山陰中央新報2024/11/17 11:39
赤だ。怒りの赤。芸術家のジャッキー・オルソン(60)にとっては大地とつながる色でもある。だからキャンバスに柳の樹皮を植え、手のひらを押しつける。「手形は殺された先住民女性たちの象徴だ。今も続く暴力に抗議する意味がある」
カナダ西部ユーコン準州に暮らす先住民トロンデック・フェチンの一員であるジャッキーは「赤い手」と題した作品について説明する。カナダでは数千人の先住民女性らが行方不明になったり殺されたりした。入植者に土地を奪われ、尊厳を踏みにじられた記憶も残る。
だが立ち止まってばかりはいられない。彼らにとって“負の遺産”であるゴールドラッシュ時代の中心都市ドーソンなどが世界遺産に登録される過程では、地域のリーダーとして先住民文化を反映するよう声を上げた。「逆境を乗り越えて生き残った歴史を伝えたい」と訴える。
▽差別と貧困
山あいの氷河に発してベーリング海に流れ込むユーコン川。トロンデック・フェチンはその流域を移動しながらサケなどを取って暮らしてきた。
1896年にドーソン近郊で金が見つかり、一獲千金を夢見る入植者が押し寄せた。川が荒らされてサケが取れなくなり生活が一変した。入植者に追われるように先祖伝来の土地を離れ、下流の居留地に移り住んだ。
ユーコンのゴールドラッシュは数年で終わり、活況を呈...
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