台風近し、
風向きが目まぐるしく変わり、
黒雲が走る、
一瞬黒雲が切れたかのよう、
鈴懸の並木が続く、
誰もいない並木道、
ベンチが寂しく並ぶ、
大きな葉っぱがざわざわと騒ぐ、
何処に通じているのか、
不思議の国に迷い込む、
一人歩く道、
風だけが悲しげに叫ぶ、
どこまでも続く並木から抜け出し、
温室に向かう、
睡蓮池、
オニバスがガラスの水面に浮かぶ、
そして睡蓮、
語り掛けて来る、
一輪一輪の息吹を感じる、
やわらかな空気の流れを感じる、
宝石のような輝き、
御見事、
台風の前の新宿御苑、
人のいない不思議な世界が広がって行く、
雨に濡れた径を何も考えなく歩く、
立ち止まりつつ歩く、
時に深く考えながら歩く、
広い緑の森に一人歩く、
大都会の東京に、
心休まる孤独がある、
桜の巨木、
枝が雨の雫の重みで垂れ下がる、
池のほとりに四阿が建つ、
額縁を通して外を眺める、
柱が区切る外界を、
透かし窓の妙、
歪みの世界、
猩々モミジの枝に似たり、
毛細血管の立体、
生命体の不思議を垣間見る、
沼の水が集まってくる、
畔にこれまた奇妙な木、
アメリカキササギとか、
何時もとは違う湿潤な林と森が続く、
枝が乱れる、
木もまた台風から逃げて行くかのよう、
新宿御苑、
台風の合間、
森の中に入る、
ヒマラヤシーダー、
誰もいない森の径、
レバノンシーダー、
その奥に進むと、
朽ち木が沼に倒れ込み、
濁った小川が流れゆく、
湿潤な森の中、
森を抜けると、
ここにも不思議の国が現れる、
小雨が降りそぼり、
池の水も濁る、
水は勢いよく流れて行く、
しかし時間が止まっている、
その奥に進むと、
台風の空の下、
副都心線、
御苑前から数分の新宿口、
巨木スズカケノキが待っている、
何時もの表情で、
雨を受けた葉っぱが覆いかぶさってくる、
御伽の世界に誘い込む、
その奥にラクウショウの森が開ける、
ここには小人たちが待っている、
このような世界が、
新宿高層ビル街から少し離れた所にある、
これも東京、
右手を行くとラクウショウの森に着く、
新宿御苑を横切る、
島原から正面通り、
西本願寺の北塀沿い、
大宮を渡り花屋待通りを東に進むと、
TV時代劇の大名屋敷門構え、
昔掘割には小鮒が住んでいた、
東本願寺の北側になる、
海鼠塀に沿って歩くと烏丸通に突き当たる、
塀に沿って右に折れると、
その先に京都駅、
東本願寺の唐門、
透かしの美しさに見とれながら、
こちらも内側から眺めると、
柱に七宝焼きが嵌め込まれている、
正面から入ると、
明治の木造巨大伽藍が立ち並ぶ、
圧巻、
扉の透かし、
丸瓦瓦当に本願寺とある、
御影堂と阿弥陀堂を結ぶ渡り廊下、
内部を少し伺わせていただくと、
東本願寺東南の掘割に蓮、
そして、
振出しの京都駅に戻る、
一刻の歩み、
ほんの少し時間があれば、
東本願寺の別邸、
枳殻邸が御薦め、