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Wi-Fiを巡って4人が死亡、違法金鉱夫が少女を強姦致死》ヤノマミ族から「文明」が奪い続けているものと「Wi-Fiが必需品になったワケ」

2022-05-28 | 先住民族関連
文春オンライン2022年05月27日 12時00分

《Wi-Fiを巡って4人が死亡、違法金鉱夫が少女を強姦致死》ヤノマミ族から「文明」が奪い続けているものと「Wi-Fiが必需品になったワケ」の画像
 3月31日、アメリカのワシントンポスト紙がこんな事件を報じた。3月20日、南米アマゾンでベネズエラ軍と先住民族が、Wi-Fiをめぐって争い、先住民族4人が死亡した、という内容だった。
 4月26日にも、ブラジル最北部、つまりベネズエラとの国境近くで、不法侵入の金鉱夫「ガリンペイロ」に暴行・強姦された先住民族の12歳の少女が死亡したとも報じられた。
 この先住民族とは、アマゾンの密林で狩猟と採集をして暮らすヤノマミ族のことだ。1万年以上にわたって独自の文化や風習を守り、彼らの日常には森や精霊がいまだ息づいている。2009年に放送されたNHKスペシャル「ヤノマミ 奥アマゾン 原初の森に生きる」でその存在を知ったという人も多いのではないだろうか。
 そんなヤノマミ族がなぜWi-Fiをめぐって軍と激しく争うに至ったのか。そしていま、彼らに一体何が起きているのか――。
 150日間彼らと同居し、その神秘の生活に迫った「ヤノマミ 奥アマゾン 原初の森に生きる」のディレクター国分拓氏が、その実態を解説する。
◆◆◆
■一度変わってしまえば、二度と“以前”に戻ることはない
 ヤノマミ族がWi-Fiを使っていた。人間の命が奪われたことより、こちらの方に驚いた人が多いのではないか。少なくとも、ソーシャルメディアの受け止め方はそうだった。
 私はと言えば、驚くことはなかったが、複雑な気持ちになった。
 原初の世界が文化的に変容するのは、きまって私たちの側からの圧による。善意、悪意は関係ない。ヤノマミ側が望んだかどうかも関係ない。私たちの側と恒常的な接触があり、文明側のモノの使い方を教える文明側の人間がいて、ヤノマミの側がその利用価値を認めれば、それまでなかったものがあっという間に広まる。Wi-Fiもそのひとつなのだろう。
 しかし、一度変わってしまえば、二度と“以前”に戻ることはない。その是非について、様々な意見がある。仕方のないことなのだ、という人もいる。彼らだって喜んでいる、と力説する人もいる。進化とはそういうものだ、と語る人もいる。私は、ただただ、複雑な気持ちになる。
■「文明」側との接触頻度による大きな違い
 ソーシャルメディアやウィキペディアには様々な誤解と誤謬があるので、私がこれまで実際に見聞きした範囲で、まずはヤノマミ族の実相から述べたい。
 当たり前のことだが、一口にヤノマミ族と言っても様々な集団が存在する。言葉も違えば家の形状も違う。が、それ以上に違うものがある。「暮らしぶり」と「持っているモノ」だ。
 違いを作るのは「文明」側との接触頻度である。例えば、ヤノマミの中には、今なお裸で、私たちと交わろうとせず、獲物を追って移動を繰り返す集団が存在する。ほとんどイゾラド(=文明社会と未接触の先住民)である。ヤノマミの友人がこう言っていた。
「彼らはヤノマミもナプ(ヤノマミ以外の人間)も敵視する。近くまで行ったことがあるが怖くて逃げた」
 一方で、大河のほとりにある集落(ベネズエラ側に多い)では街場との往来が容易なため暮らしぶりは私たちとさほど変わらない。私が同居した集落にベネズエラのヤノマミが表敬訪問に来たことがあったが、セスナから降り立った男の姿を今もはっきり覚えている。ジャケットを羽織り、真っ赤なネクタイを結び、ぴかぴかの革靴を履いていたからだ。彼はベネズエラ側のリーダーのひとりで、文明側の正装で訪れることが礼儀だと考えているようだった。それほど、文明側との接触頻度によって大きな違いが生まれる。
