語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】法人税率引き下げより賃金引き上げ ~野田政権のヘンな減税~

2011年12月01日 | 社会
 復興増税法が11月30日に成立した。関連法で、償還完了期間を25年とする「復興債」の発行を定めた。2011年度第3次補正予算(総額12.1兆円)の執行が可能になる。
 所得税は、2.1%増額(2013年1月~25年間)。法人税は、実効税率(国税+地方税)をいったん5%下げたうえで、2012年4月から3年に限って税率を約2.4%引き上げる。地方税は、個人住民税の均等割を年1,000円増額(2014年6月~10年間)【注1】。

 法人税実行効率を40%-5%=35%にしたうえで(向こう3年間)2.4%引き上げるとは、35%×1.024=35.84%にする、ということだ。つまり、40%-35.84%=4.16%の減税だ。
 「向こう3年間」を度外視し、法人税減税(30%→25.5%、法人税実行効率40%→35%)を取りやめれば、向こう10年間でおよそ12兆円の復興財源が生まれる。所得税付加税は必要ない。
 大震災後、巨額の復興資金が必要な状況を踏まえれば、政府は法人税減税を中止すべきであった。

 そもそも、法人税率引き下げの論拠は、次のような政府の思い込みによる。
 (1)日本の法人実効税率が「先進国の中で米国と並んで最も高い水準にある」(2011年税制改正大綱)。
 (2)国内企業の国際競争力強化と外資系企業の立地を促進→雇用と国内投資を拡大→日本経済を本格的な成長軌道に乗せていく・・・・のが「喫緊の政策課題」で、これに法人税率引き下げが有効だ。

 しかし、
 (1)←①先進国を大別すれば、(a)米国、(b)日本、(c)欧州諸国だ。(a)と(b)が高いなら、先進国の3分の2が高いことになる。多数派に属する日本が、なぜ3分の1の少数派(c)の側に移らなければならないか。この論は論拠になっていない。
 (1)←②日米の法人実効税率はともに40%台と高いが、社会保険料の負担と合わせた負担率で見ると、日本の法人の負担率は欧州諸国に比べて低い【注2】。日本企業の税負担を欧州諸国並みに下げるなら、社会保険料負担は大幅に引き上げなければならない。

 (2)←否定的なアンケートが2つある。
 ①法人税率引き下げで生まれた資金を何に充当するか。・・・・答の第一は「内部留保に回す」。第二は「借入金の返済に充てる」。「設備投資の増強」「研究開発投資の拡充」など国際競争力の強化に役立つと目される項目の回答順位は低い(帝国データバンク、2010年7月)。
 ②企業に海外移転の理由を訊いたもの。・・・・答の第一は「人件費の安さ」。第二は「消費地に近い」。第三は「製品・原材料が安い」。「税負担の軽さ」はずっと後順位だ(経産省、2010年4月)。
 法人税率引き下げは、企業の国際競争力強化や外資系企業の立地促進にはほとんど役立たないのだ。

 ちなみに、1997年来の「構造改革」政策は、日本経済を国内需要がまったく伸びない経済にした【注3】。
 その結果、スイスの国際経営開発研究所(IMD)の「国際競争力ランキング」が下がった(1990年代初め1位→2011年26位)。すなわち、日本の立地競争力が衰えた。
 日本の立地競争力を強める道は、法人実効率の引き下げではない(その効力は僅かだ)。国内需要を伸ばすことであり、そのためには賃金引き上げが必要なのだ。

 【注1】記事「復興増税法が成立、所得増税は25年」(2011年12月1日3:30  日本経済新聞電子版)
 【注2】財務省の調査によれば、税と社会保険料負担率は、
 <例1>自動車メーカー・・・・日30.4%、仏41.8%、独38.9%。
 <例2>エレクトロニクスメーカー・・・・日33.3%、仏49.2%、独38.1%。
 【注3】「経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~

 以上、山家悠紀夫「野田内閣・増税案の何が問題か」(「世界」2011年12月号)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【社会保障】日本で暮らすブータン人も幸せか ~国民総幸福~

2011年12月01日 | 医療・保健・福祉・介護
 「国民総幸福(GNH)」【注】は、ブータンの国策だ。前国王が1976年に提唱した。社会の発展には、物質的な豊かさの追求だけではなく、精神的な豊かさが不可欠だ、とする。
 ブータンではチベット仏教の教えが深く浸透し、家庭や職場での人と人との絆が深い。困ったことがあれば、助け合う。助け合いはGNPやGDPにカウントされないが、ブータン人はそういうやりとりに幸せを感じる。【大橋照枝・東北大学大学院客員教授】
 幸せの範囲が広い。輪廻転生を信じるブータン人は、現世で嫌なことがあっても「来生もある」と考えることができる。また、家族の絆が強いため、幸せは個人ではなく家族単位だ。家族が幸せなら自分も幸せと感じられる。【御手洗瑞子・「GNH委員会」首相フェロー(2010年9月~2011年8月)】
 ブータンでは、2005年の国勢調査で、国民の97%が「幸せ」と答えた。

 異論もある。
 ブータンは、近年、都市と農村の格差拡大、公務員の汚職、伝統文化の衰退など多くの問題に直面している。
 9割超の幸福率は疑わしい。数字が独り歩きしている。調査は役人との面談で行われるため、幸せじゃない、とは言いにくい。本当に幸せかどうかは、もっと冷静に見るべきだ。【渡辺千衣子・日本ブータン友好協会事務局長】

●ケサン・ワンチュク(29)、横浜国立大学大学院で電気工学を学ぶ、2009年3月来日
 ブータン人は、お金より家族を大切にする。死ぬときにお金を持っていけますか。そばにいてくれるのは家族だ。家族とともに過ごす時、もっとも幸せを感じる。
 日本に来てびっくりした。(1)信仰を持っていない人が多い。ブータンでは、国民の大半がチベット仏教の熱心な信徒だ。他はヒンドゥー教徒かキリスト教徒だ。(2)自殺者が多い。ブータンでは、追いつめられる前に必ず家族か友人が声をかけて助けてくれる。日本人は礼儀正しくて親切なのに、どうしてこんなに孤独な人が多いのか。

●ツェリン・ノルブ(35)、都内の造園会社勤務、2008年来日
 ブータンでは観光ガイドだった。現地ボランティアの日本人女性と結婚し、娘が生まれた。一人っ子の妻の両親が心配だったし、娘の教育を考えて来日した。 
 ブータンでは、アパート全体が大きな家族のようだ。互いの家を行き来したり、子どもを預かるのが当たり前だ。他方、日本のアパートでは、隣の部屋に誰が住んでいるかわからない。だが、妻の両親を含めた家族の絆は強い。日本で次女も生まれた。この家族と一緒なら、日本でも幸せだ。

●ブブ・テンジン(41)、旅行会社(仙台市)経営
 ブータン人は、家に人が来たら、必ずおなかがすいていないか、と訊く。分かち合いの精神があるのだ。大震災後、日本にもそういうものができた。これまで近所とは一言も挨拶をしなかったが、今はおしゃべりもする。近所同士が付き合うようになった。

●ツェリン(33)、自動車部品会社(茨城県つくば市)社員、2009年来日
 ブータンでは観光ガイドだった。日本から旅してきた清香さん(36)と知り合い、メール等で交際し、結婚。出産と日本語の勉強のため来日した。
 ブータンが幸せの国と言われるのは嬉しいが、「変わってほしくない」と言われるのには違和感を感じる。最近、海外の衛星放送やインターネットで新しい情報が急激に入ってきた。若者がiPodをほしいとか、韓流スターと同じ服を着たいと思うのは自然なことだ。ブータン人にも、欲望と節制のバランスが必要になってきている。
 実家は、地方の農家で、電気も水道もない。農業を継いでいた弟が、昨年、都会へ行く、と言い出して大問題になった。農村から都会に出ても、いい仕事はまず見つからない。親族会議が開かれ、ツェリンは告げた。日本では、ブータンの暮らしがとても幸せだと思っている人が多い、農業を始める若者も増えているんだぞ。
 弟は、農業を続ける、と決意した。彼は、経済発展を遂げた日本人は100%幸せなはずだ、と信じていた。

 【注】ブータンの政策の中で、国民総幸福量には4つの主要な柱がある。(1)持続可能で公平な社会経済開発、(2)自然環境の保護、(3)有形、無形文化財の保護、(4)良い統治。(1)には特に篤い政策がとられている。<例>医療費は無料、教育費も制服代などの一部を除いて無料。【上田 晶子「国民総幸福量(Gross National Happiness):経済的に、精神的に豊かであるということ」(「ブータンのスローライフ」)】

 以上、田中敏恵(ライター)/三橋麻子・山根祐作「日本で暮らすブータン人も幸せか 幸せの「種」はどこにもある」(「AERA」2011年12月5日号)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン