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チャンネル桜、DHC…右派系ネット動画が「激戦区」になったワケ

2020-11-29 | アイヌ民族関連
現代ビジネス 11/28(土) 10:01
 2000年代から2010年代の日本のネット言論で大きな存在感を放ち、世論にも大きな影響を与えた「ネット右翼」。その通史を描き出す、文筆家・古谷経衡氏による野心的連載「ネット右翼十五年史」が2年の時を経て掲載再開!  今回分析するのは、右派メディアの中でも強い波及効果を持つ「動画メディア」の栄枯盛衰である。
ネット右翼の主軸は「アラフィフ」へ
図は筆者作成
 2002年に勃興したネット右翼の主要な「情報源」は当時から現在まで一貫してネット動画である。安倍内閣の継承を旗印にした菅内閣に交代しても、この傾向は全く変わらない。
 第二次安倍政権下、およびそれ以前の民主党政権下では、いわゆる「保守系雑誌」の隆盛が囁かれた。WAC社の『WiLL』が代表的だが、この雑誌は第二次安倍政権下の2016年春に事実上分裂し、元『WiLL』編集長の花田紀凱氏が飛鳥新社に移籍して『HANADA』を創刊する。一方、編集長が空席となった『WiLL』にはWAC社が刊行する『歴史通』編集長であった立林昭彦氏が就任した。
 『WiLL』分裂当初、「保守分裂」の様相を呈した二誌は読者を二分すると観測されたが、多少の振幅はあるにせよ、その後両者は産経新聞社の『正論』と合わせて、今や保守系雑誌の三巨頭として並び立っている。『WiLL』分裂によって保守系読者は細分化するどころか、これらのは却って市場を拡大したと思われる。
 ただし、ネット右翼は『WiLL』『HANADA』そして『正論』の三誌を併読しているとされがちだが、それは誤解である。1973年に創刊した『正論』の購読層は、古参の伝統的保守派で概ね60~70代以上。後発の『WiLL』『HANADA』はそれよりも読者年齢は低いが、おおむね50~60代以上が主軸となっている。
 2013年に私がネット右翼に大規模調査を実施した結果、ネット右翼の平均年齢は約38歳とでた。それから7年余りがたち、新陳代謝がほぼないネット右翼業界はさらに高齢化が進んでその平均年齢は45歳前後となっている。現在、彼らの主力はアラフィフである。
 しかしすでに述べた通り、『正論』『WiLL』『HANADA』の三大保守雑誌の購読者年齢に、ネット右翼のそれは一歩届かない「ヤング層」である。保守層やネット右翼の中で、これら三大保守雑誌を読んでいる者は少数である。それはすでに本連載で述べた通り、ネット右翼の構造的性格が起因している。
 ネット右翼は既存の保守系言論人の言説を「オウム返し」のように真似るだけの存在であり、より平易に言えば、いわゆる保守系言論人のファンにすぎず、彼らを宿主にしてその言説に寄生する存在だからである。もともと読書習慣が薄く、月刊誌を購読するという習慣そのものが希薄なネット右翼は、表紙や目次を見ることはあるかもしれないが、実のところ三大保守雑誌の主力行読者層とはなっていない。
 彼らの情報源は、保守系言論人が「動画」と「SNS」によって垂れ流す言説がほとんどすべてである。7年8か月続いた第二次安倍政権が終わり、菅内閣が発足したばかりであるが、実はこの間、ネット右翼の最大の情報源たる「右派系ネット動画」の世界は、代り映えのしない政界をよそに激変した。本稿ではその変遷を解説する。
チャンネル桜の成功
 まずネット右翼が好む右派系ネット動画の開祖は、2004年8月に開局した日本文化チャンネル桜(以下チャンネル桜)であった。
 チャンネル桜は、後述するDHCテレビよりは後発にスタートしたCS(衛星)放送局であるが、様々な経営努力の結果、おおむね2006年頃から日本で勃興しだしたYouTubeに目を付け、CS放送で流した番組内容の一部ないし全部を同サイトに転載する形で、一躍ネット右翼から注目を集めるようになった。さらに、ほぼ同時期にニコニコ動画(ドワンゴ)への転載も開始している。
