語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】宗教とジャーナリズム ~宗教と資本主義・国家~

2018年03月30日 | ●佐藤優
 <【宗教にとってのナショナリズムは非常に厄介で、民族文化と不即不離だという点について】
 国や文化的な文脈でだいぶ異なると思います。日本では、あまりストレートに結びつかないのではないか。
 日本のナショナリズムは日清戦争、日露戦争、日中戦争、満州事変あたりを通じて、戦争との関係で比較的簡単にできてしまいました。そのため、宗教ではない、国民の「慣習」としての神道とナショナリズムとをまとめ上げる形で、宗教的な操作をせずに成立してしまったという感覚を持っています。
 その一方で、「俺たちも仲間に入れてくれよ」と、過剰な形での国家主義への迎合が起こった。日蓮主義の系統でもありましたし、親鸞思想から日本主義へと至った三井甲之(みついこうし)の『親鸞研究』のような方向もありました。先ほど触れられた「阿弥陀如来=天皇」とするものもある。
 キリスト教の場合、カトリックとプロテスタントでは、少し事情が異なります。カトリックでは暁星中学と上智大学の学生が、神社参拝をしなかったケースがありました。そこで日本のカトリック教会がバチカンに問い合わせると、バチカンから「日本臣民の慣習だから構わない」という答えをもらった。これは、彼らがかなり強い内在的な葛藤を感じていたことを表しています。
 それに対してプロテスタント主流派は、簡単にナショナリズムの流れに入っていってしまいました。その最たる例が、日本のプロテスタントの最大教派である日本基督教団の成立です。それまでは教派間の壁があり、合同教会をつくることはできずにいました。ところが、それができてしまったのは、その背後に強いナショナリズムがあったからです。
 ただ、このような宗教とナショナリズムの結合は、日本ではあくまでも本筋ではなく、脇道の話です。日本の場合、ゲルナーのナショナリズム論よりも、ハンス・コーンやベネディクト・アンダーソンのいう「オフィシャル・ナショナリズム」論(公定ナショナリズム。支配層が上から設定する概念や儀礼によってナショナリズムが形成されるという説)があまりにも強かったため、宗教がナショナリズムに与える影響が限定的だったような感じがしています。>

□池上彰・佐藤優・松岡正剛・碧海寿広・若松英輔『宗教と資本主義・国家 激動する世界と宗教』(KADOKAWA、2018)の「第Ⅲ部 総合討論」の「パネルディスカッション」の「宗教とジャーナリズム」から一部引用

 【参考】
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【佐藤優】『宗教と資本主義・国家 激動する世界と宗教』の目次




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