水上陽平流の表現でいろいろな事を書いています。本館は http://iiki.desu.jp/ 「氣の空間」
カルテ番号 る・1（28）
類家真司が帰ってから院長は思った。
首都圏大震災が起こるまでに、多くの人が不安を感じるだろう。
その不安が何処から来るのか分からないまま日々を過ごすだろう。
病院やカウンセラーに通っても、それらは取れない。
薬で多少薄まっても、不安は無くならない。
生物の種としての不安だ。
根が深すぎるからだ。
中には、類家氏のように、ある程度の見当がつく人もいるだろう。
かなりハッキリとした災害を思い浮かべる人もいるだろう。
本来の生物の能力ならば、危険を察知できるはず。
だが、人間の多くは感性に蓋をしている。
それが生命に関わる事であっても、見ないふりをする。
ただ、不安は残る。
生命力が低下している上での不安は、病に進む。
信じたくないモノは信じない。
都合の悪い事は、理屈をつけて否定する。
それでも種としての生命は、何割か別行動をする。
全員ではない。
多くの生命は、災害から逃げないのだ。
それが・・・辛い。
今すぐにでも、より安全な土地に避難して欲しい、と切に願った。
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カルテ番号 る・1（26）
類家真司は今度こそ、ここに来た意味を知った。
そして、治すという意味を知った。
表面の症状を消すのが治療ではない。
その奥を回復するのが治療になる。
そこから未来が変わるのが治療になる。
生き方が変わってこそ、治療になる。
治療方法は一つではない。
原因を調べるのは、一方法でしかない。
治療は技術ではない。
もっと根本的な何かだ。
自分でも気づかぬ奥に触れられる。
温かく触れられる。
すると、気づいてしまうのだ。
そして、服効果として症状が消える。
「先生、本当にありがとうございました。
近い未来に厳しい出来事が起こるのは事実でしょう。
そこに関わるのは、個々なのですね。
自分の関わる個々の人々に、深い縁を結べるようにします。
そして、一人でも信用してもらいます。
それだけでも、自分が生きてきた価値があると思っています」
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カルテ番号 る・1（25）
院長は少し顔に皺を寄せて言った。
「人の苦しみは、それが病であれ、事故であれ辛いです。
特に災害は一度に大きな苦しみが生まれます。
感受すると、とても痛いです。
避けて欲しい、逃げて欲しい。
本当にそう思います。
ですが、住んでいる場所から避難すると決意するのは難しい。
決意する決め手は、信じるか、信じきれないか、です。
ですから、類家さんは、まず信じられる相手になる事です。
その決意をしてもらえるような人物になる事なのです。
物事を知るだけでは、何も動きません。
予知などに価値があるのではないのです。
それを信じてもらえる生き方に価値がでるのです。
私が占い師や予知をする人達に厳しいのはこの点です。
でも、世の中には詐欺師は沢山います。
その話の内容ではなく、その人をしっかり見て欲しいのです。
信用できる生き方をしているのか。
口や態度はいくらでも作れるのですから」
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カルテ番号 る・1（24）
院長は静かに話した。
「生物は死にます。
人は必ず死にます。
いつ、どこで、どのように、か判りません。
私は病の人と接しています。
生き延びる事だけにこだわると、見えなくなります。
何の為に回復の手伝いをしているのか・・・
治す事だけにこだわると、意味を失います。
必ず死ぬのに・・・
ところが、人は変われるのです。
そのキッカケとして病があるなら・・・
回復や治す手伝いをする事に意味が生まれます。
何の為に、に答えができるのです。
病がキッカケで大きな意味があるとしても、病にならない方がいい。
災害も同じです。
できるなら、避けた方がいい。
けれども、それらを選択するのは、生命を管理する本人です。
選択肢として、教えるのは知った人の一つの役目でもあるでしょう。
ですが、それで救うという考えは、少しズレてしまいます」
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カルテ番号 る・1（24）
類家真司は思った。
大地震が回避される事は無い。
まして巨大な人口密集地の首都圏だろう。
多くの人達の命が失われるだろう。
更に多くの人達の苦しみが生まれるだろう。
それでも笑って言える院長の心情に驚く。
気楽なはずはない。
未来とはいえ、多くの苦しみと同調するのだろう。
それでも、笑えるようになるまで、どう自分の心と向き合ったのだろうか？
そうか・・・
厳しい病を抱えた人達。
それでも笑えるようになる患者がいる。
院長は見てきたのだ。
教わったのだろう。
厳しく、辛く、苦しい人達の生命力。
それでも未来に向かう輝き。
綺麗事ではない。
上辺の言葉の浅さではない。
生命の凄さ、なのだろう・・・
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カルテ番号 る・1（23）
「先生、今日はありがとうございました。
これからの自分の生き方、じっくり考えてみます。