 チャンネル桜の出演者陣は、それまで産経新聞と雑誌『正論』だけに自閉していた高齢の保守系言論人が主力で、ネットとの親和性は低いと思われていた。しかし、チャンネル桜はその古色蒼然たる保守系言論人の言説をそのまま動画としてアップロードし、これがかえって全く新しい手法として新鮮に受け止められた。
当初はそれほど「嫌韓」ではなかった
 いまでこそ右派系動画チャンネルは百花繚乱の勢いだが、ゼロ年代後半にこういった右派系オピニオンを、動画媒体に組織的に転載したのはチャンネル桜だけといってよい。こうして、高齢保守系言論人のオピニオンがそのままインターネットの世界に「輸出」される格好となり、彼らに無批判に寄生するネット右翼のオピニオンもまた、彼らと全く同じものに変質していった。
 その内容は「大東亜戦争肯定―反東京裁判史観」「対米追従」「嫌韓・反中・親台湾」「靖国神社参拝支持」「朝日新聞批判」「テレビ局批判」など、現在でも変わらず繰り返されているフレーズのオンパレードである。
 しかし、チャンネル桜草創期のメンバーは産経新聞・正論界隈出身の論客が多く、韓国に対しては比較的ではあるが融和的であった。これは、戦後の日本の保守が「反共」を旗印に韓国軍事政権と連携し、日本の保守系言論人の少なくない部分が大学生時代などに韓国に留学した経験を持つなど、韓国の保守派と交流を持っていたためである。
 実際、初期のチャンネル桜は「反中・親台湾」は旺盛でも「嫌韓」色はそこまで強烈という程ではなく、歴史修正的価値観に重きが置かれていた(もっとも、元在特会会長の桜井誠氏を繰り返し出演させるなど、「嫌韓」の定石を一応抑えることにも余念がなかった)。
 チャンネル桜が黄金時代を迎えたのは民主党政権時代の2009~2012年で、当時は他に競合動画が殆どなかったことから、その再生回数は月間で数百万回を軽く数えた。
 この頃、保守界隈もそれに寄生するネット右翼も、麻生政権の下野と民主党政権誕生によって、「反民主党」という共通目的のもと大同団結し、西部邁氏的な「反米・反グローバリズム保守」から、産経系の親米保守、経済右翼、ビジネス保守、ネット右翼、果ては事件師的性格を持つ怪しい輩も多数同局に集結した。
内輪揉めと崩壊
 私がチャンネル桜に初出演したのは2010年で、ちょうどネット右翼の黄金時代に重なる。彼らは政治団体をも包摂し、デモ活動や抗議活動をニコニコ動画やUSTREAM(2018年に無料プランを終了)で中継し、録画編集したものをYouTubeに転載するという手段で、雪だるま式に視聴者数を倍加させていった。
 2012年の自民党総裁選で町村派(当時呼称・清和会)の安倍晋三氏が「憲法改正」「尖閣諸島への公務員常駐」などタカ派路線を鮮明にすると、保守界隈もネット右翼界隈も安倍支持一色となった。
 とりわけチャンネル桜は安倍支持を強烈に打ち出し、この時期の「安倍待望論」を全面的にリードした。安倍氏が総裁選で石破茂氏を破って総裁になり、2012年12月の総裁選挙で政権を奪還すると、チャンネル桜はいよいよ「安倍応援団」の最大勢力のひとつとしてネット右翼に絶大な影響を与えた。しかしチャンネル桜の隆盛はおおよそこのあたりが絶頂であった。2014年2月の東京都知事選挙で、所謂「内輪揉め」が発生したのである。
 チャンネル桜中枢とその支持者は、同都知事選に立候補した元航空幕僚長・田母神俊雄氏の実質的な選対事務所を一手に引き受けた。同氏が奮闘したとはいえ主要四候補(舛添要一、宇都宮健児、細川護熙、田母神俊雄)の中で最下位の61万票に終わり、同年の衆院総選挙で次世代の党(当時)から立候補して落選するや、都知事選時に集めた寄付金の使途で揉め、チャンネル桜は田母神批判を先鋭にした。田母神氏自身は2016年4月に公職選挙法違反で逮捕された(翌年起訴され、2018年に一審を経て二審の懲役1年10か月・執行猶予5年の判決が確定)。これによりチャンネル桜と田母神氏の対立は決定的となった。
