語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】新・帝国主義の時代 ~今ファシズムを学ぶ理由(2)~

2018年04月08日 | ●佐藤優
 (1)一般に、帝国主義とは「1870年代以降、巨大企業が国家と結びついて海外進出や植民地の拡大を図る、列強の経済的・軍事的な膨張政策」のことを意味する。
 帝国主義の勃興には「覇権国家の弱体化」が伴った。かつて英国が覇権国家だった時代は、自由貿易の時代だった。しかし、英国の力が弱くなると、ドイツや米国が台頭しはじめ、やがて群雄割拠の帝国主義の時代に突入した。

 (2)2回の世界大戦とソ連崩壊を経て、20世紀末には米国が圧倒的な覇権国家として君臨するようになった。しかし、同時多発テロ事件(2001年)とリーマン・ショック(2008年)を経て、米国の弱体化が明らかになると、今度はロシアや中国が軍事力を背景に、露骨に国益を主張するようになった。その結果2008年以降に訪れたのが、かつての帝国主義を反復する「新・帝国主義」の時代なのだ。
 現代の新・帝国主義は、かつての帝国主義とは異なる。
 19世紀末から20世紀初頭まで、欧米の帝国主義列強は軍備拡大を競い、植民地を求めて抗争を繰り返した。その植民地獲得競争の結果が第一次世界大戦だった。
 かたや、新・帝国主義は植民地を求めないのだ。それは人類が文明的になったからではなく、単に植民地を維持するコストが高まったからだ。しかし、新・帝国主義の時代であっても、外部からの搾取と収奪により生き残りを図るという帝国主義の本質や行動様式自体は変わっていない。

 (3)新・帝国主義の時代には、二つの異なったベクトルの引っ張り合いが繰り広げられる。
   ①グローバル化の進展
   ②国家機能の強化
 19世紀後半もグローバル化の時代だった。19世紀は「移民の世紀」と呼ばれ、第一次世界大戦までの100年間に新大陸へ渡ったヨーロッパ人は約6,000万人に上る、と言われている。多くの人が移動すれば当然、国境を越えた資本の移動も活発になる。グローバル化の進展により、欧米列強はやがて国家と独占資本(生産と市場を独占的に支配する大資本)が結びつき、力による市場拡大と植民地化を目指すようになった。
 この構造は、冷戦崩壊後の現在も同様だ。

 (4)グローバル経済が浸透した結果、先進国の国内では格差が広がり、労働者の賃金は下がっていった。規制緩和や労働市場の柔軟化が進み、雇用が不安定になると、それは結果として社会不安へとつながっていく。そうした社会不安が国内で増大する時、国家は自らの機能を強化していく。つまり、グローバル化の果てに訪れる新・帝国主義の時代に、国家が機能を強化していくのは、ある意味必然なのだ。
 〈例1〉2016年に起きたブレグジット(EUからの英国脱退)の選択。・・・・英国民が国家の完全な主権回復を求めた結果。
 〈例2〉2017年のトランプ米大統領の誕生。・・・・米国民が「米国第一主義」で国内優先の姿勢を示すトランプに対し、強い期待を抱いた結果。

□佐藤優『ファシズムの正体』(集英社インターナショナル新書、2018)の「序章 なぜ今、ファシズムを学ぶ必要があるのか」の「新・帝国主義の時代」

 【参考】
【佐藤優】日本のファシズム関連本は役に立たない ~今ファシズムを学ぶ理由(1)~
【佐藤優】まえがき ~『ファシズムの正体』~
【佐藤優】『ファシズムの正体』の目次

 

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