水上陽平の独善雑記

水上陽平流の表現でいろいろな事を書いています。本館は http://iiki.desu.jp/ 「氣の空間」

「風間陽水の依頼簿(カルテ)・929」

2016-05-31 19:51:09 | Weblog



カルテ番号 や・6(67)

翌日、茂木氏に連絡をとった。
あの公園で待ち合わせをした。
今までの経過報告を一応しておく。
もちろん、長寿族の話はできない。
玲香は大きな秘密が出来た事を歓びと感じていた。
秘密は負担ではない。
それに伴う嘘も負担ではない。

茂木氏に訊ねたいのは、あの院長の言った言葉。
茂木氏なら、どう思うのだろうか?
能力、力を出さない生き方。
それも病を治す立場なのに・・・
先に公園に着いた玲香は、昨日の院長の言葉を思い出していた。
相手を尊厳するから、手を少ししか出さない。
苦しんでいるのに、5パーセントしか力を出さない。
否定はしないが、解からない。

やがて茂木氏がゆっくりと歩いて来た。
玲香も笑顔で迎えた。
社交辞令の笑顔ではなく、素直な笑顔だ。
茂木氏と再会したから、あの院長と会えた。
同族と会えた。
自分の変化を受け入れられた。
茂木氏のお陰なのだ。

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(過去のプログは本館 「氣の空間・氣功療法院」です。
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ブログで書いた「迷説般若心経」  「迷説恋愛論」  「迷説幸福論」
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「風間陽水の依頼簿(カルテ)・928」

2016-05-31 19:28:39 | Weblog



カルテ番号 や・6(66)

以前の玲香は行動的だが理論的でもあった。
今の玲香は、行動的は同じだが、感覚的になっている。
というよりも、理論的というのが空しく思える。
人の理論など、とても狭く浅く表面だけのものだった。
そんなものよりも、感覚で動く方がマシだと思える。
院長の話も解かるが、それよりも、ここにいるから安心なのだ。
不安には理屈があるが、安心に理屈はない。
ただ、心地良い。

「先生、私、今の会社を辞めて、自分の移住地を探します。
でも、当分はこの近くに引っ越して住みますね。
まだまだ先生から情報を聞き出して、それから離れます。
長寿族はお互い離れて生きていくものなのでしょ。
それまでは、よろしくお願いします」
院長は言った。
「あまり、こうするべき、とか思わなくてもいいですよ。
長寿族とはいえ、ただの出来損ないの人間ですから」

玲香はとても満足して帰っていった。
明日から忙しい。
仕事の後始末、引っ越しの準備がある。
今まで忘れていたが、親には何と言おう。
肉親とはいえ、長寿族の目覚めと共に、情が離れてしまった感がある。
それは、自分ながら寂しいと思う。
今までの肉親愛は薄れたが、慈愛とでもいう感情は大きくなったようだ。
肉親がとても愛おしいと感じている。
今までと違う、ゆったりとした感情だ。

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「風間陽水の依頼簿(カルテ)・927」

2016-05-29 19:10:47 | Weblog



カルテ番号 や・6(65)

院長は笑顔で言った。
「この地球も寿命があります。
太陽系ですから、太陽が寿命を迎える時には終わりです。
後55億年といわれています。
その前に生物が生存できなくなるのが、17億年後。
太陽系、あるいは地球自体に何もアクシデントが無いという前提です。
大きな彗星の衝突が一つあれば、それで終わりかもしれません。
天変地異というのも、範囲を広げれば有るのが当たり前なのですねぇ」

院長の言葉は続く。
「その上で、寿命と生き方を考えてみましょう。
アクシデントは受け身になります。
規模により、逃れる事は出来ます。
規模により、逃れる事は不可能です。
その規模は、起きてみないとわからない事が多いですね。
でも生き方は能動です。
逃れるというのは、受け身ではなく能動です。
寿命は本来の生命の限りです。
そこまで生き延びるのが生き方になります。

アクシデントの有無に係わらず、する事は同じです。
出来る限り、生き延びる。
生命を尊び、労り、愛するのが万物共通の生き方です。
あきらめ、は受け身で、生き方ではありません。
あきらめに通じる不安も、受けるだけでは生き方になりません。
不安が起こるのは不安定な心と身体の人間ですから当たり前です。
でも、不安のままで、何もしないなら、生き方になりません。
病も不安も何かを変える行いをして、その人の生き方となります」

