毎日新聞2024/3/23 東京朝刊
有料記事498文字
(303BOOKS・1760円)
現代日本社会における差別についての優れたハンドブックである。
著者がアイヌであるからアイヌに関する事例が多いが、原理的にはこれはすべてのマイノリティーに通じる構造的な問題である。
だが著者はそれを「アイヌ問題」とは呼びたくない。それでは「仰々しいし、アイヌに問題があるみたいだし」。でアイヌと非アイヌの両方がかかえるすっきりしない思いを「アイヌもやもや」と名付けた。
差別という現象が明快に分析・記述されていることに感心したが、具体的な対策が社会に浸透するのが前途遼遠(りょうえん)なのも明らか。
マイノリティーはその事実を嫌でも意識させられるがマジョリティーは気がつきもしない。あなたは「異性愛者ですね」と言われて当惑するか反発するか。
壮健和民族(わみんぞく)異性愛男性に向かってマイノリティーが日常的な不利・不安・不満を言えば、批判されることになれていないマジョリティーは「しばしば感情を爆発させてしまいます」。
多くの英語の専門語が出てくるのは反差別の運動が海の向こうで始まったからだ。従って本書は世界的潮流の紹介としても優れている。(池澤夏樹・作家)