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「金カム実写化は無理じゃない?」から一転…映画『ゴールデンカムイ』を成功させた“2人の男”の正体「業界で異例のことを…」

2024-02-10 | アイヌ民族関連

 文春オンライン02/09 17:10

 映画『ゴールデンカムイ』が大ヒットしている。

【「原作そっくり」と話題】山田杏奈演じるアイヌの少女・アシリパ

 1月19日に公開されると、わずか17日間で観客動員数111万人、興行収入16.3億円を突破。おそらく今後もロングランとなり、マンガの実写映画史にその名を刻む作品となるのではないだろうか。(記念すべき作品を「映画館で観た!」と言うために、ぜひ今のうちに映画館に行ってほしい!)

1月19日に全国公開された映画『ゴールデンカムイ』(映画『ゴールデンカムイ』公式Xより)

 なぜ映画『ゴールデンカムイ』は、「人気マンガの映像化」というプレッシャーをはねのけ、まごうことなき傑作になったのか。その背景には、本作を「ダイジェスト映画」にしなかったという英断が潜んでいる。成功を収めた最大の理由は、原作の完成度をそのまま丁寧に映画に移し替えたことにあった。

◆ ◆ ◆

全31巻の大長編ストーリーを2時間の映画に

『週刊ヤングジャンプ』で2014年から2022年にかけて連載されたマンガ『ゴールデンカムイ』(野田サトル/集英社)は、日露戦争後の北海道を舞台にした、元陸軍兵の杉元佐一とアイヌの少女・アシリパ(リは小文字)の「金塊探し」の物語。全31巻にわたる長編ストーリーである。

 その長さをかけるに値するほど、『ゴールデンカムイ』の展開の密度は濃い。とくに後半訪れるクライマックスには「そこでこう来るか!」と息をのんだ読者も多いはずだ。

実写化は「無理じゃない?」と…

 そんな『ゴールデンカムイ』を実写映画にするという。第一報を耳にした時、正直、筆者は不安に思った。「あの長い物語を、2時間の実写映画にする……? 無理じゃない?」と苦笑したのだ。

 長編マンガの『ゴールデンカムイ』をもし2時間の映画にするならば、どう考えても「ダイジェスト版」にならざるを得ないからだ。

「ダイジェスト版」とはどういうことか。メディアミックス作品を見てきた方ならば、一度は「ああ、あれね」と苦笑してもらえるのではないか。

 つまり作品の主要な展開は変えていないし、キャラクターや重要な台詞は登場しているものの、どうしても素早く次の展開に向かってしまうので、物語のカタルシスが薄く「ただあらすじを解説しているだけ」に見えてしまう――そんな失敗例のことだ。

メディアミックスに対して原作ファンが望むもの

 中には、映像化の際に原作のエッセンスをまるっきり変更してしまう作品もある。だから原作の要素を変えないだけ、「ダイジェスト版」でもいいのかもしれない。しかし、だ。観客が映像化に求めているのはそんなことではない。

 原作が映像化されたときに、読者や観客が望むもの。それは、「メディアミックスによって、よりたくさんの人に届き、『こんなに面白い物語があったんだ。知らなかった!』と言ってもらえる作品になること」だ。

『名探偵コナン』『テニスの王子様』『あさきゆめみし』…メディアミックスの成功例

 たとえば『名探偵コナン』(青山剛昌/小学館)はアニメになったことで、たくさんの人に「名探偵コナン」というキャラクターの魅力が伝わった。『テニスの王子様』(許斐剛/集英社)はミュージカル作品として舞台化されたことで、「テニミュ」としても親しまれるようになった。『源氏物語』は『あさきゆめみし』(大和和紀/講談社)としてマンガ化されたことで、より多様に古典の魅力が知られるようになったのだ。原作ファンがメディアミックスに求めているのは、このような現象だろう。

 もちろんメディアミックスされた結果、原作の要素を削ぎ落としたり、あるいは逆に原作にない要素を足したりすることは多々ある。たとえば『あさきゆめみし』を読んだ後に『源氏物語』を読むと「えっ、この場面って大和和紀さんの創作だったの!?」と驚く(筆者もそうだ)。舞台版『テニスの王子様』は当初、原作に登場する女性キャラクターを登場させなかったことで知られている。

 このような改変ゆえに、原作ファンからしたら「やっぱり原作が一番だ」と思うこともあって当然だろう。しかし、たとえそうであっても、メディアミックスによって、たくさんのファンを掴み、それゆえに原作の価値も、楽しめる期間も増える――それこそがメディアミックスの理想であるはずなのだ。