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「風間陽水の依頼簿(カルテ)・926」

2016-05-28 19:28:27 | Weblog



カルテ番号 や・6(64)

院長は考え考え言った。
「私の知識も不確かですから、大よそです。
地球上に住む生物、生命体は、海を含めて僅かの地域です。
地球全体の2パーセントくらいでしょう。
私達人間からすると、果てしない大地、限りない海に思えます。
ところが、海と大地を合わせても、2パーセントくらいです。
中心に核というものがありますが、マントルと合わせ流動です。
大地は強固に思えますが、全体の98パーセントは動いているのです。
生物が生きる地域に、安全な場所はありません」

玲香は思った。
人としての寿命。
見える範囲。
想像できる範囲。
感触。
それらは、極僅かなのだ。
勘違いと間違いで判断している。
長寿族は、その僅かの感覚が多少広がっているだけだ。

院長は優しく言った。
「柳さん、不安ですか?
この地球上にいる事が不安に感じますか?」
「いいえ。
不安だったのは、東京にいた時です。
人としての基準で、間近に迫っているからです。
長い目でみれば、安全は無いのはわかります。
先生が、長寿族も普通だと言う意味が少し理解できました」

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「風間陽水の依頼簿(カルテ)・925」

2016-05-27 19:37:20 | Weblog



カルテ番号 や・6(63)

玲香には理解しきれない。
それは玲香の若さなのかもしれない。
「先生の話だと、病は治しても無駄、のようにも聞こえます。
少ししか手を出さないのなら、苦しみは残るわけですよね。
苦しむ人生は、やはり治していくべきだと思います。
治さなければ、生命も短くなって、人生も歪になるのでは?
中間が大事なら、より回復も進めた方がいいと思います」

院長は反論するわけでなく頷いた。
「治ったという結果よりも、治すという方向に意味と意義があると思っています。
だから、無駄どころではなく、回復への行為はとても大切です。
何もしなかったり、一時しのぎだったりするのは、人生の無駄かもしれません。
最近は症状だけを抑えたり、マヒさせたりする方法が多くなりました。
ある意味、苦しみ、痛みだけを感じなくさせる方法です。
他に手が無い場合などは、生きる質を高める意義もありますが・・・
回復する方法があるのに、安易な痛み止めは生命の無駄使いだと思います。
病は、何かを変えて下さい、という生命からの訴えなのですから」

玲香は帰ってから、茂木氏と話してみようと思った。
この部分は80歳を超えた茂木氏の意見を聞きたかった。
「私には、まだよく解かりませんが・・・
話は変わりますが、ここは安全なのでしょうか?
地震も津波も無いのですか?」
院長は即座に言った。
「柳さんの想像する津波はさすがに無いでしょうが・・・
地震は地球上のどこにいてもありますよ。
大陸というのは、液体の上にわずかにある膜のようなものです」

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「風間陽水の依頼簿(カルテ)・924」

2016-05-26 19:34:52 | Weblog



カルテ番号 や・6(62)

玲香には難しい話だ。
だが、生死を見てくると、そうなるのかもしれない。
長寿族は生き延びる事が優先する。
そこに存在意義がある。
通常の人間だって、ある意味同じだ。
生き延びる事に意味がある。
生きているからこそ、何かが出来る。

生まれて、寿命まで生きて、亡くなる。
最初から最後までを多く見れば、その中間に注目する。
中間とは、生きている間の生き方だ。
自分だってそうだが、その中間が生きている証だ。
やがて誰にも訪れる死がある。
その死よりも、中間の生き方を尊ぶ。
だから、病を治すよりも、本人の選択を尊厳する。

院長は少し笑って言った。
「とはいえ、私はまだまだ未熟者です。
余計な手を出してしまう事もあります。
病が治るようにするのが仕事だと・・・
でもね、それは違うのです。
治しても、亡くなるのですねぇ。
だから、病からの回復を契機として、中間が充実するようにする。
それが、本当の治療なのかな、と思っています」

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「風間陽水の依頼簿(カルテ)・923」

2016-05-25 20:12:02 | Weblog



カルテ番号 や・6(61)

院長は玲香の表情を見て言った。
「疑問に思われるのももっともです。
私も治療師の始めの頃は違っていました。
出来るだけ力を出そうとしました。
手伝いだとわきまえた上で、出来るだけの事をしようと。
でも、生命と向き合ううちに変わってきました。

