(MSN産経ニュース 2010.5.1 18:00)
「日本の調査捕鯨について、調査内容や商業捕鯨との違いを教えてください。調査目的で何百頭も捕獲する必要はあるのでしょうか。また、日本への妨害行為がよく話題になりますが、ほかの国への妨害はないのでしょうか」=川崎市中原区の男性会社員(39)
目標達成は一度だけ
現在、世界で行われている主な捕鯨は、国際捕鯨取締条約に基づく日本などの「調査捕鯨」や米国など少数民族に認められた「先住民生存捕鯨」のほか、同条約へ異議を申し立ててノルウェーなどが続ける「商業捕鯨」がある。調査捕鯨は国際捕鯨委員会(IWC)が認める範囲で行われ、成果も報告される。
日本の調査開始のきっかけは1982(昭和57)年、クジラの生息数など鯨類資源の管理に必要な科学的データが不足しているとして、商業捕鯨の中止が決まったことだ。日本はデータを集め、将来は食料として持続的に鯨類資源を活用するため、1987(同62)年に調査を開始した。
調査は主に12月~翌年3月の南極海と5~9月の北西太平洋で、国の許可を受けた「日本鯨類研究所」(東京都中央区)が行う。内容は生息数や年齢、成長の状態、何を食べているかなど。クジラと生態系のかかわりなどが分かる。
捕獲するのは、クジラを解体しなければ得られない胃の内容物などが調査に必要なためだ。現在の捕獲目標はミンククジラが南極海では850頭(前後10%)、北西太平洋では220頭=図参照。目標は統計的に有意な結果を得るために専門家が算出したもので、鯨類研究所は「必要最低限の数」と説明。最も、妨害行為や自粛などで、南極海では現行計画の目標を達成したことは1度しかない。
食べるのは「義務」
成果として、南極海でのザトウクジラなど大型鯨類の増加や、鯨肉に汚染物質がほとんど含まれていないことが判明。日本周辺の北西太平洋では各種のクジラが豊富で、ミンククジラが初夏にはカタクチイワシ、夏にはサンマと、旬の魚を大量に食べていることも明らかになっている。
条約で調査捕鯨の捕獲物を利用することが義務づけられているため、捕獲されたクジラの肉は市場で販売される。売り上げは調査費用に充てられる。
商業目的で調査をしているのではないかという批判もあるが、捕鯨関係の団体などでつくる日本捕鯨協会(中央区)の久保好(このむ)事務局長は「商業捕鯨は効率良く最も大きいクジラを捕るが、調査ではわざわざ無作為に群れから抽出する。批判は当たらない」と説明する。
国際ルールにのっとって行われている日本の調査捕鯨だが、今季の南極海の調査捕鯨でも環境保護を標榜(ひようぼう)する米団体「シーシェパード(SS)」による妨害行為が繰り返された。久保氏は「SSはノルウェーの商業捕鯨やカナダのアザラシ猟なども妨害したことがあるが、日本への妨害が際だっている」と指摘する。
その理由は、活動資金を寄付に頼っており、メディアを利用して大きな資金につながる標的は日本だという目算があるためだ。久保氏は「自分たちをクジラを守る正義の味方とするなら、敵は同じ白人より日本人のほうがいいのだろう」と話す。
4月22日、商業捕鯨や調査捕鯨の区分けを撤廃して一定の捕獲枠内で捕鯨を認めようとするIWC議長・副議長提案が公表された。事実上の商業捕鯨の再開となるが、提案は今後10年間で捕鯨の総量を大幅に減らすものだ。
ミンククジラの日本の捕獲枠は、沿岸で120頭が確保されたものの、南極海では400頭、5年後以降は半減する。日本の捕獲枠が現状と乖離(かいり)する一方、ノルウェーなどには近年の実績を上回る捕獲枠が提案されており=図参照、「削られたのは日本だけ」との声もある。IWCは提案をたたき台に6月、モロッコで開く年次総会での合意を目指すが、日本は捕獲枠の拡大を求める方針だ。
日本の商業捕鯨が中止されてから約30年。戦後の食糧難を助けた鯨肉は今や珍しい食材となった。久保氏は「鯨肉は高タンパクで低脂肪。自給率の低い日本の将来の食糧問題を考えるとき、鯨肉の利用は欠かせない」と話している。 (高橋裕子)
◇
「社会部オンデマンド」の窓口は、MSN相談箱(http://questionbox.jp.msn.com/)内に設けられた「産経新聞『社会部オンデマンド』」▽社会部Eメール news@sankei.co.jp▽社会部FAX 03・3275・8750。
http://sankei.jp.msn.com/life/environment/100501/env1005011801002-n1.htm