 だからこそ、映像化にあたり「長いストーリーの要素だけを紹介する、ただのダイジェスト版」になってしまうのは残念だ。それではなかなか新しいファンを掴めないから。

 さて、そのような意味で映画『ゴールデンカムイ』はひとつの映像化の成功例になった。なぜか。

※次のページから、映画『ゴールデンカムイ』の内容の一部に触れています。

2時間の映画で描かれたものは…

 映画『ゴールデンカムイ』の映像化が成功した理由。それは2時間の映画の構成が、マンガの序盤のみを描くことに限ったからである。

 全31巻ある原作の、たった3巻のエピソードを、2時間かけて描く。

 この挑戦は、見事に成功した。アクションシーンやアイヌ文化の豊饒さを丹念に映し出し、映画という新たな形で『ゴールデンカムイ』という作品の魅力を提示した。

 たとえば映画冒頭、日露戦争でもっとも過酷だったといわれる203高地の戦いのシーンが挿入される。山﨑賢人演じる主人公・杉元に「不死身の杉元」の異名がつけられる契機となった舞台だ。

 原作では何度も回想で反芻されるこの203高地の場面を、本作は迫力たっぷりに撮ってみせた。杉元がどのような戦いぶりだったのか、私たちは映画館のスクリーンで間近に見られるのだ。

原作でおなじみの「食べる」場面も

 さらに山田杏奈演じるアシリパが、アイヌの村に帰る場面では、アイヌ文化をじっくりと美しく撮ってみせる。原作ではおなじみの「食べる」場面もしっかり存在する。

 このように、埋蔵金争奪バトルという本筋だけを追いかけていると、零れ落ちてしまう原作の魅力――日露戦争の描写や北海道の熊の登場、そしてアイヌ文化の豊饒さ――を映画はしっかり時間をとって、スクリーンで見せてくれる。だからこそ私たちはこの物語の面白さに気づくことができるのだ。

 日露戦争やアイヌ文化を映すシーンに「尺を使うことができた」のは、映像化する部分を原作序盤のみにとどめたからだろう。なぜ映画『ゴールデンカムイ』は、「まずは原作の序盤だけを映像化する」という選択を取ることができたのだろう? そこには、本作の脚本家と監督が関わってきた、日本の映像エンタメの歴史が背景としてある。

映画『キングダム』シリーズ成功させた脚本家の手腕

 たとえば本作の脚本を担当する黒岩勉は、『ONE PIECE FILM RED』、『キングダム』(佐藤信介・原泰久と共同執筆)、『キングダム2 遥かなる大地へ』『キングダム 運命の炎』(ともに原泰久と共同執筆)といった、マンガ原作の映画化を成功させてきた脚本家である。

 とくに『キングダム』シリーズは、まさに「長編マンガを、数作かけて映画化する」という手法を取っていた。この前例があったからこそ、『ゴールデンカムイ』も「まずは原作マンガの3巻までを描く」という選択を取ることができたのではないだろうか。

「同じ世界観のなかで何作も生み出す」ことに長けた久保監督

 また監督の久保茂昭は、『HiGH&LOW』シリーズの監督として知られている。「ハイロー」として熱狂的なファンを生んだこの作品の特徴は、「ひとつの世界観で、テレビドラマや映画が何作も続いている」ことにある。

 これは日本のテレビドラマ業界においては異例のことだ。海外の長編ドラマでは、数シリーズをまたぎ展開する例はしばしばある(たとえば『ゲーム・オブ・スローンズ』はシーズン8まで辿り着いている)。しかし昨今の日本のドラマでは、たとえシリーズをまたいだとしても、続編は1~2作で終わることが多い。

 そんな状況にあって、『HiGH&LOW』シリーズだけが異質なのだ。『HiGH&LOW』シリーズだけで映画を7本も作っている久保は、現在日本でもっとも「同じ世界観のなかで、さまざまな登場人物に焦点を当てながら、何作も映画やドラマを生み出す」手法を操るのに長けた監督なのである。

 長編マンガ実写化のノウハウが詰まった脚本と、シリーズものとして構成するノウハウが詰まった映像。その2つが交差したところに、映画『ゴールデンカムイ』は存在する。本作が高い評価を受けているのには、こうした2人のプロフェッショナルが携わっているという背景があるのだろう。

 とはいえ、ノウハウだけではもちろん映画は成功しない。真冬の北海道で撮影されたというスタッフや俳優たちの本作に賭ける熱量が、スクリーン越しに伝わってくる。おそらくこの先、続編も制作され、『ゴールデンカムイ』はマンガの実写映画化の歴史に残る作品になるはずだ。

 このような作品が生まれたという奇跡を、ぜひ映画館で目撃してほしい。

(三宅 香帆)

https://article.auone.jp/detail/1/5/9/136_9_r_20240209_1707466295422661

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