語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】本末転倒の「社会保障と税の一体改革」 ~野田政権のアバウトな頭脳~

2011年12月02日 | 社会
 なぜ社会保障と税なのか。両者はにわかには結びつかない概念だ。
 社会保障と軍事費ならわかる。ともに財政支出のかなりを占める項目で、いずれの支出を優先させるべきか、両者を並べて議論することには意味がある。
 社会保障費を主として税で賄うか、それとも保険料でか・・・・これも意味ある議論だ。
 要するに、「社会保障と税の一体改革」には、大切な言葉が抜けているのだ。政権の意図するのは、「財政再建を進めるための社会保障と税の一体改革」なのだ。最大の支出項目を刈り込まなければならない、同時に増税も進めなければならない、というのが、与党が6月にまとめた「社会保障・税一体改革案」の考え方だ。

 政府の土俵に上がらないで、両者を分けて考えれば、そもそも財政の問題から社会保障を考える発想が間違っている。
 社会保障は、人々の暮らしの側からそのあり方を考えるべきなのだ。まず、望ましい社会保障制度を考え、そのうえで費用のことを考えるのが事の順序というものだ。
 この点、先の自・公政権は考え方を誤った。
 <例1>小泉内閣以降の内閣が行った「毎年社会保障費増加分を2,200億円削減する」という方針。
 <例2>2004年の年金制度改正で、「まず将来の保険料負担の上限を設定し、その範囲内で給付水準を調整する」。
 かかる「構造改革」を否定するところから出発した(はずの)民主党政権が、今、同じ轍を踏もうとしている。

 現状の日本の社会保障制度には大きな欠陥が4つある。
 (1)制度はあっても、給付水準が低く、その目的が十分には達せられていない制度が多い。<例>国民年金制度。
 (2)制度はあっても、制度の恩恵に浴せない人が多数存在する。<例1>失業保険(失業者の30%しか失業手当を受給していない)。<例2>生活保護(対象世帯の30%しか受給していない、国民生活基礎調査をもとにした政府による推計)。
 (3)制度は利用できても自己負担が重く、利用しづらい人、利用しないですまさざるをえない人が多数存在する。<例1>医療保険。<例2>介護保険。
 (4)医療、介護など社会保障の現場で働く人たちの処遇が悪い。<例>給料が少ない、労働が苛酷。 

 社会保障改革を謳うなら、これらの諸問題をどう改革し、どう望ましい制度を作りあげていくか、「夢」が語られなければならない。ところが、政府の改革案にはそれが全くない。ただでさえ問題多い現状をもっと問題多くする改悪案ばかりだ。「財政再建を進める」という目標を「社会保障を充実させる」という目標より上位に置いた結果がこれだ。どうやら、野田政権は民主党の党是「国民生活第一」をあっさりとドブに捨てたらしい。
 <例1>受診時定額負担の制度を導入する。
 <例2>病院への入院日数を減少させる(患者追い出しの仕組みを作る)。
 <例3>要介護認定者数の削減を図る(認定を厳しくする)。
 <例4>年金給付水準引き下げを図る。年金支給年齢の引き上げを図る。
 <例5>生活保護受給者向け自立・就労支援を強化する(生活保護の受給期限を設ける)。

 以上、山家悠紀夫「野田内閣・増税案の何が問題か」(「世界」2011年12月号)に拠る。

 【参考】「【震災】法人税率引き下げより賃金引き上げ ~野田政権のヘンな減税~
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