語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会】内部通報制度の現実 ~九電のガバナンス不全・補遺~

2011年12月16日 | 社会
 これまでの企業不祥事では、リーガルリスクへの関心が高かった。しかし、現在では社会からの信頼を失うようなレビュテーション(評判)リスクが大きな問題となっている。
 最近の例では、九州電力の「やらせ」メール問題がある【注】。

 食中毒発生、性能偽装、製品事故などの不祥事を一次不祥事とすれば、より深刻なのは二次不祥事だ。<例1>製品事故を公表せずに隠蔽する。<例2>パワハラ・セクハラの相談があっても放置する。
 一次不祥事を起こさないようにすることは大事だが、それ以上に二次不祥事を防ぐことは大切だ。二次不祥事にこそ、企業風土が顕著に表れるからだ。
 二次不祥事を防ぐのに大切なのは、そのリスクを知ることだ。これが簡単なようで難しい。自浄能力の発揮がポイントだ。
 大きな不祥事には第三者委員会を設置するのが一般的になっているし、組織ぐるみの不祥事が長年行われていた場合には第三者委員会を設置して全件を委ねる必要がある。ただし、社内調査で誠意をもって対応し、消費者、投資家、地域住民に自浄能力を示すこともできる。
 ちなみに、オリンパスにも大王製紙にも社外役員はいたが、不明瞭な取引は把握できなかったし、声を上げることはできなかった。取締役によるガバナンスを強化しようといっても、どうしても限界がある。

 そこで有効なのは、内部通報の活用だ。
 「経営者の不正」には弱点があって、不正が小さいうちは単独でできるが、不正が大きくなると経営者だけでは完結できない。そこで、従業員を巻きこみ、巻きこまれた従業員は苦悩する。だから、従業員からの内部通報が機能する仕組みが大切になる。
 従業員による通報が、外部のモノ言える独立取締役や弁護士に直結するシステムであれば、不正の早期発見に有効だし、さらに経営者に対する抑止力にもなる。メリットは、ほかにもある。社内できちんと受け止めて対応すれば、そのことによって自浄能力がある会社だ、と評価される。そして、社外に向かって通報される内部告発(企業にとってリスクが大きい)の防止につながる。

 内部通報の窓口を担当している経験から、リスクが高く不正が発生しやすい部署に勘が働くようになる。一次不祥事の予兆を早期に見つけることができる。
 <例1>営業現場:人事が固定し、ローテーションが行われない。特に誰もやりたがらない仕事を長年任されている人。自分だけがこんな仕事をしているのだから、と不正を正当化してしまう。
 <例2>生産現場:社内ルールが守られているか否かがチェックポイント。好景気で人的資源が豊富な時代のルールが残り、形骸化している例は多い。社内ルールを守らない組織は、リスク感覚に乏しい。

 【注】「【震災】原発>九州電力のガバナンス不全症候群 ~経営者の暴走~
    「【震災】原発>九州電力の3つの誤算 ~「やらせメール」~
    「【震災】原発>「やらせメール」知事指示のメモ、九電の証拠隠滅

 以上、山口利昭(弁護士)「不祥事対応 二次不祥事で露呈する企業風土」(「週刊東洋経済」2011年12月17日号 「ガバナンス不全症候群」特集)に拠る。

   *

 では、内部通報制度の現実はどうか。
 2007年、オリンパスの濱田正晴・精密検査システム営業チームリーダーは、上司が取引先の機密情報を握る技術者2人を引き抜こうとしているのを知った。取引先との信頼関係が崩れるし、倫理的にも許されない・・・・と、社内のコンプライアンス窓口に通報した。すると、異動を言い渡された。
 2008年、濱田氏は配置転換の無効を主張し、東京地裁に提訴した。
 地裁は、配転命令を「必要な措置」とし、減給も「わずかな額」で「報復目的ではない」と判定した。
 高裁はしかし、オリンパスが定めた社内規定に違反していると判定し、相談窓口の守秘義務違反、人格権侵害も認め、2011年8月、無効判決を下した。
 会社は上告した。

 2006年に施行された公益通報者保護法を受けて、コンプライアンスやヘルプラインといった内部通報に係る窓口を設けている企業は多い。しかし、これが正しく機能しているとは、とても言いがたい状況だ。
 そもそも、同法がわかりにくい。
 (a)「不利益処分」を禁じているが、その定義が曖昧で判断しにくい。解雇、大幅な減給といった制裁的色合いの濃い措置ならば立証しやすいが、配置転換に関しては会社に裁量の幅があって、報復目的かどうか見えにくい。通報者を閑職に追いやることで実質的な脱法行為が可能になる。
 (b)通報先も説明が必要だ。まず労務提供先(会社)に通報する。それでダメなら監督官庁に持っていってもよい。それでも動いてくれないなら、報道機関に告発してもよい・・・・というものだ。
 (c)通報対象は、430余の法律に違反した場合に限られる。だから、対象外の政治資金規正法に係る違反を通報しても通報者は保護されない。

 企業の内部通報体制にも問題は多い。自浄作用を働かせてほしい、と企業の健全性を信頼したのに、自分たちが作ったルールさえ守っていない。さらに問題なのは、公益通報者保護法に違反してもペナルティを科すことが出来ない点だ。韓国や米国には、通報者に裁判費用や報奨金を出す仕組みがあるが、日本にはない。【中村雅人・弁護士】

 濱田氏は、8月の逆転勝訴の後も、待遇は変わらない。一人机に向かい、工場の品質データを黙々と打ちこむ日々が続いている。
 内部通報した社員が守られないのであれば、内部通報によって企業の不正を防ぐことなど、とうていできるはずはない。

 以上、記事「内部通報制度 企業の自浄作用に期待できない現実」(「週刊東洋経済」2011年12月17日号 「ガバナンス不全症候群」特集)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【震災】原発>九州電力のガバナンス不全症候群 ~経営者の暴走~

2011年12月15日 | 震災・原発事故
 九州電力は、「やらせ」メール問題【注】で、自社が設置した第三者委員会の最終報告書に対する見解の違いを記した自社の報告書を出し、その後も第三者委と質問状の応酬が続いている。
 事件発覚直後は辞任の意向を漏らしていた眞部利應・社長は、10月27日の定例取締役会以降も社長に居座っている。
 他方、枝野幸男・経産相は、九電の報告書を「理解不能」と斬って捨て、社長続投に対して否定的な発言を連発。報告書の内容変更がない限り原発再稼働は容認できない、としている。

 8月9日、九電が組織的に証拠書類を破棄したことが発覚した。
 この日、九電が手配して記者会見を開催する仕儀となったが、郷原信郎・第三者委員会委員長/弁護士が打ち合わせのため眞部社長と連絡を試みてもつかまらない。ようやく連絡がとれたのは、会見開始20分前のこと。しかも、眞部社長は酔っぱらって、「何で会見を開くんだ」「どうせ自分は辞める人間」と後ろ向きな発言を続けた。「もうあの人にはついていけない」と、混乱の中で幹部の一人がつぶやいた。これを聞いて郷原弁護士は、<この会社が原発なんて運営できるのだろうか、と思った。そこが発端となって、会社のあり方を根本的に立て直さなければいけない、という認識を持ち始めた。>

