「風間陽水の依頼簿（カルテ）・919」

カルテ番号　や・6（57）

玲香は処女ではないが、セックス経験はほとんど無い。
生命力は高いと思っていたが、性の力も強いとは自覚していない。
そう聞かされても、何て答えたらいいのかわからない。
だが、性の力が強いと言われても嫌ではなかった。
長寿族に目覚める以前なら、少し嫌だと感じたかもしれない。
今は、もっと積極的に思えるようになった。
もしかしたら愉しみ、かもしれないと。
もちろん、院長にも他の誰にも口には出さないが・・・

黙っている玲香を見て、院長は話題を変えた。
「ところで、ブログ依存症はどうなりましたか？」
「あ、もうすっかり忘れている状態です。
そんな事、私にあったのかというくらい。
何で他人の目や感想を気にしていたのか、自分でも信じられないです。
むしろ、自分のプライバシーの大切さを自覚しています。
秘密の大事さ、とでもいうのでしょうか」

院長は穏やかに笑った。
「柳さんは理解の速い人なのですねぇ。
そうなのです。
秘密は、とても大切で大事にするものなのです。
自分の時間、空間、とても大切なのですよ。
社会と自分の区別をつける事は、生命を活性する一つです。
今のブログ依存症は、生命力の弱化にしかならないでしょう。
ブログでの繋がりは、社会的手段として役に立つ事もあります。
ですが、生命的に元気が出る、というのは幻か一時しのぎですね」

（登場する人物・組織・その他はフィックションです）

（過去のプログは本館　「氣の空間・氣功療法院」です。
治療・若返り・講演、お話会依頼、悩み相談受付中。日本中出張します。
ブログで書いた「迷説般若心経」　　「迷説恋愛論」　　「迷説幸福論」
誰か出版してくれぇ～
１８年間封印していた本物の「氣入れパワーストーン」を販売開始 「笑顔の雑貨屋Ｙａｋｋｏｏ」)

「風間陽水の依頼簿（カルテ）・918」

カルテ番号　や・6（56）

玲香はずっと予感があった。
結婚はするかもしれないが、子供は出来ないだろう。
多分、自分に原因があって、子が授かる事はないだろう。
だから院長がそう言っても、それほどショックではなかった。
もしかしたら、ずっと独身かと思っていたくらいだ。
でも、何度も結婚できる、と真面目顔で言われて笑ってしまった。
確かに８００年も生きるのなら、何度でも出来るだろう。

「男の人は子供を作れるのですね」
特に興味もないが、一応聞いてみた。
「発動前なら、作れます。
でも、長寿族にはなりません、多分。
発動後は、どんなに元気でも出来ないようです。
女性だけは、発動前から出来ないようです。
それ以外は、普通と同じです。
あ、もう一つ、関連して、少し違うところもあります」

玲香はそのまま訊いた。
「違うところって、なんですか？」
院長は少し考えてから言った。
「柳さんが、今の時点でどうとらえているか不明ですが・・・
いずれ、自分の身体で知ることになるでしょう。
でも、簡単に言いますね。
性の力です、性欲とは区別して下さいね。
性の力と生命の力は同根なので、長寿族は強いのです」

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「風間陽水の依頼簿（カルテ）・917」

カルテ番号　や・6（55）

その言葉で玲香の肩の力が抜けた。
「知ったからといって、特別な事はしなくていいのですね」
院長は頷いた。
「むしろ、特別な事はしない方がいいのです。
でも、普通の事はしましょうね。
私達は、普通の人間です。
特別ではありません。

病気も怪我も普通にするし、心も簡単に折れます。
落ち込みますし、自己嫌悪にもなります。
同じ間違いだって、何回もします。
要領も悪い人は悪いままです。
特別能力が優れているわけではありません。
多少、長生きですが、それは秘密事。
秘密は公開しないものですよ。
ですから、それも社会的には無い事です。
それ以外は、全く普通の人なのです」

そして、少し言い難そうに言葉を続けた。
「もう一つ、話しておくべき事があります。
柳さん、子供は出来ないと覚悟して下さい。
私が知る限り、女性の長寿族は子孫が残せないようです。
理由はわかりません。
あ、でも、もちろん結婚は出来ますよ。
何度でも出来ます」