「日本の調査捕鯨について、調査内容や商業捕鯨との違いを教えてください。調査目的で何百頭も捕獲する必要はあるのでしょうか。また、日本への妨害行為がよく話題になりますが、ほかの国への妨害はないのでしょうか」=川崎市中原区の男性会社員(39)
目標達成は一度だけ
現在、世界で行われている主な捕鯨は、国際捕鯨取締条約に基づく日本などの「調査捕鯨」や米国など少数民族に認められた「先住民生存捕鯨」のほか、同条約へ異議を申し立ててノルウェーなどが続ける「商業捕鯨」がある。調査捕鯨は国際捕鯨委員会(IWC)が認める範囲で行われ、成果も報告される。
日本の調査開始のきっかけは1982(昭和57)年、クジラの生息数など鯨類資源の管理に必要な科学的データが不足しているとして、商業捕鯨の中止が決まったことだ。日本はデータを集め、将来は食料として持続的に鯨類資源を活用するため、1987(同62)年に調査を開始した。
調査は主に12月~翌年3月の南極海と5~9月の北西太平洋で、国の許可を受けた「日本鯨類研究所」(東京都中央区)が行う。内容は生息数や年齢、成長の状態、何を食べているかなど。クジラと生態系のかかわりなどが分かる。
捕獲するのは、クジラを解体しなければ得られない胃の内容物などが調査に必要なためだ。現在の捕獲目標はミンククジラが南極海では850頭(前後10%)、北西太平洋では220頭=図参照。目標は統計的に有意な結果を得るために専門家が算出したもので、鯨類研究所は「必要最低限の数」と説明。最も、妨害行為や自粛などで、南極海では現行計画の目標を達成したことは1度しかない。
食べるのは「義務」
成果として、南極海でのザトウクジラなど大型鯨類の増加や、鯨肉に汚染物質がほとんど含まれていないことが判明。日本周辺の北西太平洋では各種のクジラが豊富で、ミンククジラが初夏にはカタクチイワシ、夏にはサンマと、旬の魚を大量に食べていることも明らかになっている。
条約で調査捕鯨の捕獲物を利用することが義務づけられているため、捕獲されたクジラの肉は市場で販売される。売り上げは調査費用に充てられる。
商業目的で調査をしているのではないかという批判もあるが、捕鯨関係の団体などでつくる日本捕鯨協会(中央区)の久保好(このむ)事務局長は「商業捕鯨は効率良く最も大きいクジラを捕るが、調査ではわざわざ無作為に群れから抽出する。批判は当たらない」と説明する。
国際ルールにのっとって行われている日本の調査捕鯨だが、今季の南極海の調査捕鯨でも環境保護を標榜(ひようぼう)する米団体「シーシェパード(SS)」による妨害行為が繰り返された。久保氏は「SSはノルウェーの商業捕鯨やカナダのアザラシ猟なども妨害したことがあるが、日本への妨害が際だっている」と指摘する。
その理由は、活動資金を寄付に頼っており、メディアを利用して大きな資金につながる標的は日本だという目算があるためだ。久保氏は「自分たちをクジラを守る正義の味方とするなら、敵は同じ白人より日本人のほうがいいのだろう」と話す。
4月22日、商業捕鯨や調査捕鯨の区分けを撤廃して一定の捕獲枠内で捕鯨を認めようとするIWC議長・副議長提案が公表された。事実上の商業捕鯨の再開となるが、提案は今後10年間で捕鯨の総量を大幅に減らすものだ。
ミンククジラの日本の捕獲枠は、沿岸で120頭が確保されたものの、南極海では400頭、5年後以降は半減する。日本の捕獲枠が現状と乖離(かいり)する一方、ノルウェーなどには近年の実績を上回る捕獲枠が提案されており=図参照、「削られたのは日本だけ」との声もある。IWCは提案をたたき台に6月、モロッコで開く年次総会での合意を目指すが、日本は捕獲枠の拡大を求める方針だ。
日本の商業捕鯨が中止されてから約30年。戦後の食糧難を助けた鯨肉は今や珍しい食材となった。久保氏は「鯨肉は高タンパクで低脂肪。自給率の低い日本の将来の食糧問題を考えるとき、鯨肉の利用は欠かせない」と話している。 (高橋裕子)
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「社会部オンデマンド」の窓口は、MSN相談箱(http://questionbox.jp.msn.com/)内に設けられた「産経新聞『社会部オンデマンド』」▽社会部Eメール news@sankei.co.jp▽社会部FAX 03・3275・8750。
http://sankei.jp.msn.com/life/environment/100501/env1005011801002-n1.htm