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北海道新聞2023年10月19日 18:55(10月19日 18:57更新)
伝統的工芸品の二風谷イタを長年制作し、経済産業大臣表彰を受けた高野繁広さん
【平取】町二風谷のアイヌ伝統工芸家の高野繁広さん(73)が、経済産業省が指定する伝統的工芸品「二風谷イタ(木の盆)」の普及に貢献したとして、本年度の経済産業大臣表彰(功労賞)を受けた。40年以上、アイヌ工芸品の魅力を発信し、後継者育成でも評価された。高野さんは「工芸品の作り手として認められたことで、若い工芸家の励みになればうれしい」と喜ぶ。
伝統的工芸品に携わる人の意欲向上や工芸品の振興を目的とした同分野の功労賞は2020年度に、町二風谷のアイヌ工芸家で二風谷民芸組合の貝沢守代表理事(58)が、道内で初めて選ばれた。同じ二風谷でアイヌ工芸に携わる高野さんは、これに続く快挙となった。本年度の功労賞は全国から高野さん含め41人が選ばれた。
二風谷イタは主にカツラやクルミを使った円形や四角い木製の盆で、食べ物を盛る道具。盆の内側にはアイヌ文様がデザインされ、高野さんは渦巻き状の「モレウノカ」やとげの形の「アイウシノカ」などの伝統文様を精巧に彫り込む。魚のうろこを模した「ウロコ彫り」の緻密なデザインは評価が高い。
高野さんは東京都日野市出身。高校卒業後に実家の電器店を4年間手伝い、22歳で、「東京から離れた空気の澄む地域で暮らそう」と所持金3万円で北海道に渡った。ある日ヒッチハイクの運転手の勧めで平取町二風谷を訪問。マキリ(小刀)に心を奪われた。
物づくりが好きで伝統工芸の職人になるのが夢だった高野さん。二風谷でアイヌ民族の木彫家で、貝沢さんの父の故守幸さんに頼み込み弟子となった。7年間修業し、守幸さんら先輩の作業を近くで見て技を覚え、資料館の展示品を見よう見まねで再現し夢中で腕を磨いた。
同郷の啓子さん(70)と結婚し、1980年に民芸店「高野民芸」を二風谷に開いた。夫婦でイタやマタンプシ(鉢巻き)などのアイヌ工芸品を販売している。
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(杉崎萌)
※「アイウシノカ」と「マタンプシ」のシは小さい字