戦国時代はいくさばかりに興味がそそられますが、平和への道筋が整えば、がらっと様変わりします。家康が秀吉に北条家の旧領240万石の関八州への移封を命ぜられ、家康家臣団は断固として反対しますが、家康はあっさりとこれを承諾します。その理由は「可能性がある」から。しかし、水びたしの低湿地に建つ江戸の千代田城は廃屋然としており、また、飲料水にも窮す土地柄。すべてをやり直すには「有能な民政担当者」を配し、実行に移さなければなりません。
利根川を東遷し、飲料水を現在の井之頭公園から引っ張ってきて、江戸城の改築、そして、小判の鋳造とさまざまなジャンルに適材をマッチングさせ、大プロジェクトを企画運営する。想像するだけでもくらくらしそうですが、平和な天下のためにはどうしても必要となります。
家康は江戸城の天守を「白くせよ」と譲らない理由が、「黒」が土の色から戦争をイメージするのに対し、「白」が平和を表すだけでなく、死者の肌は蒼白であることから、「白」は死をイメージし、天守そのものが戦乱に命を落としたすべての人のための墓石としたい大御所の思いはフィクションと言えども極めて納得できます。戦国の終焉のモニュメントとしての建築物である天守はのちに振袖火事で焼失し、再興されませんでしたが。
『家康、江戸を建てる』(門井慶喜著、祥伝社文庫、本体価格860円、税込価格946円)