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樹皮衣や木綿衣に施された美しい刺繍や

2021-07-28 | アイヌ民族関連
装飾品で触れるアイヌの美意識
アートアジェンダ2021/07/27
《色置裂紋木綿衣(ルウンペ)》 早稲田大学會津八一記念博物館蔵
渋谷区立松濤美術館で開催中の「アイヌの装いとハレの日の着物」展覧会レポート
初夏の東京・渋谷。道玄坂を上り喧騒を抜けると、落ち着いた松濤エリアに渋谷区立松濤美術館が姿を現す。現在、「アイヌの装いとハレの日の着物」展 が開催されている。同館の設計を手掛けた建築家の白井晟一によって紅雲石(こううんせき)と名付けられた花崗岩による重厚なファサードが印象的なエントランスに足を踏み入れた。
副題に「国立アイヌ民族博物館の開館によせて」とあるように、北海道・白老町にある民族共生象徴空間「ウポポイ」、そして、国立アイヌ民族博物館 が2020年7月に開館してから、ちょうど1年が経つ。コロナ禍による影響はあるものの、入場者数は既に25万人を超えている。
今回の展示は、国立アイヌ民族博物館のほか、東京国立博物館、日本民藝館等の収蔵品も含むアイヌの衣装を一堂に会した貴重な展示である。普段あまり公開されない早稲田大学會津八一記念博物館のコレクションが見られることも魅力の一つである。
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
アイヌの装いとハレの日の着物 ―国立アイヌ民族博物館の開館によせて
開催美術館:渋谷区立松濤美術館
開催期間:2021年6月26日(土)〜2021年8月9日(月・振)
アイヌ文化は、大きく3つの地域別に語られることが多い。
北海道及び東北に居住した「北海道アイヌ」、サハリン南部を中心とした「樺太アイヌ」、クリル列島北部周辺の「千島アイヌ」に分けられる。
地域ごとに植生も異なり、それが衣服の文化にも大きく影響した。イラクサなどを使用したテタラペという草皮衣は主に樺太アイヌ、オヒョウニレやシナノキなどを使用した樹皮衣であるアットゥㇱ(厚司)は主に北海道アイヌを中心として広く根付いていった。今でも北海道の地名に厚別、厚田、厚床など、オヒョウニレの樹皮を表すアイヌ語「アッ」(樹木はアッニ)に由来する地名が多く残っており、各地に自生していたことが分かる(地名の由来について諸説ある地域もある)。
古くはシカやクマなどの獣皮衣のほか、サケなどの魚皮衣(主に樺太)、ワシなどの鳥皮衣(主に千島)など地域の自然を反映した様々な生地の衣服も存在するが、本展示では刺繍の美しい樹皮衣や木綿衣、装飾品などを中心に公開されている。
会場入口から進むと、いくつものアイヌの衣装が整然と奥へと続いていく。各々に美しく特徴的な文様に目を惹かれる。寒冷で綿作ができない北方圏においても江戸時代後半には日本などとの交易により木綿の入手が容易になった。そのため、木綿衣の普及によって新たな刺繍文化も拡がりを見せていった。
加飾によって衣服の呼び名が異なるが、今回の展示ではアットゥㇱのほか、特に北海道南部・噴火湾周辺の色裂置文衣と言われるルウンペを多く紹介している。ルウンペは、アイヌ語で直訳すると「道のあるもの」と言われ、まさに「道」のように細い布地を縫い付けて、その上に糸で刺繍を施してある。色合い、意匠も様々で、豊かな美的感覚をその場で比較できるのが今回の展示の醍醐味でもある。
モレウ(渦巻文様)、アイウシ(棘状文様)などのアイヌの文様には魔除けの意味があると紹介されることが多いが、学術的には解明されていない。アイヌの文様は、各家庭の暮らしが紡いできた美学である。そのため、家族間もしくは小さなコミュニティでの言い伝えは否定しないものの、社会共通の意味合いや見解が広く流布していなかった可能性は高い。しかし、芸術的とも言える美しい文様を眺めていると、そこに何らかの物語を感じずにはいられないのもアイヌ文様の魅力と言える。また、一見左右対称に見える意匠も、実は一部が意図的に非対称となっているものがある。この美意識も、完璧な対称物など存在しない自然の中で育まれたアイヌ文化の美学と論じる説がある。衣装を眺めていて、ふと小さな非対称文様を見つけると、なぜかそれが全体的なバランスとしてしっくりとくる意匠に見えてくる。
