一見して割型から抜き出して乾燥させている粘土の左招き猫、、、。ではなくて、おがくずにつなぎを混ぜて練りこんだものなんです。
ですから、これらは「今戸焼」とも「今戸人形」とも関係ないものなんです。もともと昔のよい時代の今戸人形が戦前に廃れてしまったものを再現しようと始めたことなんですが、これまで郷土玩具畑のもので「今戸人形」ではないものを2つ手掛けたことがあります。「王子稲荷の紙からくり」と「鴻巣の練り人形」の招き猫です。王子稲荷のものは、昔、参道にある葛餅屋さんに今戸の「羽織狐」とか「提灯持ち狐」(大晦日の狐の行列に因んで)を置いてもらっていた頃、王子名物の紙からくりも作ってお納めしていた事がありました。「鴻巣の招き猫」については「丸〆猫」をはじめて作ったあと日本招き猫倶楽部という趣味の団体でとりあげていただいて、各地から「丸〆猫」や「招き猫の火入れ」とか「招き猫の貯金玉(尾張屋型)についてお問い合わせいただいて、待ってもらってお送りしていたんですが、中には色違いに塗ってはくれないのか、赤物のように真っ赤にできないか、ピンクに塗れないかという問い合わせもあり、「昔のよい時代の今戸焼の土人形を再現する」というスタンスなので「変てこなことはできないので許してください」みたいな返事ばかりしていた時期がありました。当時、芝原人形の左招き猫や鴻巣の赤物の左招き猫のもとになった今戸人形版の左招き猫を再現しようとしていて、そのついでに「鴻巣版の赤物」用の割型も作っておいて、ちゃんとおがくずで成形すれば、「赤く塗って欲しい」というご要望にも対応できるかと手掛けたんです。練り人形は当時やったくらいだったのですが、最近作って欲しいという方があり、「当時の割型はあるから待ってもらえるならやります」なんてお答えしたいたのがのびのびになって、去年は本当に忙しかったから、今になってやっているという始末です。
材料のおがくずにツナギを混ぜて練っているところ。何だかコロッケみたいにおいしく見えませんか?練り人形は土のように素焼きする必要がなく、出来上がりの目方がひどく軽いし、素焼きのように落としたりぶつけて割れるということがないので、製品を籠に入れて背負って行商して回って歩いた昔では商品管理が楽で結構需要があったみたいですね。張り子の人形は軽いけれどぶつけて「ぺこん」と凹んだりすることがあり、その点練り人形はおがくずに混ぜる溶剤として昔は「ふすま」を混ぜて使っていたので、あとあと虫が湧く、ネズミがかじるなどでダメになってしまうんですね。それと火事に遭えば消失する、地中に埋まっていればなくなってしまう、、などの理由で練り人形が近世遺跡から出土することはまずありません。
割型から抜き出したおがくずは陰干ししてから天日干しして、胡粉で地塗りをします。焼く手間がかからない代わりに、地塗りを余計に重ねないと肌のがざがさが消えない、、という手間がかかります。練り人形の魅力は土人形よりも彫りが甘く、胡粉の下地によるまろやかな感触とやわらかなアウトライン、やさしい照りのある肌合いでしょうか。赤物は特にスカーレット染料と膠による「縁日のりんご飴」のような透明感のある発色が楽しいですね。
鴻巣や大阪、金沢、渋江(山形)、加茂松原なんか知られていますが、浅草の練り人形もいいですね。
昔、「郷玩ゼミナール」という郷土玩具の会とは別に少人数で運営されていた会合のようなものがあって、それを芯になって運営されていた方が私に昔の今戸人形の見かたとか材質的なこととか出土品との比較とかについて意識を持たせてくださった師匠のひとりなんですが、この「ゼミナール」で鴻巣の人形屋や神社を巡って見学させていただく機会がありました。この時、鴻巣市内の神社や人形屋さんからみつかったという古い「今戸人形」があり、鴻巣に影響を与えていたという物証だな、と思いました。鴻巣の練り人形の一部に今戸人形の構図と同じのがあります。「おいらん」とか「左招き猫」「羽衣狆」「古今風雛内離」などそうです。それと今でもまだやっていらっしゃると思いますが「太刀屋」さんというお店では赤物の赤の発色の出し方について配合を教えてもらいました。
でも特に有名でもあり、人気のある「左招き猫」が今では鴻巣では作られていないというのは勿体ないというか残念というか、、。だからうちなんかへ問い合わせがくるんでしょうね。新宿区「水野原遺跡」出土の「丸〆猫」が「最古の招き猫」としてはじめてテレビに映ったNHKの「美の壺・招き猫」では、出土品については情報提供しましたが、出来上がった番組で招き猫の色の意味みたいなコーナーがあって、鴻巣の練り人形の猫が並んで映ったんですが、観てびっくり。その中にうちで作ったのが混ざっていたんです。何も事前に知らなかったからびっくりしました。
「美の壺」の画像ありました。→ 真ん中のがうちのです。
余計な話になりましたが、とりあえず抜き出して乾燥させる間、また土仕事をすすめていきます。