翁長雄志知事が5月27日からの訪米前に実現しようとしていたケネディ駐日米大使との会談が、不可能となった。米政府筋によると、ケネディ氏や周辺は翁長氏と「会うつもりはある」が、知事訪米前、米政府の対応に注目が高まる時期の会談には慎重となっている。【注1】
(1)昨年11月の沖縄知事選を勝ち抜いた翁長雄志・新知事は、「オール沖縄」県民の意向に理解を求めようと、安倍首相や菅官房長官(沖縄基地負担軽減担当相を兼務)などと面会を求めてきた。だが、
(a)二人ともけんにほろほろの対応で、会わない。
(b)国会や記者会見における質問には、辺野古新基地建設を「粛々と進める」と回答するだけで通してきた。
(c)辺野古の埋め立て工事を許可した仲井間知事には、一括交付金をテコに沖縄振興予算を年々増額、2014年度には3,500億円を約束した・・・・のに、新知事に代わったとたん、政府はそれを160億円も減額した(当てつけありありの豹変)。
(2)その政府が、また急に態度を変え、
(a)官房長官を沖縄に派遣、4月5日、知事との会談に臨ませた。
(b)安倍首相もまた、4月17日、知事との会談に臨んだ。
なぜか。
翁長雄志・新知事を選んだ県民は、事実上、自民党支持者から共産党支持者まで広範な人びとから成る辺野古反対共同戦線を形づくっていた。そこに結集する県民は、12月の総選挙でも4選挙区全部で自民党候補を退け、統一候補を勝利させた。
この島ぐるみの県民が、かねてから辺野古に馳せ参じ、海上保安庁、県警、沖縄防衛局、米軍の挑発や暴力にも屈せず、整然と辺野古の新基地建設工事の無残さを曝露、反対運動を成功させてきた。彼らこそ、(a)や(b)の原動力だ。
一方、訪米前に(b)ぐらいやっておかないと、オバマ大統領に合わせる顔もないのが、首相の置かれた立場だった。
その首相に、知事は伝言を委ねた。「オバマ大統領へ沖縄県知事はじめ、県民は、辺野古移設計画に明確に反対しているということを伝えていただきたい」と。
(3)翁長知事の強気と自信はどこから来るのか。
会談冒頭の翁長知事の迫力ある「冒頭発言全文」(翁長・菅会談の翌日に現地2紙「沖縄タイムス」「琉球新報」がともに掲載)【注2】にヒントがある。その5,000字に近い発言は、
・沖縄戦後史を貫く県民の願望
・それに鈍感な本土同胞への苛立ち
・占領軍そのままの米軍のいいなりで、無為無策の政府への怒り
などを余さず言い尽くしている。
恨みつらみとは違う。歴史を冷徹に見通している。本土政府の沖縄に対する処遇は、現在の世界史的な転換期(日本も直面している)にあっては、すでに時代遅れだ。正義に反する。のみならず、日本全体の未来を過つ結果となりなけない・・・・とくに、米国との関係を根本的に考え直すべきときに、その課題と真剣に取り組まないのは「国の政治の堕落だ」と、高い見識を示す。
(4)冒頭発言で知事は、政府がすぐ口にする「粛々」に反発を示した。これに対して、菅官房長官は、上からの目腺ととられるので今後は「粛々」の語彙は使わないと言い、安倍首相もそれに倣う、とした【注3】。
新聞は、これらを話題にした。しかし、各紙とも、翁長発言全文を掲載、紹介し、そこに記された史実の解説、提起された問題をめぐる議論を報じたほうが、よほど読者に感銘を与え、喜ばれるのではないか。現に東京新聞は、ネットで「冒頭発言全文」が話題にされ始めた4月11日、朝刊の「こちら特捜部」に全文を解説付きで掲載し、それがまたネットで大きな反響を呼んだ。
(5)4月6、7日の各紙社説は、
朝日「『粛々と』ではすまない」
毎日「沖縄が示した強い意思」
中日・東京「民意の重さ受け止めよ」