 そもそも、電力会社にはガバナンスについて構造的な問題がある。電力会社特有のビジネスモデルだ。公益性の高いサービスを提供する一方、「総括原価方式」に支えられている。サービスさえ提供しておけば、利用者から安定的な収益を上げることができる。
 経営者による創意工夫が企業価値や収益向上につながることが少ないため、経営者に対するステークホルダーの意識が低かった。ために、経営者への内外の監視の目は緩かった。
 他方、公益性の高さから規制が多く、唯一怖いのは行政との関係だった。今回の「やらせ」メール問題にしても、九電が佐賀県知事発言をもとに「やらせ」を要請し、双方の独立性が保たれていなかった。
 本来ならば、電力会社に対して監視機能を発揮すべき行政とのなれあいがあった点でも、ガバナンス機能が作用していなかった。
 第三者委は、最終報告書で、経営トップの問題認識能力の欠如、会社執行部に対する索制機能の一部不足が問題の本質の一つだ、とガバナンス問題にも言及した。

 九電は、指摘を真摯に受け止めることが必要だ、という認識は示した。また、社外取締役、社外監査役による索制機能の強化など、第三者委からの要望に対して改善策を打ち出している。しかし、社外取締役は今のところ非常勤役員が1人のみだ。社外監視機能の強化にはほど遠い。
 しかも、九電では基本的には今回はコンプライアンス上の問題と見る向きが多く、第三者委との認識のズレは大きい。このまま事態が膠着し続ける可能性は高い。

 今回の「やらせ」要請が、世間が原発や電力会社に不信感を募らせているにもかかわらず、社会的な要請とは真っ逆さまの行為を行ったコンプライアンス問題であったことは間違いない。
 しかし、より深刻なのは、こうした問題が起こる土壌が作られていたことだ。
 情報開示の徹底を含めた透明性の向上が必要だ。第三者委は、資料破棄などの九電の隠蔽体質を問題視している。

 【注】「【震災】原発>九州電力の3つの誤算 ~「やらせメール」~
    「【震災】原発>「やらせメール」知事指示のメモ、九電の証拠隠滅

 以上、記事「九州電力 第三者委の報告を「無視」 大臣巻きこむ泥仕合に」(「週刊東洋経済」2011年12月17日号 「ガバナンス不全症候群」特集)に拠る。

   *

 今回問題だったのは、第三者委が九電とで問題のとらえ方が違ったことだ。
 第三者委は、過去の原発問題に対する会社の対応や姿勢が問題で、それを直さないといけない、と考えた。世の中が原発に対して客観的で公正な判断をする枠組みを作らないといけないと、問題の本質をとらえた。
 しかし、九電は「やらせ」メールというやり方をとったことが社会規範に反する行為だった、とはしつつ、それがなぜ規範に反するかを述べていない。しかも、第三者委が知事の責任追及を目的として、委員会として範囲外のことをやっているかのような話に持ちこもうとしている。
 一連の動きの中で、問題は知事発言や第三者委のあり方ではなく、九電の経営者の姿勢にあることが明らかになってきた。眞部社長は、知事発言を否定し、第三者委との対立を引っ張ってきた。だから、九電の報告書では非を認めていない。非を認めれば自分の責任になってしまうからだ。経営者の暴走だ。
 それを他の取締役や監査役が指摘しないといけないのに、それができていない。
 他の取締役や監査役は、社長の暴走に巻きこまれ、共謀者になってしまった。
 公益企業である電力会社と、一般の民会企業とでは、第三者委の果たすべき役割は違う。電力会社には、第三者委がガバナンス機能を果たさないといけない。

 以上、インタビュイー:郷原信郎「電力会社には独立した監視機関が必要」(「週刊東洋経済」2011年12月17日号 「ガバナンス不全症候群」特集)に拠る。
 
   *

 東京電力のコーポレートガバナンスに対する評価は、100点満点中わずか2点。
 2009年7月発行のリポートに、フランスの「ヴィジェオ」はこう記載した。同社が格付けを行う世界2,100社の中でも最低だ。
 社外取締役の数や取締役会に設置された委員会などの機能に関する質問状を送付しても、東電から回答はなかった。
 電力会社にも評価が低くないところはある。東電の場合は、透明性の欠如が問題だ。【「ヴィジェオ」】
 顧客は、格付け対象企業ではなく、投資家だ。応酬の年金基金や生命保険会社などが大半を占める。日本で情報を購入しているのは2社にすぎない。日本でも年金基金が社会的責任投資(SRI)に前向きにならなければ、企業側も変わらない。【ロベール・ヴェルディエ「「ヴィジェオ」日本代表】

 以上、コラム「東京電力 隠蔽体質見抜いた仏格付け会社」(「週刊東洋経済」2011年12月17日号 「ガバナンス不全症候群」特集)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【経済】消費税は失業者を増やす

2011年12月14日 | 社会
 消費税は、金持ちに非常に有利な税金だ。
 <例>年収300万円の人は、年収を全部消費するから消費税額15万円を払う。つまり、所得に5%課税されるのと同じことだ。他方、年収1億円の人が2千万円を消費にまわし、8千万円を金融資産にまわした場合、消費税額100万円を払う。つまり所得に1%課税される。
 財界や資産家が消費税を推奨する理由は、ここにある。

 先進国の消費税と比べて日本の消費税は安い・・・・というのは、実はウソだ。
 日本の消費税は、実質的に世界一高いからだ。
 日本の物価は、世界一といってよいほど高い。デフレで物の値段が下がってはいるが、元の値段が世界水準よりも高いのだ。
 マーサー『2001年世界生計費調査』によれば、東京はアンゴラについで2番目に高い。ルアンダは、長年、内戦が続いていた国だ。物資は不足し、国民経済が疲弊し果てている。だから物価が高くても仕方ない、と言える。しかし、平和ニッポンの物価が世界で2番目に高いというのは、異常だ。しかも、数十年間、ずっと日本の物価は世界でも高いのだ。
 この物価の高さは、公共料金の高さ(<例>原発事故後に天下周知のものとなった電力料金)など、さまざまな要因がある。
 もともと物価が高い国で、さらに物価を上げるような税金を作ったら、どうなるか。  
 当然ながら、消費は冷え込む。日本では、消費の冷え込みが慢性化している。消費税導入(1989年に3%、97年に5%)以降に。
 物価が上がれば、今以上に国民生活が苦しくなるのは目に見えている。 
 もともと高い物価をさらに引き上げる税金を作るべきか、あり余っている資産に税金をかけるべきか。答は簡単なはずだ。

 消費税は、失業者を増やす税金だ。
 消費税は、システム上、人件費が大きい企業ほど納付税額が大きくなる。
 企業は、売上げのときに客から預かった消費税を全額納付するわけではない。仕入れや経費の支払いのときに、支払った消費税を差し引いた残額を納付するのだ。
 要するに、売上げから経費を差し引いた額に、5%をかけたものが企業が納付する消費税となる。
 だから、消費税の計算上、企業の経費から給料分は除外される。よって、人件費の大きい企業は得をする。
 となると、企業は正社員を雇うより、その業務を中小企業に委託したり、派遣社員を雇うほうが得になる。だから、消費税は、正社員を減らし、派遣社員を増やす、という圧力を持っているのだ。
 事実、消費税が導入されて以来、企業は正社員を減らし、派遣社員を増やす傾向にある。派遣社員の増加は、消費税の導入だけが理由ではないが、大きな要因の一つだ。

 【注】「【読書余滴】野口悠紀雄の、貧富格差の拡大に経済政策は無対応 ~ニッポンの選択第29回~

 以上、武田知弘「放射能汚染がれき焼却処理の間違い ~数字が見抜く理不尽ニッポン 第4回~」(「週刊金曜日」2011年12月9日号)に拠る。

 【参考】「【経済】「億万長者激増」の原因 ~税制~
     「【経済】「億万長者激増=景気低迷原因」説 ~日本に5万人の億万長者~
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【震災】原発>古賀茂明の、放射性物質漏洩の罰則はない