そして、気負わずに、話せる人に、上手く話すようにします。
大学が東京だったので、同級生も友人もいるのです。
ですが、ストレートに言っても逆になってしまいます。
まず、自分が信用に値する間柄になっていないと、ですね。
そして、近々、またここに来ます。
その時は、先生の話せる範囲で、もっと教えて下さい。
先生はもっと詳しい事を知っているはずです。
それを聞ける心根を養ってから来ます。
それほど遠くない未来に起こるのでしょう。
それでも、先生の話しぶりから一年以上先ですね」
院長は笑って言った。
「人の未来は変化します。
変わりますし、変える事も可能でしょう。
ですが、自然の未来はそれほど大きく変える事はできません。
時期が多少長くなったり、短くなったりする程度でしょう。
ですから、無くなる事はありません。
大地震は確定事項です。
それでも、人の未来は変える事が可能です」
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カルテ番号 る・1（22）
仕事は生活の為にする。
だから辛い事も厳しい事も苦しい事も当然ある。
だが、生活の為でなくする仕事もある。
ライフワーク、天職とでもいうのか。
生活とは別な仕事だ。
生活の心配をしない資産があれば、好きな仕事ができる。
あるいは、生活費などは出してくれる人がいればいい。
芸術家などを育てる人達がいた。
後援者、パトロン、スポンサーなど呼び方は様々だ。
見返りを求めない後援者。
贅沢の極みかもしれない。
世界中でいたのだが、最近は極端に少なくなったようだ。
生活の心配無しに好きな仕事をする人。
生活費を出して、その人を見守る人。
類家真司は、仕事というものをもう一度考えてみようと思った。
社会に貢献するのは、どういう状況から生まれるのだろう。
苦しさからは他人が喜ぶ幸福の花は咲かない。
自分の為だから、苦しい、辛いのかもしれない。
自分を離れたら、厳しい未来予測も活かせるのかもしれない。
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カルテ番号 る・1（21）
まだよく意味が解らない。
院長は苦笑しながら言った。
「この説明は自分でも上手くできないのです。
誰かが、私に依頼しようと思います。
その時点で、肉体を持っている私には連絡がありません。
ですが、私が中継する氣には繋がっているのです。
ですから、その人に共鳴して通じてしまうのです。
もちろん、完全ではありませんので、人により、ですが・・・」
類家真司はやっと、何となくわかったような気がした。
「すると、極端な話、その時点で病が好転する事もありうると・・・」
院長は言った。
「そういう事はよくあります。
私に予約を入れた時から具合が良くなる。
そのまま、来院しないで済んでしまう事もあります」
真司は笑って言った。
「先生は治療費をいただかないで、治療が終わってしまうのですね。
それでは困るでしょう」
院長も笑って言った。
「私が生活に困るのは、この仕事を始めた時からですから。
それを覚悟の上で始めたのです。
生活費は、全く別な事で何とかなると思ったのですが・・・
そちらの方面の能力が極端に低いらしく・・・」
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カルテ番号 る・1（20）
類家真司は院長の言葉の意味が解らなかった。
院長にアクセスする前に始まっている？
それは理屈に合わない。
院長は少し笑って言った。
「私は気功にアクセス、と言いました。
私にアクセス、ではありません。
つまり、気功は私が出しているのではない、ということになります。
私は、単なる仲介者。
通常は私の意思によって仲介しています。
ですが、私の意思が無くても仲介できるようです。
気功の元、ソースがどこかにあります。
そこから、私だけではないでしょうが、私が仲介しています。
例えれば、窓口のようなものです。
一つの窓口の係ですが、私の意思でコントロールしていません。
いえ、多少はコントロールもしています。
ですが、基本は解放しています。
私が相手を知らなくても、私に氣を向ける。
それが本気なら、ある程度は受けてしまうのですね」
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「先生、ありがとうございました。
これだけで、うなされる事が消えたと感じます。
沢山気づいた事があります。
例えば、今の状態です。
一つの病を治すのに、一つの方法しかないわけではない。
薬も気功も使わずに治す事ができるのですね」
院長は少し複雑な顔をして言った。
「治ればいいので、その受け止め方でもいいのですが・・・
類家さんだから、実際の事もお話ししておきます。
類家さんは私と話をしただけだと思っていますね。
でも、実は、類家さんが玄関を入った時から気功は始まっています。
この気功を受けていると、余計な力が抜け、話の理解が早いのです。
更に言えば、ちょっと理解し難いかもしれませんが・・・
類家さんがここに来よう、と決めた時から気功が始まっています。
もちろん、その時点では連絡前ですから、私は類家さんを知りません。
それでも、気功は始まっているのです。
この気功にアクセスする主導権は私だけでなく、相手も同じです」
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