■シャーマニズムなどの伝統が消滅しかかっている集落も
 分かっていないことも多い。私が持っている最新版の公的資料には、ブラジル側のヤノマミは人口およそ26,000人、集落の数は300と書かれている。しかし、実態が分かっているのは政府機関が恒常的な接触を続けている10カ所ほどで、他は、住んでいる場所も人口も分からず(一部のヤノマミは定期的に移動する。そうなると絶望的に分からなくなる)、ヤノマミ側からの情報をもとに推量しているに過ぎない。
 それでも、ブラジルとベネズエラに生きるヤノマミ族は南米の先住民の中で1、2の人口を有していることは確かだろう。しかも、文明化が著しい先住民の社会にあって、伝統的な生活を持続させている数少ない集団でもあることも間違いない。私は4カ所の集落に行ったことがあるが、そのすべてで自給自足の暮らしが堅持されていた(もはや、アマゾンの先住民であっても、完全に自給自足を続ける集団は稀である)。
 とはいえ、彼らは文明側と無縁ではない。ヤノマミの集落に「文明のモノ」が流れ込んでから、既に長い時間が過ぎている。最初は鉄器、次に服やサンダル、さらには薬品に宗教。シャーマニズムなどの伝統が消滅しかかっている集落も少なくない。医薬品の劇的な効き目を目の当たりにしたとき、シャーマンに代わって「医療」が新しい信仰となる。
■次々に「文明のモノ」が流入
 では、Wi-Fiはどうなのか。
 20カ所以上の集落に行ったことがあるというヤノマミに聞いてみた。彼は若い時から文明側の学校で学び、現在は先住民医療を請け負う公的機関に勤めている。その友人が言うには、ブラジル内のヤノマミ族保護区でWi-Fiがある集落は3カ所だという。近くに軍が駐屯している集落、伝道所がある集落、大河のほとりにあり上流に不法の金鉱山が密集する集落、である。大河のほとりにある集落(パリミ)に最近までいたというフォトジャーナリストによれば、Wi-Fiは僻地の救急医療のために使われているが(以前は無線を使っていたが、Wi-Fiの方が早く正確に情報を伝達できる)、それ以上に「彼らは外の世界と繋がりたがっている。Wi-Fiはそれを容易に可能にするツールだ」と話してくれた。
 私が同居をしたワトリキ(人口およそ200人)には「Wi-Fiはまだない」という話だった。しかし、それも時間の問題のような気がする。Wi-Fiに限らず、政府機関の人間が常駐し、医療団も定期的に入り、支援をするNGOの人間が頻繁に出入りする集落(言い方を変えれば“管理下”にある集落)では、次々に「文明のモノ」が流入し、時に常態化する。医療機器、PC、様々な薬品、マッチ、ブラジル的食事、流行歌、ポルトガル語、今どきのファッション、握手やハグなどの習慣。文明の側は様々なモノを集落に持ち込んでくる。
■「不要なモノ」と「なくてはならないモノ」
 人間誰しも好奇心がある。純朴素朴であればあるほど、珍しいモノを見れば触れてみたくなり、欲しくもなり、真似したくなり、使い方を知りたくなる。例えば、私が同居したワトリキに人類学者がやってきたことがあった。彼はDVDプレーヤーを持ってきていて、夜な夜な映画やドキュメンタリーを見ていた。何人かのヤノマミが興味を持った。皆、若い男だった。近づいてきて機械をいじり始めた。学者が操作方法を教えるとすぐに覚えた。DVDプレーヤーの回りにいつも大勢のヤノマミがいた。
 幸か不幸か、「流行」は長くは続かなかった。
