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「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

モーツァルトが変えた人生~その4~

2023年02月05日 | ウマさん便り

「~その3~」からの続きです。

大阪・天王寺(てんのうじ)、茶臼山(ちゃうすやま)の裏にポツンとある、隠れ家(が)的ドイツ・ビヤレストラン<ウィリー>…(ドイツ人、故ウィリーの波瀾万丈(はらんばんじょう)はいずれ書きたい)

お互いにビールを何度もお代わりし、モーツァルトの話で盛り上がったのは、もう当然でしょう。メニューにシュニッツェルがあるこの店こそ、モーツァルトの話をするのに相応(ふさわ)しいことに、あとで気が付いた。 

僕は女房のキャロラインと、ザルツブルグのモーツァルトの家を訪ねたことがある。そのすぐ近くのレストランで、冗談半分で「モーツァルトが好きだった食べ物はありますか?」と訊(き)いてみた。

ところが「ハイ、ありますよ」と云うのでびっくり! そして、出てきたのがシュニッツェルだった。子牛や豚の肉などを薄く叩(たた)き、パン粉をまぶし衣(ころも)を付けて揚(あ)げた、ま、ワラジみたいなカツレツやね。
 

そのシュニッツェルや、キャベツの漬物ザワークラウトをつまみ、ビールを美味(おい)しそうに飲(の)み干(ほ)したTさんが面白いことを云った。

「ウマさんな、モーツァルトって童謡(どうよう)みたいな曲が多いねん。だから僕でも理解出来るんとちゃうやろか?」

エッ? あっそうや! なるほどその通りや。言われて気が付いた。 

モーツァルトは父親の指示で長調の曲を多く書いた。つまりドミソの世界やね。ほら、あの「キラキラ星」や「トルコ行進曲」を筆頭に、童謡みたいなメロディーが多いわ。

そう云えば、誰でも知ってるあの有名な「アイネクライネナハトムジーク」も童謡的と云えなくはないよなあ。そうそう、モーツァルトを初めて聴いたTさんが涙(なみだ)したという、例のピアノコンチェルト21番もハ長調や。

つまり、モーツァルトってさあ、単純なドミソの世界で、誰にも真似(まね)出来ない夢のような旋律を作ったんやね。そうや、まさにドミソの世界や。  

そんなドミソの世界、ウマのノーミソでも理解出来まっせ。ランラン♪で、モーツァルトの世界って、ひとことで言うとね…、シンプルな童謡の世界、つまりメルヘンの世界って云えるんとちゃうやろか?

エッ? そんなこと言うたら、音楽評論家が怒るでぇー?

かまへんかまへん、僕はTさんのメルヘンを尊重したいなあ。 

彼、Tさんのモーツァルトに関する知識は、もうアンタ、ちょっと半端(はんぱ)じゃなかったですよ。モーツァルトだけでLPが100枚以上あるというんで驚いた。  

小林秀雄の名著「モオツァルト・無常という事」を、Tさんは国語辞書を引きつつ、悪戦苦闘(あくせんくとう)しながらも最後まで読み切ったというから驚いた。

この名エッセイを理解するためには、ゲーテやトルストイ、ロマン・ロランのことなど、もうたくさんの予備知識が要(い)るうえ、旧仮名遣(きゅうかなづか)いも含まれるんで、読み切るのは簡単じゃない。そんな本を、中学もろくに出ていないTさんが読んだというんやからすごい。

さらに、僕も大いに参考にしている音楽評論家・吉田秀和さんの本も持っているというから、ますます嬉しくなった。

それに僕の好きなピアニスト、ディヌ・リパッティが弾くピアノコンチェルト21番や、クララ・ハスキル演奏の27番などのLPも持ってるというんで、もう、さらに嬉(うれ)しなってしもたがな。

「Tさん、ええレコード持ってはるんやねえ」と云った僕に、彼は呆(あき)れ顔(がお)で云った。

「ナニ言うてはりますの? ウマさんに初めて手紙を書いた時に貰(もら)った返事の中で、リパッティやクララ・ハスキル、それに、モーツァルト弾きとして有名なリリー・クラウスやイングリット・ヘブラーなど、長い解説付きで、ウマさんが教えてくれたんやないの」
 

1957年、バイエルン国立管弦楽団と共演した、クララ・ハスキル演奏のモーツァルト・ピアノコンチェルト27番を初めて聴いたのは、大学浪人中だったのを今でも鮮明に覚えている(勉強せんとレコードばっかり聴いていた)。

日本楽器心斎橋店のレコード売り場、そのクラシックコーナーを物色中(ぶっしょくちゅう)、たまたま取り上げたレコードがそれだった。

でも、クララ・ハスキルなんて聞いたこともなかったんで棚(たな)に戻そうとしたとき、隣りにいた初老の紳士が、いきなり、でも、穏(おだ)やかな声で「そのレコード、モーツァルトの27番では最高の演奏だと思いますよ」とおっしゃった。で「じゃ、聴いてみます。ありがとうございます」と、お礼を云った。


しもた! カッコつけてしもた! と、その時思ったんやけど、家に帰って、いざ聴いてみたら、なんとも素晴らしい演奏やないか! で、思わず「おっちゃん! ありがとうな!」

その紳士は「それ最高の演奏です」と断定せずに「…だと思いますよ」と表現された。僕みたいな青二才を、上から目線で睥睨(へいげい)しない人柄(ひとがら)だったと今にして思う。ペイズリー柄のアスコットタイをしたあの紳士とは、是非とも知り合いになりたかったと、今でも残念に思っている。

ま、そんなわけで、今でもちょくちょく聴いているクララ・ハスキルのモーツァルト・ピアノ協奏曲第27番、穏(おだ)やかで端正(たんせい)な演奏なんやけど、とても研(と)ぎ澄(す)まされていて、いつ聴いても、僕は背筋(せすじ)がゾクゾクする。

モーツァルトが死んだ年に作曲された最後のピアノコンチェルトがこれ。この時期のモーツァルトが極度の貧困(ひんこん)だったのは有名な話やけど、この曲の、澄(す)み切(き)った世界はいったいなんなの? もう何ものも寄せ付けないと云っていい孤高の世界…、特に第二楽章など、もう言葉がないんや僕は…

クララ・ハスキルのこの演奏はね、モーツァルトや、ひょっとして神様とも一体となった、まさに天上の音楽とちゃうやろか?。少なくとも僕にとってはということやけど…それを、Tさんに云うと「ウマさん僕もいっしょや! あの曲な、第一楽章から第三楽章まで童謡みたいなメロディーが多いねん。いやあ嬉しいなあ!…すんませーん!ビールふたつおかわりねー!」

以下、続く。

追記

「言わずもがな」ですが、モーツァルトのメルヘンの世界は大いに納得がいきます。あの最高傑作「魔笛」(オペラ)からして、もうまったくメルヘンの世界ですからね。

冒頭の「鳥刺しの歌」(パパゲーノ)なんか童謡そのもので、モ
ーツァルトが「おとぎ話」の類を大好きだったのは疑うべくもないでしょう。

(この「おいらは鳥刺し~ヘルマン・プライがお薦め~」をぜひ「You Tube」で聴いてみて~)

天真爛漫で無垢な「童心」と「澄み切った青空のような調べ」が渾然一体(こんぜんいったい)となって奏でられる音楽を、もういったい何と形容したらいいのか・・、「神々しいばかりの透き通った世界」としか言いようがありません。
 

モーツァルト万歳!!


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