北海道「対談 対等の立場で進めねば」
デーリー東北(青森)「沖縄と真剣に向き合え」
秋田魁「対話続け、打開図れ」
信濃毎日「政府は寄り添う姿勢を」
北日本(富山)「本土に向けた沖縄の声を」
京都「民意に向き合ってこそ」
神戸「政府こそ沖縄への理解を」
愛媛「沖縄の民意をまず誠実に聞け」
など多くの地方紙を含めて政府の態度を批判的に評するもののほうが多かった。しかし、翁長知事冒頭発言と並べると、まだ物足りない。これらに比べて、
高知「辺野古以外の道も探れ」
熊本日日「『政治の堕落』どう答える」
は、政府の民意無視を厳しく問うものだった。
一方、辺野古移設計画支持を旗幟鮮明に示してきた読売、産経は、
読売「批判にも相手への配慮がいる」、
産経「対話継続で一致点を探れ」
などと、翁長知事を非難し、反省を求めるトーンが強い。
【注1】記事「翁長知事、ケネディ米大使と会えず 訪米前会談」(「琉球新報」 2015年4月6日)
【注2】「<翁長知事冒頭発言全文>「粛々」は上から目線」(「琉球新報」 2015年4月6日)
【注3】だが、官房長官は、その舌の根も乾かぬうちに、福井地裁の仮処分判決(高浜原発の再稼働差し止め)に対して、再稼働は「粛々」と進める、述べた。
□神保太郎「メディア批評第90回」(「世界」2015年6月号)の「(1)「翁長知事冒頭発言全文」が日本に問いかけるもの」
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【沖縄】の今(2) ~日米同盟の再構築へ向けて~」
「【沖縄】の今(1) ~東アジアの中の琉球~」
「【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~」
「【沖縄】辺野古対抗と「わが軍」 ~安倍政権の思考停止~」
「【沖縄】の今(2) ~日米同盟の再構築へ向けて~」
「【沖縄】の今(1) ~東アジアの中の琉球~」
(1)昨年11月の沖縄知事選を勝ち抜いた翁長雄志・新知事は、「オール沖縄」県民の意向に理解を求めようと、安倍首相や菅官房長官(沖縄基地負担軽減担当相を兼務)などと面会を求めてきた。だが、
(a)二人ともけんにほろほろの対応で、会わない。
(b)国会や記者会見における質問には、辺野古新基地建設を「粛々と進める」と回答するだけで通してきた。
(c)辺野古の埋め立て工事を許可した仲井間知事には、一括交付金をテコに沖縄振興予算を年々増額、2014年度には3,500億円を約束した・・・・のに、新知事に代わったとたん、政府はそれを160億円も減額した(当てつけありありの豹変)。
(2)その政府が、また急に態度を変え、
(a)官房長官を沖縄に派遣、4月5日、知事との会談に臨ませた。
(b)安倍首相もまた、4月17日、知事との会談に臨んだ。
なぜか。
翁長雄志・新知事を選んだ県民は、事実上、自民党支持者から共産党支持者まで広範な人びとから成る辺野古反対共同戦線を形づくっていた。そこに結集する県民は、12月の総選挙でも4選挙区全部で自民党候補を退け、統一候補を勝利させた。
この島ぐるみの県民が、かねてから辺野古に馳せ参じ、海上保安庁、県警、沖縄防衛局、米軍の挑発や暴力にも屈せず、整然と辺野古の新基地建設工事の無残さを曝露、反対運動を成功させてきた。彼らこそ、(a)や(b)の原動力だ。
一方、訪米前に(b)ぐらいやっておかないと、オバマ大統領に合わせる顔もないのが、首相の置かれた立場だった。
その首相に、知事は伝言を委ねた。「オバマ大統領へ沖縄県知事はじめ、県民は、辺野古移設計画に明確に反対しているということを伝えていただきたい」と。