今回の展示では、日本、中国、ロシアなど、様々な交易品を柔軟に受け入れ、新たな文化として定着させていたことにも驚かされる。カパラミㇷ゚と呼ばれる木綿衣には、扇が描かれた和風の布地が使われており、アイヌ文様と見事に調和したアクセントになっている。また、日本の陣羽織から派生し、ハレの日に羽織ったと言われるチンパオリ。蝦夷錦と呼ばれる山丹交易の中国・清朝の生地なども使われた。
江戸時代後期の蠣崎波響の作画「夷酋列像」では、アイヌの長老らが山丹服やロシアのコートを羽織っているが、実際にこういった着用はしておらず政治的に異文化の誇張として描かれたものと言われる。しかし、展示のチンパオリは実際にアイヌ儀礼などで取り入れられてきたものであり、いわゆる伝統デザインとはまた違った美意識の存在が確認できる。
また、装飾品においても同様である。ニンカリと呼ばれる耳飾りには、ロシアの通貨コペイカが使われているものなど、時代に合わせて新しいものを取り込んできた遊び心が感じられる。
こうした交易の外来品は、アイヌの生活文化に広く根付いており、例えば日本の漆器の一つ行器(ほかい)なども、アイヌ語でシントコと呼ばれ、重要な儀式では必ず用いられるほど定着したものも多い。孤立した北国の厳しい自然の中で独自に発展してきたイメージの強いアイヌ文化だが、実際は交易により異文化を巧みに取り入れ、世界とともに新たな文化を育んできた歴史が、展示からも実感できる。
また、数々の衣装群には、上武やす子氏や貝澤雪子氏など、現代作家の作品も紹介されている。これは、アイヌの服飾文化が過去から連綿と受け継がれていること、そして時代に合わせた新しい色合い、デザインが生まれ続けていることを認識させられる。なお、北海道では、アイヌ文化の礎となる植生や環境を維持するために、イオル(伝統的生活空間)再生事業が進められており、オヒョウニレやヨシなどアイヌ文化に有用な植物等の保護・育成なども行われている。
渋谷という土地柄ゆえファッション関係者も多い中、昨年の日本民藝館のアイヌ工芸展同様に、漫画「ゴールデンカムイ」などからアイヌ文化に惹かれて来た若い来館者も増えていると聞く。一昨年、大英博物館の「マンガ展」では、ゴールデンカムイの主人公の少女アシㇼパが公式Twitterの表紙を飾り話題になった。この作品は緻密なアイヌ民俗描写としてもとても興味深い。今回の衣服の展示でも、例えば背面から展示されている着物を見るときに、漫画から知り得たアイヌの日常の仕草の一つがふと思い出された。主人公アシㇼパのフチ(祖母)が貰い物に感謝をする際に、首の後ろの襟上あたりに触れ、自分のトゥレンペ(憑神)にお供えをするシーンである。実際にアイヌの人々はこのトゥレンペを日常的に意識し大切にしていたと言われる。展示された衣服に袖を通した人も、この襟上あたりに触れていたかも知れないと想像するだけで、美しい文様が暮らしに息づく人々の豊かな日常を思い起こさせる。
こうしたアイヌへの新しいまなざしの中で、アイヌ文化の色々な側面を感じられる展示が増えている。7月17日からは、東京ステーションギャラリーにて、希代のアイヌ彫刻家・藤戸竹喜の大規模な彫刻展が開催されている。木彫り熊だけではない、動物や人物への愛情溢れる芸術作品の数々に息を飲む。晩年の連作「狼と少年の物語」は、親しみやすいストーリーとともに、切なく健気な少年の思い、そして滅びゆく狼の困惑しているような表情一つ一つが胸を打つ必見の作品である。
美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ 展覧会情報
木彫り熊の申し子 藤戸竹喜 アイヌであればこそ
開催美術館:東京ステーションギャラリー
開催期間:2021年7月17日(土)〜2021年9月26日(日)
国立アイヌ民族博物館の設立によって更に注目されるアイヌ文化。歴史的、社会的にこれまで目が向けられることのなかったものも多くある。
アイヌの伝統文様は美しい。しかし、これはアイヌ文化をイメージする一つのアイコンに過ぎない。ぜひ現在、東京・渋谷で開催中の 展覧会「アイヌの装いとハレの日の着物」で、アイヌの衣装デザインを楽しみながら、刺繍の一針一針に込められたアイヌの人々の思いに触れてほしい。
https://www.artagenda.jp/feature/news/20210727
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