語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】ロシアと似た無関心  ~官僚の掟(13)~

2019年03月20日 | ●佐藤優
 自国のことは第三者的に冷静な目で捉えづらいのです。2018年3月に行われたロシア大統領選挙の結果が、安倍内閣と世論の関係に共通する部分が多く、我々にとっても参考になると思います。ロシアでは、プーチン大統領は国民から好かれていません。それでも7割以上の得票率で大統領に当選しました。
 プーチンの政策のポイントは、ロシアに中産階級を作り出すことにあります。90年代、ソ連崩壊に伴って、急激なインフレが起きました。国有財産の民営化が進められる過程で貧富の差が極度に拡大し、社会が大混乱に陥りました。この混乱から脱却するには、分厚い中産階級を形成する必要がありました。プーチンはその政策を推し進め、中産階級の形成に成功した結果、人気を失ったのです。
 なぜならば、中産階級とは本質的に非政治的な存在だからです。これは代議制民主主義の根幹にかかわる話で、この制度下では、市民が政治家を投票によって選出します。すると、政治は職業政治家によって行われ、市民は政治に関して何をするかというと、何もしません。代わりに、「個の欲望」を追求するようになります。ヘーゲルやマルクスが市民社会を「欲望の王国」と呼んだのがこれに当たります。経済が順調である限り、市民は政治に無関心なのです。プーチン政権下でも、2014年までは経済が順調でしたから、市民の不満は少なかったのです。
 ところがこの年、プーチンがウクライナ南部のクリミア半島を併合したことで、欧米諸国はロシアに対する経済制裁を行い、ロシア経済は打撃を受けました。そのために中産階級の生活水準が低下し、プーチンに対する不満が高まりました。しかし、プーチン以外に受け皿になる人物が見当たらないし、プーチン以外の人間が政治の舵取りをしても大混乱が起きることが分かっている。だから、プーチンに不満を持っている市民も、混乱よりはプーチン政権が続くほうがマシだと判断して、大統領選挙で彼に投票したというわけです。

□佐藤優『官僚の掟 競争なき「特権階級」の実態』 (朝日新書、2018)の「第1章 こんなに統治しやすい国はない」の「ロシアと似た無関心」を引用

 【参考】
【佐藤優】安倍政権は事実上の超然内閣 ~官僚の掟(12)~
【佐藤優】安倍政権の反知性主義  ~官僚の掟(11)~
【佐藤優】内閣支持率42%の心理的根拠  ~官僚の掟(10)~
【佐藤優】世論と信頼  ~官僚の掟(9)~
【佐藤優】「劣位」の元キャリアの特徴  ~官僚の掟(8)~
【佐藤優】どの上司に評価されたか  ~官僚の掟(7)~
【佐藤優】官僚は年次がすべて  ~官僚の掟(6)~
【佐藤優】官僚に「落選」はない  ~官僚の掟(5)~
【佐藤優】ソ連官僚の鉄のモラル   ~官僚の掟(4)~
【佐藤優】競争の土俵に上がらない  ~官僚の掟(3)~
【佐藤優】自殺の大蔵、汚職の通産、不倫の外務 ~官僚の掟(2)~
【佐藤優】『官僚の掟』の目次

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