大治郎の剣客としての評判は高かった。
ある大名が指南役に欲しがった。
だが、名利より剣の道を歩む大治郎は断る。
すると、指南役は大治郎に勝たねばならぬ、と言った。
その試合の話を聞いた小兵衛と三冬。
「負けておやりなされ。
今の江戸でお前に勝てる剣客はいない」
大治郎は納得できない。
闘ってみなければわからない。
第一、相手に失礼ではないか。
大治郎は、まだマジメの殻が脱げ切れない。
嘗ての弟子を手にかけた小兵衛。
人を活かす剣を教えきれなかった弟子だ。
剣で人を殺め苦しめるようになったからだ。
道場で弟子を教えていた頃は、小兵衛も柔らかさが足りなかった。
その事を、今は気づいていた。
だから、そんな試合で大治郎が負ける事など何でもない。
それにより、困っている一人が指南役になれるのだ。
納得できないまま木刀の試合に臨む大治郎。
気力を欠いての試合だ。
相手もそれなりに強いのは当然。
そして、負けた。
小兵衛たちは、負けてやったと思っている。
いろいろなウワサを聞いた相手も納得しない。
も一度の立会いを求めた。
そして、相手に気づかれぬように、今度は負けてやった。
大治郎、負けてもいい勝負を理解したのだ。
そして、その日、三冬は男の子を無事出産する。
空は真っ青に晴れていた。
(「勝負」より)
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