2011年12月13日 | 震災・原発事故
(1)放射性物質を漏洩しても、取り締まる法律がない
田原総一朗 原発事故で放射性物質が大気中や海中に漏れた。でもこれは、日本の法律では違法ではないですね。カドミウムを漏らせば違法だけれど、放射性物質のヨウ素やセシウムは合法で、取り締まる法律もない。
古賀茂明 環境への漏洩が想定されていませんからね。原子力関係は、環境問題からはずれてしまっています。大気をいくら汚染しても、大気汚染防止法には引っかかりませんし、土壌汚染対策法の対象にもなっていません。
田原 だから放射能汚染の担当官庁もなかった。ようやく環境省と決まり、事故から半年たってそろそろ研究を始めるそうです。法律がないから、研究が2012年4月までかかる。ソ連はチェルノブイリのとき1ヵ月でやったのに。
古賀 だから原発の規制は、建前の世界です。原発は実験炉を文科省が、商用炉を経産省が所管していて、事故だけは起こすなという規制は、いろいろとものすごく細かくある。でも、今回のような事故で放射性物質が漏れ出たとき、刑事罰を科すような規制はありません。
田原 国民に何兆円という損害を与えた事故を招いた東電の経営者に対して、法的には何一つできない。
古賀 逆に言うと、国が作った規制どおりにさえやっておけば、国民に何兆円の損害を与えても刑事的な責任は一切問われない。民事でも払えなければ、国が助けて東電を守るという法律を作ってしまった。結局、すべては国民を守るためではなく、業者を守るための規制になっています。
田原 安全規制は官僚を守り、業者を守る。ただし、国民だけは守らない。

(2)最低限の規制さえ守れば、あとは「思考停止」するだけ
 原因が何であれ、漏洩させた責任者は罰する、という規制にすべきだ。ところが、日本では、そうなっていない。
 <例>原発の非常電源は二重にバックアップせよ、と書いてある。今回はそのとおりにしていたから問題ない、とされる。
 米国でも<例>のような規制がある。しかし、それは最低限であって、それ以上とにかく安全を守らなければならない、という高いレベルの規制になっている。だから、電力会社は、自主的に三重四重の手だてを講じる。いちばん手厚いのは五重か七重にしてある。
 日本では、規制どおり二重にバックアップしていたから責任はない、となる。
 放射性物質で大気を汚しても、法的責任は生じない。賠償させるには、民事訴訟を起こすしかない。

 以上、古賀茂明(田原総一朗・責任編集)『決別!日本の病根』(アスコム、2011)から(1)を引用し、(2)を要約した。

 【参考】古賀茂明に関する記事一覧
 【追加】「【震災】原発>古賀茂明の、「脱原発」すべき理由 ~人・組織~
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【震災】原発>放射能汚染がれき焼却処理の誤り

2011年12月12日 | 震災・原発事故
 がれき発生量は、東北被災3県で2,400万トン。全国のごみ総量の半年分だ。
 宮城県や岩手県全域をみると、がれき処理が進んでいない自治体もある。

 だが、仙台市は、その処理に震災直後から取り組み、自前で完了させる目処をつけた。仙台市のがれきは、135万トン。年間のごみの3.5倍だ。 
 仙台市震災廃棄物対策室は、阪神・淡路大震災復興のノウハウを学び、学者の知恵を生かす体制を作った。がれき総量をすばやく推計し、市内3ヵ所の搬入場で細分化し、できるだけ資源化を行う基本方針を建てた。がれきの整理、仮設置場の確保、処理施設の建設を進め、最終処分場も確保した。地元で徹底的に分別資源化する体制を築き、2014年3月までに処理を完了させる。がれきに限らず、排出元での徹底的な分別資源化がごみを減らし、有害物の排出を抑制する。
 仙台市は、被災地であっても、人・物・金・技術・知恵の5条件を整えれば、自前で処理可能なことを示した。
 全国の自治体に求められているのは、がれきの受け入れではない。まず、被災地自治体の自前の処理に係る5条件を提供することだ。
  
 被災地のがれき処理をより困難にしているのは、(a)放射能汚染が福島以外の地に広がったこと、(b)環境省を始めとする国のお役所的対応だ。
 汚染が全国に広がるにも拘わらず、環境省は広域処理の方針を変えない。しかも、燃やす基準を示さない。全国の自治体が受け入れないのは当然だ。

 石原慎太郎・東京都知事は、2014年までに50万トンのがれきを引き受ける、と宣言した。5万トンは都が管理する埋立処分場に、45万トンは焼却処理する、という。
 ところが、焼却処理の権限は区市町村にあり、都が勝手に決定できない。都の担当部局によれば、50万トンという数字は区市町村の「引き受け確約量」の合計ではなく、「処理能力可能な量」でしかない。

 放射能汚染物は焼却処理可能、という環境局の言い分の主な根拠は、市町村の清掃工場の焼却炉に設置されている「バグフィルター」等によって放射性物質は99.99%除去できる、という仮設だ。
 バグフィルターは、生活ごみを焼却した時に出る煤塵や有害物質の除去装置だ。ダイオキシンも十分には除去できず、破損やバイパス事故でも知られる【注1】。それが、いつの間にか放射性物質99.99%除去が可能だ、という話になった。

 放射性物質は、(1)ホットスポット(地域濃縮)に加え、(2)生活廃棄物(汚水・ごみ)が処理場に集約されて汚泥と草木ごみが高濃度を示す生活廃棄物濃縮が始まっている。
 (1)については、国や自治体は除染作業の取り組みを開始した。
 しかし、(2)については安全策を工夫することなく、焼却によって大気を汚染し、汚染を拡大しようとしている(二次被害の誘発)【注2】。
 国の処理策は、まったくもって支離滅裂だ。

 【注1】青木泰「バグフィルターで放射性物質が除去できるか? ~放射能汚染廃棄物の焼却処理~
 【注2】青木泰「放射能汚染がれきや汚泥、葬定ごみは燃やしてはいけない」(「週刊金曜日」2011年10月14日号)

 以上、青木泰(環境ジャーナリスト)「放射能汚染がれき焼却処理の間違い」(「週刊金曜日」2011年12月9日号)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【震災】瓦礫に「宝」を見つける廃材ビジネス

2011年12月11日 | 震災・原発事故
●水没車
 中古車でもっとも価値がない、と言われるのが水没車。エンジンが水を嫌う上に、電装部品が多い現代車では水に浸かると致命的だ。
 車の処分は、多くの場合、新規購入の下取りか、買い取り専門店に売却する。通常、ゼロ査定になることはない。国内では価値がゼロでも、海外では価値が発生する場合があるからだ。業者オークションに行くと明らかだが、中近東あたりでは国内業者が目もくれない古くてボロい車も買う。十分に商売になるのだ。部品取りもできる。
 ところが、無価値だ、とユーザーを引っかける業者が、震災以後、被災地周辺に目立つようになった。
 エンジンもコンピュータもみんな交換になるし、内装もやり直さないといけないから新車を買うようなものだ。廃車にする手続き費用はこっちで負担するよ(善人モード)・・・・。
 ところが、廃車になったはずの車が中古店で販売されていたりする。
 問い合わせると、廃車手続きは他の業者に任せた、の一点張り。
 廃車にすれば、税金(自動車税・重量税)や保険料(自賠責)が還付される。こうした戻りを業者が懐に入れるのだ。
 悪質な業者は、「無料で廃車手続き」と広告を出しておきながら、契約する段階で「無料は終わった」と手続き料を要求する。しかも、本来ならば廃車にする契約であるはずのところを譲渡契約になっていたりする。転売する意思があるわけだ。バラして部品取りもできる。
 被災車両は、岩手、宮城、福島の3県だけで23万台超だ。行政による撤収作業はなかなか進まない。震災ビジネスで儲けようとする連中からみれば、宝の山だ。数千円で入手した被災車両を分解すれば、100倍以上の値で売却できるのだから。
 10月現在、当局は解体作業に着手していない。撤去した車を並べるだけで精一杯なのだ。解体作業を請け負うことができれば、業者の収益は莫大なものになる。しかも、請負なら正規の作業になり、違法性が阻却され、表のビジネスに転換できる。現状では裏ビジネス/闇ビジネスだが、将来性の高いビジネスだ。

