西村一朗の地域居住談義

住居・住環境の工夫や課題そして興味あることの談義

『源氏物語』のライフスタイルと心情を支持した人々

2008-10-21 | 生活描写と読書・観劇等の文化
私は、今まで『源氏物語』を平安王朝の「一権力者」プレイ・ボーイの恋の遍歴物語と思って読むのを少し忌避してきた。

ところが数日前、『源氏物語の時代 一条天皇と后たちのものがたり 』(朝日新聞社刊)を書いて、「サントリー学芸賞」を得た山本淳子さん(京都学園大学教授、京大文学部卒、48歳、私の高校ー金沢大学付属高校ーの後輩)の「源氏物語の時代ー紫式部のひそかなたくらみ」の講演を聞いた結果、少し考えてみる気になった。各時代の各階層の人々は、『源氏物語』をどう捉え、支持したかである。
講演を聞いた後のブログ:http://blog.goo.ne.jp/in0626/e/75d85f3849a0c01d14d945b7565a62a2

・平安王朝以後の天皇家、貴族の見方・・・こういう「政略結婚、交渉」も仕事、公務である。つまり自分たちの子孫をしっかり残すのが、私事ではなく公務、仕事なのである。天皇中心の貴族社会を確実に残すための公務なのだ。そうだとしたら、全知全能をあげてプレーするのは当然だ。(娘が生まれたら、より上の地位の男に嫁がせ、息子なら一番賢い子を跡継ぎにする。藤原道長は、娘・彰子を一条天皇の后にするのに成功した・・・。)
 だから、江戸、明治の頃まで「続いた貴族社会ー権力は失っていたがー」は、自分たちの源流の証として『源氏物語』的ライフスタイルと心情を支持したのだ。

・鎌倉以後の武士・・・上記とほぼ同じく「貴族社会」を武家社会に置き換えて支持。江戸時代の「大奥」も将軍にとっては私的空間というより公務空間だったと言って良い。「貴族社会」を表向きたてていた面もあり、『源氏物語』が読み継がれるのを黙認していた。

・江戸時代の庶民・・・王朝文学の本を読む余裕。上流社会へのあこがれ。

・明治以降の政治家、高級官僚・・・多かれ少なかれ「政略結婚」的傾向が強い。

・戦後の市民・・・あこがれ、自由恋愛の認定傾向。平安時代の歴史認識等。

膨大な生活描写なので、様々な学問にとってもまたとない歴史材料でもある。ex.「飲水病(いんすいびょう」→糖尿病→病気史の研究。 寝殿造りの研究、平安時代の食事の研究・・・。

とにかく奥深い『源氏物語』である。