 文明のモノが常態化するには一定のルールがあるようだった。おそらく、基準は単純明快だ。そのモノが、森を生きるために必要かどうか、である。DVDプレーヤーが娯楽や暇潰し以上のモノ、森の暮らしに必要なモノであれば、彼らは使い続けたに違いない。ナイフやサンダルやパンツやマッチや銃(ワトリキに銃はなかったが、誰かが持ち込むか与えればすぐに定着するはずだ)ではなかったのだ。
 ならば、事件が起きた集落にとってWi-Fiとはどのようなモノだったのか。DVDプレーヤーのように「不要なモノ」だったのか、ナイフやマッチや銃と同様に「なくてはならないモノ」となったのか。
 残念ながら、情報はほとんどなく本当のところは分からない。だから、類推するしかない。
■弓矢を持参することの本気度
 私はこう考える。
 彼らは大切なモノを奪われたとき、命を賭して抗議をする。私が集落の誰かを殺めたり、女に手を出したり、全員のナイフを盗んだとしたなら、おそらく弓矢を持った男たちに囲まれ、非難され、最終的には殺されただろう。とすれば、ヤノマミが一方的かつ衝動的に殺されたのではなく、両者の間で激しい争いがあった末の殺人だったとすれば、その集落のヤノマミにとって、Wi-Fiとは命を賭けても守るべき「なくてはならないモノ」だったと考えられる。
 抗議に行ったとき彼らが弓矢を持っていたのかどうかで、さらなる類推が可能だ。
 狩りでもないのに弓矢を持参することは、私たちの世界で言えば最後通告、あるいは宣戦布告とほぼ同義である。軍隊に抗議に行ったときヤノマミの男たちが弓矢を持っていて、部屋の中に入ったあとも(話し合いが室内で行われたとするならば)離さなかったとすれば、ヤノマミは殺し合いも辞さないほど本気だったと言える。
 逆に、持っていかなかった、持って部屋には入らなかったとすれば、軍隊側の過剰防衛かまったく別の理由で(ガリンペイロ化した軍隊が最初から殺すつもりだった可能性も捨てきれないと思う)ヤノマミを殺したのだろう。
 いずれにせよ、やるせない事件であることに変わりはない。
■違法に侵入したガリンペイロが、女性を強姦し殺害
 人が死んでいることもやるせないし、ニュースの伝わり方もやるせない。仮に、事件の原因がWi-Fiに関することではなかったとするならば、これほど耳目を集めるニュースになっただろうか。
 私たちの社会には、ヤノマミがWi-Fiを使っていることへの違和感があった。そして、そう思ってしまう原因の一部は、明らかに私たちが制作したテレビドキュメンタリーにある。それが、一番やるせない。
 ヤノマミ族の渉外団体であるHUTUKARA(ホトカラ。彼らの言葉で“天空”を意味する)が先月「違法に侵入したガリンペイロが先住民保護区で女性を強姦し殺している」と抗議の声明を出した。これに関しても短く触れたい。
 違法であろうとなかろうと、侵入者は先住者の土地を奪い、人間を犯し、殺してきた。これまで何度、同じ話を聞いてきたことか。
■人口100人ほどの集落に10人を超える混血児が
 アワ族という先住民のある村(マラニョン州アルト・トゥリアス集落)に行ったときのことだ。その集落は一番近い街場(人口は1万人ほど)から60㎞ほどのところにあり、乾期であれば陸路で行くことができる。言うなれば、ブラジル社会に組み込まれる寸前の集落だった。
 常駐していた政府機関は予算不足から20年前ほど前に撤退。時を同じくして、無許可の伐採人が大勢で入り込むようになった。私が聞いた限り、侵入者の手口はすべて同じだ。彼らは「友好の証」として男たちに酒を勧める。
 先住民伝統の酒であろうはずはなく、ピンガなどアルコール度数の高い蒸留酒である。強い酒を飲み慣れていない男たちが次々につぶれていく。その場に女だけが残る。そして、襲われる。連日同じことが繰り返される。未婚の女性もいれば、未成年の女性もいれば、夫がいる女性もいる。何カ月後かに子供が生まれる。先住民と黒人、先住民と白人の混血児が生まれる。私が訪れたのは2017年だが、人口100人ほどの集落には10人を超える混血児がいた。