●廃材
 日本の住宅は工法が変わってきたとはいえ、木材が中心だ。軽鉄骨や鉄筋に比べて再利用が容易であることも利点の一つだ。
 震災が生んだ瓦礫の山の中には、住宅の基礎として使用された木材が積み上げられたものがある。その廃材もビジネスになる。柱はいくらでも使える。表面が汚れていても削ればよい。古い住宅のほうが、最近のお手軽住宅より柱はいいものを使っていたりする。
 正しく利用された場合、リサイクルはエコ社会の要請に適う。
 問題は、木材としての価値がなくなったものを、あたかも真っ当な材料であるかのように転売している業者だ。表面ではわからないが、中身にスができていたり、虫食いの被害、割れがある場合がある。水に浸かれば、十分に乾燥させても耐久性に問題が出るし、腐る可能性もある。
 いわゆる欠陥住宅には、天井裏、壁の中など見えない箇所に古い木材や廃材が使用されていることが多い。予算の範囲内で仕上げるためには、どうしてもそういうものを使わざるをえない、と工務店は言い訳する。それを施主に伝えていなければ騙りだ。大手の住宅メーカーにしても、下請を使うため、こうした手抜きが起こる。
 このたびの震災でも、廃材が流通した。震災直後、住宅資材が不足し、相場が上がった。被災地の水に浸かった廃材が流通した。とりあえず材料がそろえばいい、と安直な考えをもつ業者は、悪質な資材も使った。工期を守ろうとする焦りが資材選定を甘くさせた。

●土砂
 震災以後の土砂ビジネスは大きく2つに分かれる。
 (a)汚染土壌を含んだ土砂の運搬に関するもの。
 被曝線量1mSv以上の地域は国が責任をもって除染する・・・・ことになっている。
 ビジネスは1mSv未満の地域で発生する。基準値以下でも土壌を入れ替えたい、という需要に応じるのだ。
 問題は、汚染土壌が動くことだ。運び出した汚染土壌は、業者によっては「うちの敷地に山作っとけばいい」「敷地は山の中」なのだ。全国各地から参入する業者が同様な処理をすれば、汚染土壌が全国に散っていく。

 (b)土砂に埋もれたある種の宝探し。
 土砂を運び出すこと自体、ビジネスになる。汚染土壌でないかぎり、再利用できる。再利用できなくても損はしない。
 掘り出していくと、商品として売ることのできるものが見つかる場合もある。
 携帯電話からは、インジウム、ネオジウム、サマリウム、ベリリウム、ガリウム、タンタル、チタン、リチウムなどレアメタルを抜き取るのだ。
 土砂の中から、宝石、金の類も見つかるかもしれない。

 以上、夏原武『震災ビジネスの闇』(宝島SUGOI 文庫、2011)に拠る。

 【参考】「【震災】原発>放射能をダシにした詐欺 ~震災ビジネスの闇~
     「【震災】被災者を骨までしゃぶる詐欺 ~震災ビジネスの闇~
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【震災】被災者を骨までしゃぶる建築詐欺 ~震災ビジネスの闇~

2011年12月10日 | 震災・原発事故
●ボランティア詐欺師
 ボランティアだと思いこんで歓迎している人を喰うのだ。
 まずはボランティアらしい格好をするところから始める。ジーンズにシャツ。マスクもする。本物のボランティアがまだ来てない地域にトラックで行く。インフラがずたずたなところには行かない。行く足がないし、面倒だ。泥を掻き出し、家財道具を出す。このあたりは、ちゃんとやる。流木や石もちゃんと出して、トラックに積み込む。
 「ご苦労様、ありがとう」
 こう言われてからが商売だ。明細を出してカネを請求するのだ。そりゃ、驚くよ、ボランティアだって思っているんだから。けど、こっちはそんなことは言ってないからね。たいへんでしょうから手伝いましょう、ぐらいは言うよ。でも、無料だなんて言ってないからな。
 皆が皆ではないが、だいたいは出す。出さなかったら、積み出した土砂、石、流木をみんな庭に放り出す。驚いて腰抜かすが、知ったことじゃないよ。

●ボランティア詐欺の展開
 ボランティア詐欺師は、家の内部をしっかり見ている。床上浸水、その他。
 そして、被災者はボランティア風に近寄ってきた相手には警戒心が薄れ、内情を漏らす。
 こうした情報が、リフォーム詐欺師に伝えられるのだ。
 騙す側としては、相手にどれぐらいの余力があるか、何に注意しているかといった状況が把握できると、やりやすい。
 高齢者や一人暮らしの場合、買物を頼んだことがきっかけになって資産状況を把握されてしまったケースがある。
 耐震関係では、ボランティアで調査する、と言ってきた者が業者と提携していて、そこから被害に繋がる、というケースが出ている。
 
●改築とリフォームの詐欺
 詐欺師に一番うまみがあるのは、やや壊れた、という程度の家だ。震災でガラス窓が割れた、などの情報を得ると、このままだと屋根が崩落する、自宅の修繕が必要だ、と不安を煽り、不要な工事の契約を取り付けるのだ。
 <例>ひび割れ、塀の倒壊、水漏れ、雨漏りなど生じた。最初は、点検という形でやって来た。役所から依頼されて来た、と言う。書類は提示しない。作業服を着た数人がやってきて、地区の居住者、住所を記した紙片を載せたボードを手に、順番に点検している、と言う。外観チェックが終わった後、内部チェックしたい、と申し入れてくる。畳を上げて床下も見るのだ。「主任」の札をつけた者が、このまま放っておくといずれ屋根がダメになる、床下の土台にもひびが入っている、と説明する。写真を撮影するが、「業者が持っていった」と見せない。
 リフォーム詐欺と同じ手口なのだ。普通は見ることのできない屋根裏や床下に入りこみ、危険だ、と話す。
 このケースの場合、見積もり額は600万円だった。かたや、保険会社の査定は10数万円。
 自治体から援助が出るはずだ、半分は出ますね、と詐欺師はダメを押す。援助金は後で出るから、とりあえずはローンを組んで契約した。
 改修後、外観はひび割れは消えた。問題は見えないところだ。この被害者は、騙されたとわかった後で、他の業者にチェックしてもらったのだが、驚くべし、天井裏や床下などは特に何もしていなかった。持ちこんだ資材は、そのまま放置されていた。関係ないところに釘を打ったりしていただけだった。必要ない作業しか行わず、外壁のみ応急処置がしてあっただけだ。応急処置では意味がない。
 援助金は、最初に確認すべきところをやっていない。後で役所に行くと、そういう話は知らない、とのこと。業者に連絡すると、のらりくらり。我々はそう聞いたが、だからといってこちらが処理すべきことではない、契約書にはそんなことは書いてない、云々。
 ローンを組んだ会社にも連絡したが、それはおたくと業者との問題であって、こちらはカネを融資しただけだ。
 援助金は、ローンを組ませるための釣り餌だったのだ。