(3)翁長知事の強気と自信はどこから来るのか。
会談冒頭の翁長知事の迫力ある「冒頭発言全文」(翁長・菅会談の翌日に現地2紙「沖縄タイムス」「琉球新報」がともに掲載)【注2】にヒントがある。その5,000字に近い発言は、
・沖縄戦後史を貫く県民の願望
・それに鈍感な本土同胞への苛立ち
・占領軍そのままの米軍のいいなりで、無為無策の政府への怒り
などを余さず言い尽くしている。
恨みつらみとは違う。歴史を冷徹に見通している。本土政府の沖縄に対する処遇は、現在の世界史的な転換期(日本も直面している)にあっては、すでに時代遅れだ。正義に反する。のみならず、日本全体の未来を過つ結果となりなけない・・・・とくに、米国との関係を根本的に考え直すべきときに、その課題と真剣に取り組まないのは「国の政治の堕落だ」と、高い見識を示す。
(4)冒頭発言で知事は、政府がすぐ口にする「粛々」に反発を示した。これに対して、菅官房長官は、上からの目腺ととられるので今後は「粛々」の語彙は使わないと言い、安倍首相もそれに倣う、とした【注3】。
新聞は、これらを話題にした。しかし、各紙とも、翁長発言全文を掲載、紹介し、そこに記された史実の解説、提起された問題をめぐる議論を報じたほうが、よほど読者に感銘を与え、喜ばれるのではないか。現に東京新聞は、ネットで「冒頭発言全文」が話題にされ始めた4月11日、朝刊の「こちら特捜部」に全文を解説付きで掲載し、それがまたネットで大きな反響を呼んだ。
(5)4月6、7日の各紙社説は、
朝日「『粛々と』ではすまない」
毎日「沖縄が示した強い意思」
中日・東京「民意の重さ受け止めよ」
北海道「対談 対等の立場で進めねば」
デーリー東北(青森)「沖縄と真剣に向き合え」
秋田魁「対話続け、打開図れ」
信濃毎日「政府は寄り添う姿勢を」
北日本(富山)「本土に向けた沖縄の声を」
京都「民意に向き合ってこそ」
神戸「政府こそ沖縄への理解を」
愛媛「沖縄の民意をまず誠実に聞け」
など多くの地方紙を含めて政府の態度を批判的に評するもののほうが多かった。しかし、翁長知事冒頭発言と並べると、まだ物足りない。これらに比べて、
高知「辺野古以外の道も探れ」
熊本日日「『政治の堕落』どう答える」
は、政府の民意無視を厳しく問うものだった。
一方、辺野古移設計画支持を旗幟鮮明に示してきた読売、産経は、
読売「批判にも相手への配慮がいる」、
産経「対話継続で一致点を探れ」
などと、翁長知事を非難し、反省を求めるトーンが強い。
【注1】記事「翁長知事、ケネディ米大使と会えず 訪米前会談」(「琉球新報」 2015年4月6日)
【注2】「<翁長知事冒頭発言全文>「粛々」は上から目線」(「琉球新報」 2015年4月6日)
【注3】だが、官房長官は、その舌の根も乾かぬうちに、福井地裁の仮処分判決(高浜原発の再稼働差し止め)に対して、再稼働は「粛々」と進める、述べた。
□神保太郎「メディア批評第90回」(「世界」2015年6月号)の「(1)「翁長知事冒頭発言全文」が日本に問いかけるもの」
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【参考】
「【沖縄】の今(2) ~日米同盟の再構築へ向けて~」
「【沖縄】の今(1) ~東アジアの中の琉球~」
「【佐藤優】【沖縄】キャラウェイ高等弁務官と菅官房長官 ~「自治は神話」~」
「【沖縄】辺野古対抗と「わが軍」 ~安倍政権の思考停止~」
「【沖縄】の今(2) ~日米同盟の再構築へ向けて~」
「【沖縄】の今(1) ~東アジアの中の琉球~」