 この頃から、逮捕・起訴された側の田母神氏支持者とチャンネル桜中枢との対立が激化し、少なからぬ視聴者がチャンネル桜から離れたともされる。
台頭する「DHCチャンネル」
一方、第二次安倍政権が長期政権の様相を呈し始めるや、新しい大きな動きが活発化した。DHCチャンネルの隆盛である。
 DHCチャンネル自体は2004年に開局したチャンネル桜よりもはるかに早い1996年に開局していたCS局であったが、開局当時は保守系のオピニオンは少なく、自社製品の広報やカルチャー番組、政治的には無色のエンタメ番組が主力であった。それが第二次安倍政権誕生以降とりわけ急速に保守化し、CS放送局の中ではチャンネル桜と勢力を二分するまでに成長した。
 とりわけDHCチャンネルでヒットしたのは、2015年から放送が開始された『虎ノ門ニュース』(番組名には変遷がある)と『ニュース女子』である。後者はTOKYO MXや地方局の枠を買い取る形でも放送されたため、加速度的に視聴者数が増えた。
 チャンネル桜とDHCチャンネルの最大の違いは、バックにある資金力の違いであった。チャンネル桜は開局当初、有料チャンネルでの放送という形をとっていたが、それは創設者で現社長の水島総氏の私財を投じる形で行われていた。よってたちまち資金難に陥ると、視聴者からの寄付に頼る「二千人委員会方式」に切り替えた。
 「二千人委員会」とは、視聴者の中うち篤志家が1万円/月の寄付会員(年額12万円)になり、それを二千人集めることによって放送を続行するというもので、これにより放送自体はストリーミング放送等を除いては無料で行われた。
 一方、DHCチャンネルは母体が日本有数の化粧品会社であり、潤沢極まりない予算編成が可能である。無論、予算の多寡が番組の質を決定するものでは無いが、豪華なキャストやセットはそれまでの「手作り感」あふれるチャンネル桜と比べると斬新と映り、これによって2016年頃にはネット右翼の最大人気番組は『虎ノ門ニュース』となった。
 これと肩を並べる人気番組であった『ニュース女子』は、2017年1月に放送した沖縄の基地反対派に関するデマ報道でBPOから重大な倫理違反の指摘を受ける(2017年12月)と、翌2018年3月末にはTOKYO MXでの放送を終了した。これにより、ますます『虎ノ門ニュース』の比重は高まることになった。
このころ、チャンネル桜もDHCチャンネル(一部を除く)も、CS放送から続々と撤退する。まずDHCチャンネルが2017年3月にCS放送から撤退すると、チャンネル桜も同年10月に撤退した。これにより、両局は完全なYouTube動画放送局となったが、これはCS放送よりも、YouTubeにおける再放送や転載での視聴者が圧倒的に多かったためと推測される。右派系動画番組はYouTube専売で放送するのがもっとも商業的成果を挙げるという構造が、2017年には確立されたのである。
右派動画チャンネル乱立の時代へ
 ここから、雨後の筍の如く右派系YouTube動画局が誕生した。まず2017年2月に『文化人放送局』が開局すると、同年10月には『林原チャンネル』が開局。林原チャンネルはDHCチャンネル元社長の浜田マキ子氏が独立して開始したものである。
 2020年10月末現在、右派系動画チャンネルの登録者数トップはDHCチャンネルの約71万人、次いでチャンネル桜が50万人、そして後発の文化人チャンネルが約35万人で、個人チャンネルを除けばこの3つが右派系動画放送局の三巨頭となる(これ以外にも、株式会社ON THE BOARDが主催する個人チャンネルが2つと、櫻井よしこ氏が事実上の主宰となる言論チャンネルがあるが、後者については有料放送なので視聴登録総数は不明)。ネット右翼はこうした動画チャンネルを常に重複、並立して視聴しており、どれかを単独を視聴する事は少ない。