●詐欺の内幕
 詐欺する会社に中途採用された兵隊は語る。
 採用後、1週間ぐらい研修を受けた。建築の基本的なことを教えるという話だったが、実際には専門用語を使うこと、チェックした後はできるだけ大げさに言え、と教えられた。このあたりからヤバイと感じ始めた。
 現場には、ベテランの下に自分と同じ素人が2人、デジカメ、メジャー、水平器などそれらしい機器を持って出かけた。被災地周辺に移動する前に、すでに下調べはできていた。住所、住民の情報一覧が作成され、高齢者、女性だけの家が多い。役所が積極的に動いているかどうかもチェック済みだ。
 先乗りと称する幹部社員が役所を訪れ、地元住民のふりをして聞き出しておいたのだ。いつになったら家を直せるか、補助はあるか、などを聞き出す。これから仕事をする地域とはちょっとずれた場所の住所を告げる。稀に役所からその地域に実際に出かけることがあるからだ。
 現場では、騙しは次のように始まる。
 ベテラン社員が、役所からの依頼のような雰囲気で話し出す。被害者は疑わない。役所名をチェックしない。詐欺師たちは、全員そろいの作業服だし、会社名も書いてある。
 デジカメ係が写真を撮っていく。多少の被害はいろいろある。基本は屋根と床下だ。ここをやらないと大きな金額にならない。外観などわかりやすいところは、こちらのペースに嵌めるためだ。
 床下に入ったら、まず、ひび割れを探す。震災がなくても、湿度の関係で多少のひび割れはあるものなのだ。それをちょっと広げて撮影するのが基本だ。ハンマーで叩いたりもする。証拠写真を撮って、それを見せる。デジカメだから、その場で見せられる上に、写真を相手に渡さないで済ませられる。
 後は、ベテランが見積もりを出すところまで持っていく。家の大きさを見れば金額を出せる。最低300万円。上は1,000万円。平均500万円。提携しているローン会社があるから、そこでローンを組ませるのが基本だ。
 忙しいから今決めないと次はどうなるかわからない、と必ずいう。直ちに決めさせるのが基本だ。
 援助金は、相手を見ながら、3分の1だったり半分だったり、話を加減する。被災とはいえ直撃ではないから収入が絶たれているわけではない。その家にずっと住まう。そこを狙う。

●耐震強化詐欺
 平時でもリフォームや改築にはトラブルが多い。
 地震災害では、「耐震強化」を名乗る新手の詐欺も生まれる。手口の基本は同じだ。チェックした上で、このままではダメだと脅す。ただし、そこに地震の話を持ちこむのだ。
 「新しい建築基準が決まったので、このままでは建築基準法違反になる」
 「ガラス窓は割れて危険が及ぶため、耐震性能にあるものに変更しなくてはならない」
 「柱などにも耐震強化が義務づけられているから、それを行う」
 ありもしない制度や法律を持ち出し、相手を追い込んでいくのだ。高齢者が対象、という点に特徴がある。高齢者を説得するには、新しい法律、制度改正が有効なのだ。時代に取り残されるんじゃないか、という意識があるせいだ。
 また、高齢者が対象になりやすいのは、歳をとるほど生に執着するからだ。
 判断力低下は、ついでみたいなものだ。
 この手の詐欺は、震災から1ヵ月以内が有効だ。震災の恐怖がまだ実感をもって感じられるし、マスコミも頻繁に報道する。
 柱や壁のような見えるところはあまりやらない。土台部分と屋根だ。屋根なら、危険だからといって素材ごと替えさせることもある。アルミサッシも。偽の合格シールはいくらでも手に入る。
 耐震基準に合致すると国から補助金がでる、というアメも用意しておく。 
 家人が帰宅してから文句言っても破棄できないよう、一方的契約破棄の場合には賠償金を請求できる、という条項を契約書に入れておく。

 以上、夏原武『震災ビジネスの闇』(宝島SUGOI 文庫、2011)に拠る。

 【参考】「【震災】原発>放射能をダシにした詐欺 ~震災ビジネスの闇~
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン



【震災】原発>放射能をダシにした詐欺 ~震災ビジネスの闇~

2011年12月09日 | 震災・原発事故
<例1>放射能除去装置
 被害者は、赤ちゃんのいる20代の女性(その近所にも被害者が出た)。被害額は、30万円。手口は浄水器の訪問販売だ。
 「普通の浄水器では放射能を除去できないが、うちの製品ならほぼゼロになる」という売り口上で実演する。水道、被害者宅に設置してあった浄水器に目盛りのついた棒を差し入れると反応する。被害者はパニック寸前となった。では試しに、と「うちの製品」を設置してしまう。
 後日、不審に思った旦那が水質検査をしてもらったところ、最初からあった浄水器とほとんど変わらず、むしろ濾過機能が弱いことがわかった。棒の目盛は、スイッチで操作していたのであった。
 参考・・・・海水淡水化装置(RO)を使うと、一部の放射性物質を数百分の一に減少させることはできる(コーウェイ、寺岡精工、マーフィードなど)。月数千円で利用可能。ただし、設置の必要性があるか否かは別問題だ。

<例2>放射能デトックス
 有名なところでは、ゼオライトを含有したサプリメント、ドリンク。体内の放射性物質を吸収し、体外に排出するデトックス効果がある、というのが謳い文句だ。

<例3>放射能防御用具
 放射能を防ぐマスク、というふれこみで、普通のマスクを、普通のマスクの10倍の価格で販売。
 あんまり安いと信用されないし、高すぎると売れないっていうのは、こういう商品の基本中の基本だからね。ただのマスクがこの値段かよ、って思うと笑いがとまらんよ。帽子も同じだよ。何か身につけていれば、そこに放射能がつくけど、中は大丈夫ってことじゃないか。だから、嘘はついていないの。【悪徳商人】

<例4>ホメオパシー
 カドミウム、ウラニウム、セシウム、プルトニウムなどのレメディが存在する。
 プルトニウムをどこで入手したのか、まったくもって謎である。
 これら毒性の強い放射性物質を徹底的に希釈し(<例>100倍に薄める作業を30回繰り返す)、砂糖玉に染みこませて体内に取りこめば放射能対策になる、というふれこみだ。

<例5>ガイガーカウンター
 ネットで大量に販売した者がいる。
 いつまで経っても品物が届かない。問い合わせると、需要が増えて入荷が遅れているが、来週には大丈夫、といった返事。それでも届かず、しまいには大騒ぎになった。新聞記事にもなった。

<例6>布団の丸洗い
 昔からある詐欺。
 放射能がついているかもしれないから検査する、と持ちかけ、除染もする、と誘う。いずれも無料だ、というから喜んで頼むと、放射能が検出された、除染できるレベルではない、と脅かされ、結局は高価な布団購入を迫られる。
 換気扇からの侵入を防ぐと称する防塵ネットを売りつけるのも、この系列の詐欺だ。
 放射能の一言を看板にすれば、古色蒼然たる詐欺が新たな粧いで甦るのだ。

<総括>
 浜の真砂は尽きるとも、世に詐欺師の種は尽きまじ。

 以上、夏原武『震災ビジネスの闇』(宝島SUGOI 文庫、2011)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【震災】原発>経産省・エネ庁「ネット監視事業」の破綻