 1990年代まで無許可の伐採会社を経営していた男にも話を聞いたことがある。男はイゾラドが生存する森で、人を使ってマホガニーを伐採していた。男たちが森から戻ってきたとき、口々にこう言った。
「森に素っ裸の男たちがいる。俺たちのナイフを盗む。服も盗む。邪魔だから殺していいか」
 経営者は私に、「もちろん、殺してはダメだと命じた」と言った。私はその言葉を信用できない。本当にそう言ったとしても、現場の男たちが命令を守ったかどうか、それも信用できない。
■密林での性交渉を面白おかしく語るガリンペイロ
 政府の報告によれば、少なくとも1970年代まで、その一帯には部族名不明・言語不明の集団(人数は不明だが住居の大きさや囲炉裏の数から少なくともひと家族以上)が生存していた。しかし、1986年には「ふたりだけ」になっていた(その“ふたり”は政府によってのちに“アウレとアウラ”と名付けられる)。調査報告書にはこう記されている。
「アウレとアウラは、かつて生存していた未知の部族の“最後の生存者”である」
 各地を転々としたガリンペイロ(金鉱掘り)にも話を聞いた。ガリンペイロは法螺話が好きなので話半分なのだが、何人かが先住民保護区内での不法の採掘経験があり、「女には不自由しなかった」と答えた。男たちは下劣な描写をふんだんに交えて密林での性交渉を面白おかしく語った。そして最後には必ず、「レイプじゃないぜ。俺がモテるって話だ」と言ってゲラゲラと笑った。
■「合法」的に開発業者を送り込もうとする政府
 現代文明には繁栄から遠く離れた「吹き溜まり」がある(先住民社会にはそのような場所はない)。都会にもあるし周縁部にもあるし森の中にもある。
 南米の場合、その最たる場所がファベーラ(都市部の貧民街。リオ・デ・ジャネイロの場合は人口の10%以上がファベーラに暮らす)とアマゾンだ。ファベーラは麻薬密売組織の拠点となっているし、アマゾンでも流入者による資源略奪が後を絶たない。何も持たない人たちが貧民街でドラッグを売り、アマゾンでは行き場のない人たちが、カネのため、生きるため、あるいは一攫千金のために森に分け入る。それを防ごうとしている人たちも少なからず存在するが、もはや、善意の努力でどうにかなる段階ではない。そもそも、アマゾンはあまりに広大で可視化することさえ難しい。今日も、侵入者は先住者の土地を奪い、犯し、殺しているかもしれないのに、そうした惨状が私たちの元に届くことはほとんどない。
 人権問題であると同時に、構造的な貧困問題なのだと思う。にもかかわらず、政府は重い腰をあげない。森の奥でいくら惨劇が起きようと、被害者の声を聞こうともしない。そればかりか、違法なガリンペイロや伐採人を追い出して、「合法」的に開発業者を送り込もうと画策している。そんなことが現実になれば、たとえ「合法」だろうが、同じことが起きる。
「合法」的に入り込んだ連中が、奪い、犯し、殺す。
 コロンブスが南米大陸にやってきて500年余り。森の奥では、同じ悲劇が永続的に繰り返されている。いい加減、私たちの社会は自覚すべきだ。ヤノマミから発せられる悲痛な声を加害側として受け止めるべきだ。今、強くそう思う。
写真提供=国分拓 撮影=Eduard Makino
《“原初の森”殺戮のリアル》ヤノマミ族を脅かす国家ぐるみの違法金採掘、森での殺戮、女性への性暴力…「私たちは森で平和に暮らしたいだけ」 へ続く
(国分 拓/Webオリジナル(特集班))
https://news.nifty.com/article/item/neta/12113-1656250/
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