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「風間陽水の依頼簿（カルテ）・916」

カルテ番号　や・6（54）

それに・・・と玲香は口に出せない事を思った。
東京付近で近々起こる地震。
多くの人達の惨状と、苦しみ、悲しみ、戸惑い等。
それらを先に知ってしまった重圧。
誰にも言えない重圧。
とても一人では、抱えきれない。

院長は何も言わなくても通じている。
「多くの悲しみは、それぞれの生命の側面です。
柳さんが背負う事ではありません。
背負わずに、見る。
目をそらさずに、見る。
ただ見ているのは、とても厳しいです。
それでも、見て、生き延びて下さい」

そして、少しニッコリとした。
「私や柳さんの分も、愛田さんがしてくれています。
というか、もうするべき事はして、本人は海外ですよ。
愛田さんは背負わずに、今の立場で出来る事をしました。
私は出来る事からも離れようとして、説教されました。
私達が出来る事は、とても少ないです。
それでも、僅かな人が反応して、生き延びてくれれば充分です。
本来は、その為に存在しているわけではないのですから。
人助けは、私達の役目ではありません」

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「風間陽水の依頼簿（カルテ）・915」

カルテ番号　や・6（53）

そうだった。
会社を辞める、仕事を辞める。
そんなことは、これから必ずしなければならない事だった。
当たり前だった。
好きな人達と別れる事、住んでいる町から離れる事。
そして、知り合いの記憶からも消える事。
それが、長寿族としての生き方・・・

院長は言った。
「新参者の私が言うのも生意気なのですが・・・
柳さん、悲しみや寂しさばかりではないようですよ。
長く生きて見守る長所があります。
人々・・・だけではないのですが、取りあえず人としておきます。
生き生きとした人々の成長、成り行き、そして、円熟。
人の一生の最後でさえ、尊厳をもって見ることも出来ます。
そこには、悲しみや寂しさだけでなく、生命の喜びも感じられるはずです。
同じ種の寿命では味わえない体験でしょうね」

玲香は頷いた。
「そうなのかもしれませんね。
こういう立場になった以上、受け入れるしかありません。
でも、私はラッキーだったと思います。
同じ仲間と巡り合えたわけですから。
先生の話から、多くの同族は孤独で生きているようですもの。
私、今まで強い心の人間だと思っていました。
ところが、とても弱い心だと知りました。
恐くて、淋しくて、孤独と隣り合わせだと知りました。
一人だったら・・・耐えられなかったかもしれません」

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「風間陽水の依頼簿（カルテ）・914」

カルテ番号　や・6（52）

「解りました。
私、少し勇み足だったようです。
それにしても、東京の足元の不安は怖いです。
今の仕事は好きでしたが、それどころではないような・・・
会社が東京にある限り、とても平静ではいられません。
他の人では、この不安はわからないでしょうね。
会社・・・辞めようかとも思っています。
先生、どうしたらいいでしょう？」

院長は意外にあっさりと答えた。
「辞めるだけが選択肢でもないですが・・・
辞めてもいいと思いますよ。
仕事が好きなのと、会社が好きなのは違います。
仕事が好きなら、辞めても仕事はできるでしょう。
ですが、それよりも優先する事があります。
何よりも、生き長らえる選択です」

院長は少し悲しそうな顔をして言った。
「そして・・・
どんなに好きな仕事、会社、人、地域があってもしなければなりません。
別れる事、離れる事、消えてしまう事。
だから、辞める事や離れる事に慣れて下さいとは言いません。
ですが、未練を引きずるような事は小さくして下さいね。
残念ながら、それに関しては選択肢はありません」

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「風間陽水の依頼簿（カルテ）・913」

カルテ番号　や・6（51）

玲香は院長が自分を優しく注意していると理解している。
軽薄に反応するべきではない。
それが長寿族の役割でもある。
見守る事。
どうなるか、見守る事。
そして、生き延びる事。
それが大切な役目でもあるようだ。