2011年12月08日 | 震災・原発事故
 経済産業省が所管する日本原子力文化振興財団は、「国民洗脳マニュアル」により、大衆操作のコツを教える【注1】。
 大衆が原発についてどう考えるかは、経産省・資源エネルギー庁が、(a)「原子力施設立地推進調整事業(即応型情報提供事業)」により、「監視」してきた。過去3年間は雑誌や新聞が対象だったが、2011年度は対象をインターネットに移し、事業名を変え、(b)「原子力安全規制情報広聴・広報事業(不正確情報対応)」を実施した【注2】。
 (a)には、3年間で4,600万円が投入された。(b)には、福島第一原発事故後の原発推進派の危機感を反映してか、単年度で7,400万円をつぎ込んでいる。
 今年6月に入札募集した(b)の事業目的にいわく、「正確な情報へ導くことで、原子力発電所の事故等に対する風評被害を防止する」。
 ために、ツイッターやブログなどから原子力発電等に関する書き込みを収集し、「不正確な」書き込みから質問を作り、「正しい」回答をインターネット上に公開する、というわけだ。

 しかし、(1)何をもって「正しい」情報とするのか。(2)それを誰が決めるのか。
 新たなネット監視だ、と強い批判が巻き起こった。
 そもそも、「不正確」の基準さえ、定義されていないのだ。
 有識者には一度集まってもらったが、成果がでなかった。それ以降、会合は開いていない。【資源エネルギー庁・担当者】

 今年度事業は、機械検索と人によるチェックで書き込みのやりとりを追跡するものだ。日に1,000件余の「不正確情報」を収集し、質問作りの材料にする。有識者の下で、年度末までに100件以上のQ&Aを作成し、インターネット上で公開する・・・・はずだった。
 ところが、執筆者があいついで辞退し、事業が破綻しつつある。
 Q&Aは、第一弾で目標の3分の1を掲載し、秋以降に順次増やしていく予定だった。しかし、計画は目論みどおり進まず、Q&Aが100件できるかどうかも危うい状況だ。
 しかも、Q&Aには有識者の名前を出す予定だったが、匿名に変更される見込みだ。執筆の辞退者が多数にのぼり、回答が作成できなくなったからだ。

 ちなみに、7,400万円の予算で100件のQ&Aということは、Q&A1件当たりの単価は74万円ということだ。
経産省が産業や企業を成長させる構想を描けない【注3】のは当然だ。

 【注1】「【震災】原発>日本原子力文化振興財団による「国民洗脳マニュアル」
 【注2】広告代理店のアサツーディ・ケイ(ADK・東京)が落札した。【「【震災】原発>経産省・資源エネルギー庁によるネット監視と世論操作」】
 【注3】古賀茂明(田原総一朗・責任編集)『決別!日本の病根』(アスコム、2011)の第2章「経済産業省との決別!」

 以上、中島みなみ「無駄 エネ庁「ネット監視」有識者の辞退で事業自体が難航」(「週刊朝日」2011年12月16日号)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【震災】原発>古賀茂明の、「脱原発」すべき理由 ~人・組織~

2011年12月07日 | 社会
●情報がまだ出ていない
 「脱原発」/「脱・原発依存」の具体的な道筋やプランを示すだけの材料は、まだない。
 情報がまだ出ていないからだ。東電の情報は、経産省にさえ必ずしも全部は上がってこない。
 今回の事故関連だけでなく、過去のいろいろな事故の情報も、相当歪められたり、隠されていると思う。捏造や隠蔽が問題になったことがあるが、それ以外にも、客観的に評価できる専門家が見たら「これはもう大事故の一歩手前だ」というような事故があったかもしれない。放射線が漏れたのに黙っていたケースは、少なからずあるだろう。身内が原発に勤める地元の人は、報道されない漏洩があった、と言っている。原発のコストについても、さまざまなデータが隠されていると思う。
 今回の事故の情報も、知っているのは東電の現場の幹部(<例>吉田昌郎・福島第一原発所長)だ。それでも、わからない部分が多々あると思う。
 いまこそ東電も経産省も、なぜこんな大事故が起こったのは、問題はどこにあったのか、科学的・客観的に調査・分析して究明すべきだが、やっていない。いろいろな問題が明るみに出るのが怖いのだ。

●経産省は原発推進を堅持
 経産省は、つねに「原発は推進すべきである」という結論ありきだ。
 こんな事故が起きても結論を変えていない。
 事故後、原発の周辺地域の概念が変化した。玄海原発では福岡市が、若さ原発では琵琶湖が30km圏内に入る。原発は新規に建設できない・・・・はずだが、それでも原発は作れる、と経産省は思っている。経産省は、「建設できない」という合意ができない方向に持っていこうとしている。
 周辺地域の概念が変わって当分は建設できないとしても、そのままでは日本が立ちゆかなくなることが、そのうちみんなわかるだろう、と経産省は考えている。
 経産省は、原子力を代替する液化天然ガス(LNG)や再生可能エネルギーの太陽光、風力、地熱発電のウェイトを高めなくては、とは思ってはいる。しかし、原発を減らし続けて、不足分をLNGと再生可能エネルギーで代替するのは非現実的だ、とも思っている。

●なぜ「脱原発」か
 原発推進の考え方そのものに反対だ。できるだけ早く、今動いている原発は止めるべきだ。
(a)人
 今回の原発事故では、人や組織のガバナンス問題が大きなウェイトを占めているからだ。事故の原因や事故後の対応を見ると、技術以外の問題が大きい。おカネさえかければ技術的に安全性を高めることは、ある程度はできる。しかし、科学的・理論的にこうだということを実現していくのは、結局、人や組織だ。これが信頼できない。そもそも、
 ①議論の段階で、本当に安全を最優先した議論ができるのか。
 ②議論できたとしても、設計する段階で、議論した安全策を忠実に実効できるのか。
 ③設計図はできても、施工する段階で設計図どおりにできるのか。
 ④そのとおり完成しても、運転する段階で本当に決められたとおりできるのか。
 ・・・・各段階に必ず人が入る。人的なミスや人による想定外を本当になくす力があるのか。

(b)組織
 発送電分離や競争の導入などで、電力市場をどれほど改革できるのか。
 電力自由化と原発問題は大きく関わる。うまく自由化できなければ、現在の電力会社と役所の体質は、基本的に以前と同じだ。競争がないから緊張感がない。何をしても電力を買ってもらえるし、原発の大事故を起こしても政府が守ってくれることがわかった。そう思っている組織に、ちゃんとした規律が働くはずがない。
 役所も同じだ、あんな大事故を起こしても、経産省の事務方トップは割り増し退職金がもらえることがわかった。何も変わる必要がない、というメッセージだ。
 これでは、安全を最優先する方針を立てても、そのとおりに実行できない恐れが大きい。

 以上、古賀茂明(田原総一朗・責任編集)『決別!日本の病根』(アスコム、2011)に拠る。

 【参考】古賀茂明に関する記事一覧
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【震災】原発>小出裕章の講演「福島原発事故を考える」 ~県婦人大会~

2011年12月06日 | 震災・原発事故
(1)日時
  2011年12月4日(日)10時30分~12時10分
(2)場所
  A市【注1】福祉保健総合センター
(3)主催者
  B県【注2】婦人連合会【注3】
(4)参加者
  約300人
(5)演題
  福島原発事故を考える
(6)講師
  小出裕章(京都大学原子炉実験所助教)
(7)内容
 福島第一原発事故で放出された放射性物質セシウムは、広島原爆170発分に相当する。
 次の地域は、放射線管理区域と同じレベルに汚染されている。
  (a)福島県の東半分
  (b)宮城県の南部および北部
  (c)茨城県の南部および北部
  (d)千葉県の北部
  (e)栃木県の北部
  (f)群馬県の北部
  (g)埼玉県の一部
  (h)東京都の一部