生命は限りがあります。
その有限の時間は、その人本人が選択して使っています。
それがその人の生き方となります。
生命を大切に扱うお手伝いの治療とは何か?
それは、その人の生き方に尊厳をもって接する事でした。
手を出しすぎるな。
私が故御師匠様から教わった言葉です。
最初は意味が解りませんでした。

苦しんでいる人がいるなら、何とかしてやりたい。
自分の能力を出し惜しみしない。
そう思っていたのに、それを否定されました。
そして見守る事を言われました。
そしてプロとして、いろいろ経験しました。
10年過ぎてから、少しずつ意味が解り始めました。
思う事と想う事の違い。
相手を大切に想う事は、手を出しすぎない事でした」

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「風間陽水の依頼簿(カルテ)・922」

2016-05-24 19:26:47 | Weblog



カルテ番号 や・6(60)

長寿族としての性質があるのかもしれない。
人好きで深く係わったら、生きていくのが厳しくなる。
人嫌いではないが、意識して浅く淡く接するのだろう。
玲香も次第にその気持ちに変わるのだと予想している。
淡く浅くの係わりに、変わらざると得ないのだろう。
そして、自分の道、自分の生き方を作っていく。

「もし、目の前に苦しんでいる人がいたら、どうします?」
院長はこの質問にしばらく黙っていた。
「どう伝えたらいいか、まだ迷っていますが・・・
そうですね、例え話として割合、パーセントを使います。
苦しんでいる人が目の前にいたら、普通に接するでしょう。
私の場合、普通人のようには5パーセントの力です。
私を頼っていた場合、50パーセントくらいの接し方です」

玲香は少し驚いた。
それは抑えすぎではないか。
普通でも80パーセントで世話をする。
頼ってくれているなら、100パーセント、懸命にする。
治療者なら、そう答えるかと思っていた。
接し方が冷たすぎはしないだろうか?
そういう人なのだろうか?

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「風間陽水の依頼簿(カルテ)・921」

2016-05-23 19:30:29 | Weblog



カルテ番号 や・6(59)

院長は照れた顔をして言った。
「実は、書くことが好きなのです。
でも性格に問題がありまして・・・
計画性がありませんし、ズボラです。
そこで、毎日書く手段として、ブログにメモのように書き綴っています。
でも、感想などコメントされても返事はしません。
他人との交流などしたくないので、無愛想で通しています」

玲香は思った。
もしかしたら、この院長は人嫌いなのかもしれない。
「他人と係わりたくないのに、こういう仕事をしているのですか?
治療って、他人の心の深くまで入ることもあるでしょう?」
院長は言った。
「治療家も様々なタイプがいると思います。
私は人嫌いではないのですが、人好きではありません」

院長は少し考えて言った。
「生命好き、とでもいうのかもしれません。
生命に関しては、興味も好奇心も人一倍強いと思います。
その部分でなら、心の中も底も覗くでしょう。
ですが、その人に興味はありません。
だから、どんな気持ちで、どんな生き方をしようと無視します。
ただ病という状態から回復するのなら、生き方にも口を出します。
来るもの拒まず、去るもの追わずですが・・・」

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「風間陽水の依頼簿(カルテ)・920」

2016-05-22 19:16:34 | Weblog



カルテ番号 や・6(58)

今では玲香も解る。
ブログでの繋がりは表面だけだと。
社会的には、それを上手く利用すれば仕事にもなる。
人と人、人とモノを結び付けられる。
だが、心は繋がらない。
心は、表面では思い込みの段階でしか結びつかないのだ。
その仮初の結びつきが軽いからいい、という場合もある。
いざとなったら逃げられるからだ。

自分が本当に自立できると、仮初の相手などうっとうしいだけだ。
自立した者同士なら、相手に立ち入らない。
何も知らなくても、傍にいるだけで充分なのだ。
黙って、お酒を静かに飲む。
黙って、夕日を眺めていれば、幸せを感じるものなのだ。
自分をアピールしなければならない関係など、もういらない。

「ところで、先生はブログなど見ないのでしょうね」
院長は笑った。
「はぁ、よほどでなければ他人のブログは見ません。
でも、書いていますよ、毎日」
「えぇ!どうしてですか?
治療院の宣伝ですか?」
この院長が患者集めをするのだろうか?
とても、そんな風には思えない。

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