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北海道新聞2024年4月12日 17:49
アイヌ民族には地元の川でサケ漁を行う先住権があるのに、不当に漁を禁止されているとして、十勝管内浦幌町のアイヌ民族団体「ラポロアイヌネイション」(旧浦幌アイヌ協会)が国と道に対し、サケ漁を行う権利の確認を求めた行政訴訟の判決が18日、札幌地裁で言い渡される。アイヌ民族の先住権の確認を求めた訴訟は初めてで、地裁の判断に注目が集まる。
おじが最期まで訴えたアイヌ民族の権利を、俺らが必ず取り戻す―。「ラポロアイヌネイション」の会長だった差間正樹さんは18日の判決を聞けぬまま、今年2月に73歳で亡くなった。その遺志を継ぎ、おいで会長代行の差間啓全(ひろまさ)さん(57)はアイヌ民族がアイヌ民族らしく生活できる社会の実現を信じ、18日を待つ。
(写真)サケ漁に使う漁船の前で、先住権への思いを語るラポロアイヌネイション会長代行の差間啓全さん=3月19日、浦幌町(加藤哲朗撮影)
「川でサケを捕る生活を取り戻すことができれば、アイヌ民族としての誇りも取り戻せる」。漁師でもある啓全さんは、サケ漁に使う漁船の前で語気を強めた。
啓全さんは正樹さんに誘われ、2009年に浦幌アイヌ協会に入会したが、当時は活動に消極的だった。先住権が認められない中で協会が取り組む文化伝承活動を「形だけのように感じていた」からだ。家族を抱え、仕事を優先する会員も少なくなかった。
(写真)「おじが訴えたアイヌの権利を取り戻す」と話すラポロアイヌネイションの差間啓全さん
転機は17年だった。その年、正樹さんと一緒に米西部ワシントン州のネイティブアメリカントライブ(アメリカ先住民族集団)の居住地を訪ねた。マカトライブとローワーエルワクララムトライブは先祖が続けてきた漁業で生計を立て、資源管理にも取り組んでいた。啓全さんたちに漁や暮らしの様子を伝える姿は「自信に満ちあふれていた」。先住民族が先住民族らしく生きるための権利の回復は、不可能ではないと希望を抱いた。
正樹さんが20年に起こした先住権訴訟では、仕事の合間を縫って法廷に足を運び、勉強会に参加して歴史や法制度を学びながら勝つすべを探った。普段は温厚な正樹さんが鋭いまなざしで「サケ漁は私たち(アイヌ民族の)集団の権利だ」と繰り返し訴える姿に感化され、地域で途絶えかけていたアイヌ文化の再興にも取り組み始めた。
ラポロアイヌネイションの差間啓全さん(中央)ら
道内他地域のアイヌ協会の会員らから儀式の手順や作法を教わり、儀式の際などに他協会などから借りていたトゥキ(杯)やイクパスイ(酒をささげる祭具)といった道具を手作りでそろえた。
会長代行に就任したのは昨年9月。・・・・・・
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18日の判決は、正樹さんの遺影を手に聞くつもりだ。「たとえ(勝訴の)可能性が1%でも、最後まで闘う」。遺骨返還などアイヌ民族の権利回復に生涯を尽くしたおじに改めて誓う。