 46億年前に地球が誕生した。時間を空間に置き換え、現在から46億年前までの距離を460mとすると、400万年前の人類誕生は40cm、200年前の産業革命はわずか0.02mmにすぎない。この0.02mmの間にエネルギー消費量が急増した。
 エネルギーは、人間が生き、社会生活を営むために必要なものだ。
 ただし、水力、火力、原子力などの国内の電源別発電設備容量および稼働状況からして、原子力発電を全部やめても、電力は他の電源で十分に賄える。
 原発がなくても幸せに生きていくことのできる省エネ社会を設計すべきだ。

 【注1】戦後まもない頃、農民も米価値上げ反対闘争に与した商業都市(伊東光晴『保守と革新の日本的構造』、筑摩書房、1970)。
 【注2】片山善博・前総務相が2期知事を務めた県(「【震災】片山善博前総務相の、復興対策が遅れた真の原因 ~財務省~」)。
 【注3】1981年、B県(【注2】参照)東部の風光明媚な海岸に原発建設の動きが起きた。当時の知事は原発受け入れを示唆したが、地元の婦人連合会など住民が決起した。山林、原野、畑を反対派の個人または集団(共有)が取得し、署名運動を展開した。反対運動は結果を出した。原発建設は阻止された。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【震災】増税の破綻した論理 ~マニフェスト見直しが必須~

2011年12月05日 | 社会
 クラウゼヴィッツに倣っていえば、国政は民主党に任せるにはあまりに重大な問題だ。

(1)復興増税 
 「臨時増税を行う」という理屈づけで始まったのに、「25年間の増税」という事実上の恒久増税になった。

(2)所得税・相続税の増税
 (a)政府の論理
  ①消費税を増税すると低所得者の負担感が重くなる。
  ②これを是正するために高所得者・高額資産保有者を対象に所得税・相続税を増税する(2013年度以降の実施をめざして税制調査会は検討を開始し、年末にまとめる)。

 (b)国民の論理
  ①消費税に欠陥があると税制調査会が認めている以上、消費税増税は取りやめればよい。
  ②最初から所得税・相続税を増税すればよい。

 (c)どさくさ紛れの余分な増税
  消費税増税に合わせて所得税・相続税を増税すれば、全体としての増税額は消費税率5%引き上げより大きくなる可能性がある。
  ①所得税・相続税の増税額をすべて低所得者への現金給付に充てるならば、「税と社会保障の一体改革」が提言(6月)したとおりになる。
  ②しかし、①でなければ、どさくさ紛れに当初の提案を超える増税を行うことになる。または、6月の一体改革提言は必要増税額に関して誤った見通しを示したことになる。

(3)基礎年金国庫負担増額2兆5,000億円
 (a)政府は、11年度予算において、埋蔵金で財源を手当した。しかし、その財源を、第1次補正予算に流用した。ために、第3次補正予算で穴埋めした。3次補正の財源はほぼ全額が国債なので、結局は国債によって基礎年金国庫負担増額が賄ったことになる。「恒久財源によって賄う」と法律で規定されているから、民主党政府は明白な法律違反を犯した。
 (b)政府は、2012年度にも法律違反をもくろんでいる。「年金債」という名の国債で手当する、というが、これは消費税増税をアテにした「つなぎ国債」にすぎない。しかも、消費税増税はまだ決定されていないので、「つなぎ」になるかどうかさえ定かではない。「年金債」の実態は、何のあてもない借金だ。

(4)消費税増税
 政府は、消費税増税のための準備法案を提出しようとしている。
 政府は、(3)のとおり増税のための法律を破り、他方で増税のための法律をつくろうとしている。支離滅裂だ。

(5)マニフェスト関連経費
 11年度予算には、子ども手当、農家個別所得補償、高校無償化などの経費が3.6兆円(1次補正と2次補正で3.2兆円に減額)計上されている。
 これらは、09年の選挙の際、財政の見直しで16.8兆円(支出見直しで9.1兆円)の財源が出ることを前提に導入したものだ。
 しかし、事業仕分けでは7,000億円しか捻出できなかった。
 したがって、マニフェスト関連経費の見直しは急務だ。見直しによって浮かせたお金を使えば、消費税増税額を圧縮できる。経費の削減は「恒久財源」と評価しうるから、(3)に充てることもできる(法律違反状態から脱却できる)。

 以上、野口悠紀雄「破綻論理で増税ではなくマニフェスト見直しを ~「超」整理日記No.589~」(「週刊ダイヤモンド」2011年12月10日特大号)に拠る。
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【震災】復興・財政再建・社会保障の財源 ~法人税減税批判ふひたたび~

2011年12月04日 | 社会
 復旧・復興対策事業に政府が予定しているのは19兆円だ。原発事故への対応等のため、必要な政府資金はこれをさらに上回るだろう。
 資金調達として、増税以外のさしあたりの方法は3つ。
 (1)政府保有金融資産の取り崩し。・・・・既に動き出している。特別会計積立金の取り崩し、保有有価証券の売却など。
 (2)新規国債の発行。・・・・既に計画されている。国内に250兆円前後の余剰資金が存在するから、20~30兆円の国債は十分に消化可能だ。
 (3)歳出の削減。・・・・軍事費(4兆8千億円)の削減に手をつけるべきだ。戦闘機の購入等に資金を使う時ではない。

 こうして調達した資金を順次税に置き換えることが望ましいが、政府の増税案が増税案になっていないことは既に見たとおりだ。順序としては、次のようにすべきだ。
 (a)法人税を減税しない。・・・・いったん決まったが、改めて戻す。
 (b)不公平税制の証券投資優遇税制(上場株式の売却益、配当への低率課税10%)を廃止。
 (c)負担能力に応じた負担の原則に基づき、所得税累進税率の引き上げ(所得税+住民税を50%→65%程度に)。
 (d)金融所得課税の強化(原則総合課税にor分離課税率30~40%に)。
 
 なお、復興資金は一時的に必要な資金だ。増税分の財源は、役目を終え次第、財政再建、社会保障拡充の財源として利用できる。
 で、その財政再建、社会保障拡充のために、いくら財源が必要か。
 政府は、2020年までに基礎的財政収支を黒字化させるところに目標を置く。この場合、必要財源はおよそ30兆円だ。
 社会保障拡充の目標を独国、仏国など大陸欧州諸国並みにすることとすると、これらの社会保障支出の対GDP比は39%だから、日本もそこまで支出を増やすなら後30兆円増やすことになる【注】。これだけ支出増があれば、年金給付額(1階分)の引き上げ、医療費の無料化(5兆円)、医療・介護等従業者の処遇の改善等が十分に可能となる。

 財政再建に30兆円、社会保障拡充に30兆円、併せて60兆円の財源が必要ということだ。うち5兆円は軍事費など無断な歳出の削減で、10兆円は景気の本格的な回復による税収増で賄うこととする。後者については、リーマンショック前(2007年度)の国の一般会計税収が51兆円、現在のそれが40兆円に落ち込んでいることを考えれば、十分に期待可能な数字だ。
 60-15=45兆円の増税が必要だが、驚くべきほどの数字ではない。日本の国民負担率(税と社会保険料の対GDP比)は39%(2011年度)で、独国52%、仏国61%などに比べ格段に低いからだ。仮に45兆円の負担増となっても、国民負担率13%の上昇、52%となって、独国とほぼ同じ、仏国よりなお低い。

