●児玉龍彦教授と桜井勝延市長は「年間被曝量1mSv以下」の基準をいち早く打ち出した。国も「11mSv」基準で年明けから本格除染に向けて動き出している。二人の除染の全体像は如何に。
原発事故で飛散した放射性物質を墨に譬えれば、いまは空からパーッと広範囲に撒かれた状態だ。そこを除染し、白くきれいな「点」にするイメージだ。具体的には、南相馬の幼稚園や保育園で表土を除き、木を切り、屋根を洗い、遊具を取り換えている。【児玉】
「百の議論より一つの成功例を」と児玉教授は言っている。被災地の現場感覚にぴったりだ。うちの教育委員会の職員は、児玉教授から線量計の使い方を教わり、すぐ現場に飛び出て動き出した。【桜井】
厚生労働省が5~6月に東北、関東、四国で108人の母親の母乳を検査したところ、福島在住の7人の母親から母乳1.9~13.1Bq/kgのセシウムが検出された。その時点で基準論議をしている暇はない、白い点をたくさん作っていかねば、と南相馬に除染に入った。福島市には福島大・福島県立医大、いわき市には筑波大などが入っていたため、東大・新潟大は南相馬を中心に活動することになった。同時に、原発20km圏内や計画的避難区域の交戦両地域に通じる常磐自動車道、国道6号・114号・288号などの「線」の除染も進める。高線量地域へのアクセス確保に必要だからだ。さらに田畑・森林の「面」の除染へと展開しなければならない。【児玉】
除染で出た放射性廃棄物の「仮置き場」が問題だ。林野庁は、汚染された土・稲わらなどを一時的に国有人の敷地内に無償で置くことを認めた。仮置き場に3年、その後中間貯蔵施設に移して30年以内に最終処分、と国・県はいう。が、地元は仮置き場が半永久化するのを恐れている。国有林は大切な水源地だ。そこに放射性廃棄物を置いていいのか、と。【桜井】
合意形成は大変だ。学者は具体的なアイデアを提供して、被災地の合意づくりを支援するしかない。<例1>森林発電のプラン・・・・汚染された森の木を切って燃やして発電し、一方で植林して30年かけて森を再生する。汚染木材・汚泥についたセシウムが700度以上で帰化する性質を利用して、燃やすときにフィルターでセシウムを除去する。太平洋セメントにその技術がある。「東日本大震災復興支援財団」(孫正義・ソフトバンク社長)が興味を示している。<例2>島津製作所は、30kgの米袋を10秒で検査できるGBO検査器を急ピッチで開発中だ日本には自然エネルギーにも21世紀の産業革命にも通じる技術がある。【児玉】
被災後、南相馬を脱原発の世界的ノウハウと情報の集積地として再生したい、とずっと述べてきた。自分たちなりの考えもある。南相馬は津波被害も甚大で、海岸線の復旧が急務だ。そこで、放射性物質がついた泥を密封して防潮堤の埋め立てに使おうと考えた。泥の上に土を被せて樹木を植え、防潮林にする。泥も有機物として生かせる。【桜井】
泥を入れる容器・コンテナを工夫すれば十分に可能性はある。【児玉】
●除染から復興への道のりは海図のない航海のようだ。安全な航路が約束されているわけではない。莫大な費用もかかる。いっそ住めるところと住めないところをきっちり分けたほうが早いのではないか、という意見がある。
除染には大切な家族・地域・文化・歴史を育んできた故郷を取りもどすのだ、という覚悟と決意が求められる。費用はかかる。二本松市で60坪の戸建て100軒くらいの除染費用をハウスメーカー・放射線業者に見積もってもらったら、1戸500万円くらい。セシウムが残った屋根を葺き替えるとなると、さらに500万円。だから、政府・国民の覚悟と決意が必要だ。【児玉】
