語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】おわりに② ~宗教と資本主義・国家~

2018年04月05日 | ●佐藤優
 承前。

 <この日のシンポジウムを終え、私は1991年12月のソ連崩壊前後に集中して読み、ロシア人と議論したニコライ・ベルジャーエフのことを思い出した。ベルジャーエフは、ロシアにマルクス主義を導入した一人であるが、1905年のロシア第一次革命をきっかけにマルクス主義から離脱し、ロシア正教に基盤を置く宗教哲学を形成するようになった。
 ベルジャーエフは、「何かを信じていない人間は存在しない」という。無神論者は、「無神論」を信じているのであり、唯物論者は「物質」を信じているに過ぎない。この指摘は、ほとんどの人が世俗化し、特定の宗教を信じていないと考えている21世紀の日本においてもあてはまる。
 第一が、拝金教だ。1万円札を製作する原価は23~24円という。この紙幣で1万円分の商品やサービスを得ることができるという認識の背後には宗教がある。ちなみに私も池上彰氏も松岡正剛氏も、マルクスの『資本論』を尊重する。それは『資本論』が、貨幣が持つ宗教的(マルクスの用語によれば物神的)性格について論理的に解明しているからだ。
 第二が出世教だ。民間会社員にしても役人にしても、過剰に出世を意識している。組織から評価されるために、心身に変調を来してでも働き続ける人は少なくない。また、若い頃は情熱を持って積極的に仕事に取り組んでいたが、出世レースから外れた途端に、腑抜けのようになってしまい、やる気を失ってしまう例もいくらでもある。
 第三は受験教だ。教育において偏差値が占める位置が肥大してしまった。入学偏差値の高い大学に入れば、安定した将来が保証されるという神話が、半ば幻想であることに気づきつつも、生徒も保護者も過剰な受験競争の渦に巻き込まれている。その結果が、勉強が嫌いな学生、生徒を大量に産みだし、学知が実生活と結びつかないという悲喜劇的状況をもたらしている。
 このように無自覚のうちに危険な宗教を信じていることに、本書を読んで読者が気づいていただけるとうれしい。宗教批判は、世の中を正しく理解するための第一歩なのである。>

□池上彰・佐藤優・松岡正剛・碧海寿広・若松英輔『宗教と資本主義・国家 激動する世界と宗教』(KADOKAWA、2018)の「おわりに」から一部引用

 【参考】
【佐藤優】おわりに ~宗教と資本主義・国家~
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【佐藤優】宗教とジャーナリズム ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】宗教者とは、貧しき者、虐げられた者たちとある者だ ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】キリスト教にとってのお金 ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】オウム事件が他人事ではない理由 ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】革命再考 ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】時間とお金を何に使うか ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】資本主義的な論理を超えて ~宗教と資本主義・国家~
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【佐藤優】宗教に関する訳語 ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】宗教が土着化するということ ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】沖縄における魂観 ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】国が追悼施設をつくるべきではない(靖国問題) ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】「国家主義教」 ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】出世教、学歴教、etc. ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】お金という神さま ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】人間の思考と魂の根底に迫る ~宗教と資本主義・国家~
【佐藤優】『宗教と資本主義・国家 激動する世界と宗教』の目次

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