 問題は、誰がどのように負担するか、だ。
 まず、(b)と(c)を徹底する。次に、法人税と所得税を増税する。
 法人税については、自・公政権下で法人税率の大幅引き下げ(37.5%→30%、1997年)等があり、企業の負担率は10%程度下がっている。引き上げ可能だったのだ。
 なお、社会保障拡充の方法論だが、最終的な財源は増税によるとして、途中段階では、(1)や(2)によって、税収増を待たずとも制度の拡充は可能だ。拡充を先に実施すべきだ。<例>年金積立金残高180兆円弱(2009年度末)を取り崩せば、年金給付額の増額は直ちに可能だ。仮に年10兆円ずつ取り崩しても10年以上は大丈夫だ。増税による財源手当は、10年間のうちに考えればいい。 

 【注】GDPを350兆円とみると39%は137兆円、現状は108兆円(2011年度)。

 以上、山家悠紀夫「野田内閣・増税案の何が問題か」(「世界」2011年12月号)に拠る。

 【参考】「【震災】法人税率引き下げより賃金引き上げ ~野田政権のヘンな減税~
     「【震災】本末転倒の「社会保障と税の一体改革」 ~野田政権のアバウトな頭脳~
     「【震災】増税するのはなぜ消費税増税なのか ~説明不足~
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【震災】増税するのはなぜ消費税なのか ~説明不足~

2011年12月03日 | 社会
 (1)消費税は、所得の少ない人にも課税する。また、所得の少ない人ほど負担の重い逆進的な税だ。税の一番大切な原則、「負担能力に応じた負担」に反する。
 (2)消費税は、中小・零細企業の経営を圧迫する。小規模事業者に厳しい税だ。その負担を消費者に転嫁できたかどうかにかかわりなく、付加価値があればそれに課税する。付加価値の主な構成要素は、人件費、金融費用、家賃・地代、収益だ。日本の中小企業は、およそ7割が赤字企業だから、付加価値から人件費と金融費用等を支払えば、後は何も残らない。その場合、法人税は非課税だが、消費税は課税される。だから消費税は、滞納が最も多い税となっている。消費税は、小規模事業者を潰す税だ。
 (3)実質消費を抑え、景気を悪化させる税だ。

 以上要するに、消費税は人々の暮らしに厳しい、大きな欠陥をもつ税だ。
 にもかかわらず、なぜ増税といえば消費税なのか。
 この問いに対して、消費税増税論者はきちんと答えていない。

 増税に賛成という意見はあっても、増やす税が消費税でなければならない理由を明確に説明した意見はない。
 政府の税制調査会・専門家委員会の「議論の中間的な整理」(200年6月22日)によれば、説明らしきものを出している。いわく、
 (a)勤労世代など特定の者への負担が集中せず、広く社会の構成員が負担を分かち合うことができるため、世代間の公平の確保に資する。
 (b)税収が景気動向に比較的左右されにくく安定的だ。
 (c)経済活動に与える歪みが小さく、経済成長を図る上で効率的だ。

 しかし、納得できるものではない。
 (a)←所得税は所得のある人すべてを対象とした税であって、勤労世代など特定の者への負担が集中した税ではない。年金世代も所得税を負担している。所得税と消費税の違いは、所得のある人が負担するのが所得税、所得のない人も負担するのが消費税だ。加えて、所得の多い人ほど多くを負担するのが所得税、所得の多寡に無関係に一律に負担するのが消費税だ。
 (b)←費税収は安定的、所得税収は景気の動向に左右される・・・・のは事実だ。しかし、所得税収の変動には対処可能だ。景気がよい時に膨らんだ税収の一定割合をプールしておき、景気が悪くなって税収が落ち込んだ時に使えばよい。
 (c)←そんなことはあるまい・・・・と言うにとどめておく。「中間的な整理」では論証も実証もされていない。よって、反論しようにもできない。

 増税するのはなぜ消費税増税なのか、という問いに説得的に答えてくれる者はいない。
 TPP参加問題でもそうだが、消費税増税について、国民に対する説明が足りない。

 以上、山家悠紀夫「野田内閣・増税案の何が問題か」(「世界」2011年12月号)に拠る。

 【参考】「【震災】法人税率引き下げより賃金引き上げ ~野田政権のヘンな減税~
     「【震災】本末転倒の「社会保障と税の一体改革」 ~野田政権のアバウトな頭脳~
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン


【震災】本末転倒の「社会保障と税の一体改革」 ~野田政権のアバウトな頭脳~

2011年12月02日 | 社会
 なぜ社会保障と税なのか。両者はにわかには結びつかない概念だ。
 社会保障と軍事費ならわかる。ともに財政支出のかなりを占める項目で、いずれの支出を優先させるべきか、両者を並べて議論することには意味がある。
 社会保障費を主として税で賄うか、それとも保険料でか・・・・これも意味ある議論だ。
 要するに、「社会保障と税の一体改革」には、大切な言葉が抜けているのだ。政権の意図するのは、「財政再建を進めるための社会保障と税の一体改革」なのだ。最大の支出項目を刈り込まなければならない、同時に増税も進めなければならない、というのが、与党が6月にまとめた「社会保障・税一体改革案」の考え方だ。

 政府の土俵に上がらないで、両者を分けて考えれば、そもそも財政の問題から社会保障を考える発想が間違っている。
 社会保障は、人々の暮らしの側からそのあり方を考えるべきなのだ。まず、望ましい社会保障制度を考え、そのうえで費用のことを考えるのが事の順序というものだ。
 この点、先の自・公政権は考え方を誤った。
 <例1>小泉内閣以降の内閣が行った「毎年社会保障費増加分を2,200億円削減する」という方針。
 <例2>2004年の年金制度改正で、「まず将来の保険料負担の上限を設定し、その範囲内で給付水準を調整する」。
 かかる「構造改革」を否定するところから出発した(はずの)民主党政権が、今、同じ轍を踏もうとしている。

 現状の日本の社会保障制度には大きな欠陥が4つある。
 (1)制度はあっても、給付水準が低く、その目的が十分には達せられていない制度が多い。<例>国民年金制度。
 (2)制度はあっても、制度の恩恵に浴せない人が多数存在する。<例1>失業保険(失業者の30%しか失業手当を受給していない)。<例2>生活保護(対象世帯の30%しか受給していない、国民生活基礎調査をもとにした政府による推計)。
 (3)制度は利用できても自己負担が重く、利用しづらい人、利用しないですまさざるをえない人が多数存在する。<例1>医療保険。<例2>介護保険。
 (4)医療、介護など社会保障の現場で働く人たちの処遇が悪い。<例>給料が少ない、労働が苛酷。 

 社会保障改革を謳うなら、これらの諸問題をどう改革し、どう望ましい制度を作りあげていくか、「夢」が語られなければならない。ところが、政府の改革案にはそれが全くない。ただでさえ問題多い現状をもっと問題多くする改悪案ばかりだ。「財政再建を進める」という目標を「社会保障を充実させる」という目標より上位に置いた結果がこれだ。どうやら、野田政権は民主党の党是「国民生活第一」をあっさりとドブに捨てたらしい。
 <例1>受診時定額負担の制度を導入する。
 <例2>病院への入院日数を減少させる(患者追い出しの仕組みを作る)。
 <例3>要介護認定者数の削減を図る(認定を厳しくする)。
 <例4>年金給付水準引き下げを図る。年金支給年齢の引き上げを図る。
 <例5>生活保護受給者向け自立・就労支援を強化する(生活保護の受給期限を設ける)。

 以上、山家悠紀夫「野田内閣・増税案の何が問題か」(「世界」2011年12月号)に拠る。

 【参考】「【震災】法人税率引き下げより賃金引き上げ ~野田政権のヘンな減税~
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン