語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【震災】原発>安愚楽牧場の破綻 ~全国7万人の悲鳴~

2011年08月10日 | 震災・原発事故
 8月1日から3日間で、安愚楽牧場の出資者から約330件、50億円以上の相談が寄せられている。支払い停止がこのまま続けば、第二の豊田商事事件のような騒ぎになる。被害総額は数千億だ【注1】。今後は、全国的な弁護団が結成され、破綻処理に加え、全国の裁判所で出資金の返還訴訟など、処理に10年単位の時間がかかる。【紀藤正樹弁護士】

 安愚楽牧場は、全国に40ヵ所の直轄牧場と338ヵ所の預託牧場をもつ。国内最大級の「黒毛和牛」専門の畜産企業だ。同社は、約14万頭の黒毛和牛を保有する(国内の黒毛和牛総数の約8%)。
 同社の特徴は、経営規模もさりながら、運営手法「委託オーナー制度」にある。1口30~100万円の出資金を会員から募り、仔牛が成長して肉牛として売れた時点で売却益を会員に還元するのだ。4~7%の利回り【注2】に魅せられて、会員数は3万人にも及ぶ【注3】。
 「和牛預託商法」は、バブル崩壊直後に大流行したが、出資金詐欺などの事件が相次ぎ、行商が続々と摘発された。唯一の残党が安愚楽牧場だった。

 これまで配当が滞ったことはなく、11年3月期決算でも売上げが初めて1,000億円を超えるなど、業績好調に見えた。
 ところが、8月初めに、同社代理人弁護士名義で、全国の会員に次のような内容の通知があった。
 昨年の宮崎県の口蹄疫問題を皮切りに、放射線漏れ事故による牛の放牧制限【注4】、放射性セシウムの検出による福島県産牛肉の出荷制限など、同社の経営は大きな制限・打撃を受けた。さらに、その風評被害による食肉市場全体で牛肉消費が落ちこみ、経営を一気に悪化させた。支払いを停止し、1ヵ月かけて資産・負債状況を見直す、云々【注5】。

 1頭につき120円/日の預託料が出るが、7月分の支払いはない【注6】。口蹄疫で処分した牛に補償金が出たが、自分のところには安愚楽から月25万円が出ただけだ。本当に困っているのは、預託牧場では本社から指定されたエサしか与えてはいけない定めなのだが、そのエサが届かないことだ。牛が餓死する。本社に訊ねても、今後のことはわからない、と言われるばかり。【口蹄疫の被害を受けた宮崎県の預託牧場】
 生き物を投資対象としたリスクが、原発で浮き彫りになった。

 1千万円くらいの投資は珍しくなく、なかには数千万円の投資をしている人もいる【注7】。
 細野豪志・原発担当相は、同社について、賠償を受けられる可能性はある、という。セシウム汚染牛第1号を出荷した南相馬市の畜産業者は、安愚楽牧場の預託牧場だった。たしかに、同社や会員たちも「被害者」ではある。
 ただ、投資の世界では自己責任が問われる。これまで高利回りの恩恵を受けてきて、いざとなったらその損金を賠償金で穴埋めすることについては釈然としない向きもあるだろう。東電が支払うにせよ国が支払うにせよ、その原資は国民が払う電気料金または税金なのだ。

 安愚楽牧場は、いまは全国展開している【注8】が、81年に創業したときは栃木県の小さな企業にすぎなかった。創業者没後、未亡人の三ヶ尻久美子が社長を継ぎ、役員に親族が入っている。典型的な地方の同族企業だ。現社長は、遺産相続をめぐるトラブルでもそうだが、カネに対する執着心が強い。しかも、口蹄疫にかかった疑いのある牛がいたのに1ヵ月以上報告せず、11年1月に宮崎県から経営の改善指導を受けるなど、脇が甘い。

 【注1】安愚楽牧場は、8月9日、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、財産保全命令を受けた。3月末時点で、負債額は619億8,700万円。オーナーから繁殖雌牛を買い戻す費用を含めると4千億円以上が必要になる。しかし、同社の再建計画案では、牛の買い戻し額は元本の1割程度と想定されている。オーナーにとっては大幅な元本割れになる可能性が高い。【2011年8月10日付け朝日新聞】
 【注2】利回りは、バブル期には年10%を超え、東日本大震災前で年3~4%だった。【前掲紙】
 【注3】契約していたオーナーは、47都道府県に約7万1千人。【前掲紙】
 【注4】3月以降、オーナーからの解約申し込みが従来の3~4倍に増えた。【前掲紙】
 【注5】再建計画案は、(a)全国に40カ所ある直営牧場を10カ所程度に集約。(b)333カ所の委託牧場も縮小か廃止。(c)飼育規模を現状の約15万頭から数万頭に減らす。(d)700人近い従業員の整理・・・・が柱。
 【注6】安愚楽牧場が取引先にあてた7月20日付け文書では、原発事故に伴う牛肉の放射性セシウム汚染などをあげ、売り上げの予定が全く立たない、と決済の延期を求めている。しかし、その事実をオーナーにはすぐには伝えていなかった。しかも、同社東京支店では7月28日まで社員が電話の問い合わせに応じ、新規契約も受け付けていた。同社月報誌でも、8月末を締め切りにして新規契約を募集していた。【前掲紙】
 【注7】投機目的で利用していたオーナーも多い。繁殖雌牛の購入費、飼育・管理費、えさ代など3億円を投じているオーナーもいる。【前掲紙】
 【注8】各地のオーナーが所有する和牛の繁殖雌牛は約7万頭。国内の繁殖雌牛の約1割を占める。今後財産整理の過程で肉用に処分されるなどすれば、国内の子牛生産基盤が1割減る。また、同社から和牛飼育を委託された農家は全国に300戸超。委託料支払いの停滞などで農家が急激な経営悪化に陥ることがないか、農林水産省畜産部は各県に調査を依頼した。【前掲紙】

 以上、記事「高利回り『和牛商法』破綻寸前! 安愚楽牧場に投資した会員3万人の『絶望』」(「週刊現代」2011年8月20・27日号)に拠る。
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