南相馬市は、震災前で住宅と事業所合わせて46,000軒。1軒500万円をかけたら2,300億円になる。自治体レベルでは財政的には絶対無理。現段階では、除染費用として市は補正予算10億円を組んで対応しているが、国は戸建ての除染にやっと70万円出す、と決めたところ。ケタが違う。日頃、原発担当相を始め政府には、除染費用を全部もってくれ、と言い続けている。そもそも加害者は誰か。東京電力と国ではないか。【桜井】
除染に取りかかった当初、文部科学省の役人から「待った」がかかった。根拠になる法律がないから、大学のアイソトープセンターは原発事故に関わるな、と言われた。福島県の生活圏にはチェルノブイリ原発周辺で15年かけて増殖性膀胱炎を引き起こしたのと同等の汚染環境がある、と推定される。国民の命を守るのが医者の仕事。法律より現実への対処だ。【児玉】
財源がない、法律がないからできないというのは無責任な言い訳だ。【桜井】
危険・安全の二分法で地域を分断しては元も子もなくなる。線量の高い地域からの移転は必要だが、集団で疎開するなら新しい町が求められる。地域に根ざして生きてきた人も多い。除染して住み続けるのと避難とどちらがいいか。本気で覚悟を決めて考えねばならない。【児玉】
以上、児玉龍彦(東京大学アイソトープ総合センター長兼東大先端関学技術研究センター教授)/桜井勝延(福島県南相馬市長)「苦しんでも光を探り出す」(「AERA」2011年12月26日号)に拠る。
【参考】「【震災】原発>除染効果の有無(1) ~効果あり~」
「【震災】原発>測定と除染 ~妊婦と子どもを守るために~」
「【震災】原発>児玉龍彦教授、「除染法」第56条改正を要求 ~原子力安全委員会批判~」
「【震災】原発>低線量放射性物質の害 ~チェルノブイリ膀胱炎~」
「【震災】原発>広島原爆29.6個分の放射性物質 ~児玉演説~」
「【震災】原発>国の除染では効果がない ~効果的な除染法は~」
「【震災】原発>食品>農林水産省、その無能の証明~牛肉とコメ~」
「【震災】震災復興と原発事故賠償の費用 ~60兆円以上~」
↓クリック、プリーズ。↓
原発事故で飛散した放射性物質を墨に譬えれば、いまは空からパーッと広範囲に撒かれた状態だ。そこを除染し、白くきれいな「点」にするイメージだ。具体的には、南相馬の幼稚園や保育園で表土を除き、木を切り、屋根を洗い、遊具を取り換えている。【児玉】
「百の議論より一つの成功例を」と児玉教授は言っている。被災地の現場感覚にぴったりだ。うちの教育委員会の職員は、児玉教授から線量計の使い方を教わり、すぐ現場に飛び出て動き出した。【桜井】
厚生労働省が5~6月に東北、関東、四国で108人の母親の母乳を検査したところ、福島在住の7人の母親から母乳1.9~13.1Bq/kgのセシウムが検出された。その時点で基準論議をしている暇はない、白い点をたくさん作っていかねば、と南相馬に除染に入った。福島市には福島大・福島県立医大、いわき市には筑波大などが入っていたため、東大・新潟大は南相馬を中心に活動することになった。同時に、原発20km圏内や計画的避難区域の交戦両地域に通じる常磐自動車道、国道6号・114号・288号などの「線」の除染も進める。高線量地域へのアクセス確保に必要だからだ。さらに田畑・森林の「面」の除染へと展開しなければならない。【児玉】
除染で出た放射性廃棄物の「仮置き場」が問題だ。林野庁は、汚染された土・稲わらなどを一時的に国有人の敷地内に無償で置くことを認めた。仮置き場に3年、その後中間貯蔵施設に移して30年以内に最終処分、と国・県はいう。が、地元は仮置き場が半永久化するのを恐れている。国有林は大切な水源地だ。そこに放射性廃棄物を置いていいのか、と。【桜井】
合意形成は大変だ。学者は具体的なアイデアを提供して、被災地の合意づくりを支援するしかない。<例1>森林発電のプラン・・・・汚染された森の木を切って燃やして発電し、一方で植林して30年かけて森を再生する。汚染木材・汚泥についたセシウムが700度以上で帰化する性質を利用して、燃やすときにフィルターでセシウムを除去する。太平洋セメントにその技術がある。「東日本大震災復興支援財団」(孫正義・ソフトバンク社長)が興味を示している。<例2>島津製作所は、30kgの米袋を10秒で検査できるGBO検査器を急ピッチで開発中だ日本には自然エネルギーにも21世紀の産業革命にも通じる技術がある。【児玉】
被災後、南相馬を脱原発の世界的ノウハウと情報の集積地として再生したい、とずっと述べてきた。自分たちなりの考えもある。南相馬は津波被害も甚大で、海岸線の復旧が急務だ。そこで、放射性物質がついた泥を密封して防潮堤の埋め立てに使おうと考えた。泥の上に土を被せて樹木を植え、防潮林にする。泥も有機物として生かせる。【桜井】
泥を入れる容器・コンテナを工夫すれば十分に可能性はある。【児玉】
●除染から復興への道のりは海図のない航海のようだ。安全な航路が約束されているわけではない。莫大な費用もかかる。いっそ住めるところと住めないところをきっちり分けたほうが早いのではないか、という意見がある。
除染には大切な家族・地域・文化・歴史を育んできた故郷を取りもどすのだ、という覚悟と決意が求められる。費用はかかる。二本松市で60坪の戸建て100軒くらいの除染費用をハウスメーカー・放射線業者に見積もってもらったら、1戸500万円くらい。セシウムが残った屋根を葺き替えるとなると、さらに500万円。だから、政府・国民の覚悟と決意が必要だ。【児玉】
南相馬市は、震災前で住宅と事業所合わせて46,000軒。1軒500万円をかけたら2,300億円になる。自治体レベルでは財政的には絶対無理。現段階では、除染費用として市は補正予算10億円を組んで対応しているが、国は戸建ての除染にやっと70万円出す、と決めたところ。ケタが違う。日頃、原発担当相を始め政府には、除染費用を全部もってくれ、と言い続けている。そもそも加害者は誰か。東京電力と国ではないか。【桜井】
除染に取りかかった当初、文部科学省の役人から「待った」がかかった。根拠になる法律がないから、大学のアイソトープセンターは原発事故に関わるな、と言われた。福島県の生活圏にはチェルノブイリ原発周辺で15年かけて増殖性膀胱炎を引き起こしたのと同等の汚染環境がある、と推定される。国民の命を守るのが医者の仕事。法律より現実への対処だ。【児玉】
財源がない、法律がないからできないというのは無責任な言い訳だ。【桜井】
危険・安全の二分法で地域を分断しては元も子もなくなる。線量の高い地域からの移転は必要だが、集団で疎開するなら新しい町が求められる。地域に根ざして生きてきた人も多い。除染して住み続けるのと避難とどちらがいいか。本気で覚悟を決めて考えねばならない。【児玉】
以上、児玉龍彦(東京大学アイソトープ総合センター長兼東大先端関学技術研究センター教授)/桜井勝延(福島県南相馬市長)「苦しんでも光を探り出す」(「AERA」2011年12月26日号)に拠る。
【参考】「【震災】原発>除染効果の有無(1) ~効果あり~」
「【震災】原発>測定と除染 ~妊婦と子どもを守るために~」
「【震災】原発>児玉龍彦教授、「除染法」第56条改正を要求 ~原子力安全委員会批判~」
「【震災】原発>低線量放射性物質の害 ~チェルノブイリ膀胱炎~」
「【震災】原発>広島原爆29.6個分の放射性物質 ~児玉演説~」
「【震災】原発>国の除染では効果がない ~効果的な除染法は~」
「【震災】原発>食品>農林水産省、その無能の証明~牛肉とコメ~」
「【震災】震災復興と原発事故賠償の費用 ~60兆円以上~」
↓クリック、プリーズ。↓