2055年、主人公の前田浩平は大手医療機器メーカーの営業課長。仕事ぶりは目立つものもなく、部下である、入社2年目の加藤が新規の契約をどんどん取ってくることに、自分自身のふがいなさを感じていました。
そんな折、町医者の浩平のお父さんががんでなくなり、1週間休暇することになり、自宅に戻りました。母親から受け取った父の遺言状には、離れの書斎の扱いについて、一切を浩平にまかせるが、書斎の鍵は「しかるべき人」に預けていると書かれていました。読書家の父に読書を薦められても、父への反発もあり、全く書籍には手を触れ無い状態で現在に至っていました。「しかるべき人」とは誰か、そして、電子書籍が主流になった2055年に、プリントメディアである書籍をどうするべきか考え始めました。
その休暇中に、加藤が東都大学病院との大型契約を受注しましたが、契約の場には出席できないので、浩平に急遽の出勤要請があるところから、この物語は大きく巡ります。
「素晴らしい人生を保証してくれるのは、才能ではなく習慣だ。(中略)習慣によってつくり出すべきものは思考。心と言ってもいい。」
「読む前は単なる紙の塊でしかありませんでした。でも、読んだ後は、無限の広がりを持つ一つの世界への入口になる。」
「成功したから書斎を作ったのではなく、書斎が必要なほどたくさんの素晴らしい本と出会ったからこそ成功した。」
「本との出会いが増えるほど、自分の才能や可能性に気づき、驚くはず。」
「読書は、常識的な感覚を持つためにするものではありません。むしろ、『自分らしく生き切る勇気』をもらうためにする。」
「読書は本のなかの偉人の志を受け継ぎ、エネルギーを受け取ることができる。」
「自分以外の人のために本を読むほうが、読書の本来の目的である。」
読書をこれでもしないのかというほどの名言が湧き出てきます。浩平は父の遺言状から、自分の人生を見直し、父の書斎の本を相続する、つまり読むことに踏み出します。読書をするという習慣を持つか否かは、人生を決する分水嶺かもしれません。
『書斎の鍵』(喜多川泰著、現代書林、本体価格1,400円)