられている。いや、実際、科学かもな~というくらい、身もフタもない態度で、男女の性行為そのものが描かれているのである(確かめたい...)。

 さて、展示の中心は、やはり江戸時代である。テーマはバラエティに富む。「観光・異国へのあこがれ」では、宣教師一行の買い物風景を描いた『南蛮人交易図屏風』が面白かった。道具屋の店先に腰掛けて、「それだよ、それ!」という風情で売り物を指差す南蛮人。言われた品物を取ろうとする店主。江戸時代の『世界地図・万国人物図屏風』には、さまざまな民族(国民)の男女がペアで描かれている。「日本」にはお公家さん風体の男女が描かれ、男が日の丸の扇子を持っているのが興味深い。

 続く「歌舞伎・遊び」では、邸内や屋外で、遊楽に興ずる人々が描かれている。踊り興ずる人々の体は、大きく揺れている。熱狂を呼ぶ、早いリズムが伝わってくるようだ。いいな。これこそ風俗画の「粋」という感じだ。

 このほかでは、新発見のやまと絵系画家による扇面風俗画が面白かった。なるほど、拡大写真で見ると、狩野派との違いがよく分かる(できれば、拡大鏡を持っていくことをおすすめ)。人気の仙も出ている。
コメント (1)
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