 第二次安倍政権下でこれら右派系動画群は一貫して「安倍応援団」の一翼を担った。とりわけ2015年頃を境に、DHCチャンネルの人気や登録者数がそれまで右派系動画放送局群で首位を堅守していたチャンネル桜を上回ると、DHCチャンネルのレギュラー出演者は元来ネットの外側で実績・人気のあった作家などで固められるようになり、さらにはその出演者の多くが安倍首相主催の『桜を見る会』などに招待されるなど、政治的発言力も増大していった。一方、チャンネル桜の出演者は同会に呼ばれないなど、2015年以降は右派系ネット動画の首位がチャンネル桜からDHCチャンネルに大きく交代し、業界の勢力図は激変して今に至っている。
「反安倍」に舵を切るメディアも登場
 これまで挙げた動画放送局群は第二次安倍政権誕生以降、親安倍で一致していたが、二番手以下に甘んじるようになったチャンネル桜は、概ね2019年頃から「反安倍」への方針転換を顕著にしたことも特徴的である。
 彼らは2012年の時点では「安倍応援団」の最前衛と目されていたが、次第に安倍政権の進めた外国人実習生制度(実質的な移民政策だと彼らは主張する)や、アイヌ政策(そもそもアイヌ民族は存在せず、それがゆえにアイヌの文化振興等は”利権”であると彼らは主張する)、規制改革などを批判し、反安倍・反グローバリズム保守に転換した。もっともその背景には、チャンネル桜が開局草創期から西部邁氏などの所謂「反米保守・反グローバリズム保守」などの出演者を包摂してきたからという理由もある。あるいは「反安倍→反菅の保守」という、ネット右翼においてはマイノリティの視聴者を引き付ける役割を担う、マーケティング上の要請もあるのかもしれない。
 概ね2015年以降、DHCチャンネルの「一強」が続く中、保守系言論人の多くがDHCチャンネル内での著書の宣伝に躍起となっており、この傾向はますます続くものとみられる。一方、2019年からは『WiLL』が独自に動画チャンネル『WiLL増刊号』を開設し、2020年10月時点で登録者数約18万人に達するなど、新興勢力の勃興も見られる。
 誰しもがYouTubeチャンネルを開設できるようになり、右派系ネット番組はまさにレッドオーシャンの時代を迎えている。以前の寄稿で示した通り、ネット右翼の実数は全国でおよそ200万人、最大でも250万人程度の規模とみられる。その全員が動画を見るわけではないため、せいぜい動画視聴者数の天井は7掛けの150万人程度、という市場規模であろう。
「内輪受け」追求の末に……
 新陳代謝のないネット右翼の総数は増えない。しかし、ネット右翼には中小零細企業の経営者や下級官吏、大企業の管理職、開業医などの中産階級も多く、ひとり頭の購買力は旺盛なので、各社はこぞってこのレッドオーシャンに参入し、それを雑誌・著書の購読に結び付けようと躍起になっている(――ただしすでに述べた通り、ネット右翼には読書習慣が希薄なためこの行為は著効していない)のがここ数年の状況である。全体のパイは広がらず、またアニメや漫画と違って海外市場というものが望めないので、畢竟各動画チャンネルの中では出演者の取り合いと対立が起こる。
 民主党政権という「巨大な共通の敵」を失って以降、保守業界、ネット右翼業界では数々の内紛や民事裁判が起こってきた。その都度、ネット右翼は対立するどちらかの側につき、敗れた側は保守業界から消えていった。前述の田母神氏がその典型である。まさに関ヶ原における西軍諸将の敗行軍が、保守業界のいたるところで発生している。彼らは保守業界、ネット右翼業界以外に通用する普遍的な言説を持たないため、ここから追放されることは即商業的恩恵の終焉を意味するのだ。
 こういった保守業界の興味深い内紛の実態は別稿に譲るとしても、右派系動画番組の生き残りをかけた戦いは、今後もますます熾烈の度を増していくものとみられる。
古谷 経衡(文筆家)
https://news.yahoo.co.jp/articles/0659684f62949e8f1b48d79f3f31e06a5aa3f249
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