院長の言葉は続く。
「何もしない、という行動。
長寿族の役目でもありますが、結構辛いのですよ。
通常を超えての長生きです。
抑えて、抑えて時を過ごす。
私も新参者ですが、それが今の役目だと思っています。
すると、おそらくですが・・・
自分の出来る事が見えてくるのだと思います」

玲香は今までの自分の生き方と真逆だと思った。
出来ない事は挑戦する。
考えもするが、行動が優先する。
当たって砕けろ、という生き方だった。
何もしない、というのは、生きる事の放棄だと思っていた。
それなのに、今後は何もしないという生き方が中心になる。
何もしない、という選択であり、何もしないという行動でもある。

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「風間陽水の依頼簿（カルテ）・912」

カルテ番号　や・6（50）

玲香は自分の思いがとても浅いものだと知った。
つい自分が正しいと思いがちだ。
でも、未来は不確定。
わからないのだ。
そのうえで、様々な行いをするのは自分の意思だ。
正しいからするのではない。
自分がしたいから、するのだ。

院長は優しく言った。
「長寿族は通常の生物よりも、やや深く地球に反応するようです。
その為、天変地異にはより敏感になります。
でも、絶対正しいわけではありません。
すぐ行いをするのも選択の一つですが・・・
私は長寿族としての経験が深くなってからの方がいいと思います。
それだけ、地球の変化、社会の変化、生物の変化を知るからです。

愛田さんは、おおよそ１８０年以上生きています。
しかも、日本においては激動の時代です。
江戸の末期から明治、大正、昭和、平成です。
そして、愛田さんの性格からか、隠れて暮らしていません。
それどころか、いつも国の中枢の近くにいました。
長寿族としては珍しい生き方です。
その上で、今回は行動を起こしているのです。
私が行動をするのとは、ずいぶん違うわけです」

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「風間陽水の依頼簿（カルテ）・911」

カルテ番号　や・6（49）

玲香はその人にも興味がある。
数少ない同族だから、当たり前なのかもしれない。
「愛田さん、どんな事をしているのでしょう？
私も何かしたいと思っています。
でも、何をしたらいいのか解かりません。
いきなり、ここは危険です、なんて言えないですよね。
単なる頭のおかしな人と思われますよね」

院長は言った。
「私達が感じているのが本当だとして・・・
世の中に、本当の事を言えばいいのか？という問題があります。
真実だろうが、事実だろうが、言っても不幸を招く事は多いのです。
人が言う事は、真実だろうが、嘘だろうが受け止める側が決めます。
真実でも、大嘘付きと決めつけられる。
大嘘でも、真実ですばらしい、と思われる。
それが、人社会であり、それを直す事は難しいでしょうね」

玲香も頷いた。
「そうですね。
特に未来の事など、より信じてはもらえないでしょうね」
院長は言った。
「信じる、信じない、は往々にして、信じたい、信じたくないで決まります。
人は理性よりも、感情で判断するものです。
その理性も、人の段階では真実にほど遠いものです。
私達も感性で判る、とはいえ、間違っている可能性は大きい。
何よりも、未来は不確定だと思いますから、決められない」

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「風間陽水の依頼簿（カルテ）・910」

カルテ番号　や・6（48）

「先生、また来ました」
院長の態度は変わらない。
玲香は話したくて仕方がない。
こんな話、他の誰にも通じない。
確かに通じるのは同族間だけだ。
「少しは慣れました？」
院長は笑っている。

「不安でいっぱいです」
玲香もそう言いながら笑った。
不安なのだが、同族と会えて安心でもあるのだ。
「東京にいると、無理もないですよね。
地面に立っているのが不安定だと感じるのですね。
事実、大地は揺れ動く液体の表面に浮かぶ膜ですから。
まだ動いてはいないのですが、動く意思を感じてしまうのです」

玲香は言った。
「やはり、そうなのですね。
こんなに離れていても感じるものなのでしょうか？」
院長は少し黙ってから言った。
「ここでは不安感はありません。
ですが、あそこが不安定時期というのは感じます。
もう一人の方、愛田さんというのですが・・・
彼女は、もう数か月前から、自分で出来る対策をしていました」

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