語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】企業の汚れ役 ~メリットとデメリット~

2015年05月06日 | 社会
 大証券が、それぞれ与党の有力政治家とつながりをもっていることは、周知の事実だった。政治家は、派閥を維持するために株式の売買で利益をつかみたがり、証券会社の方は、その見返りとして、情報を求めるのである。しかし、それが露骨な形で行われると、世論の指弾を浴びる。だから、社長や次期社長と目される役員には、そういう汚れ役をさせないのがふつうである。
 もっとも、汚れ役が存在するのは、一般企業でも同じことである。どこの会社でも、帳簿にのらない裏金を必要とする。それを捻出するのは、汚れ役なのだ。常務あるいは副社長にまではなれるが、専務や社長にはなれない。もし社長になってから、裏金づくりに深く関係したことが表沙汰になると、株主総会で総会屋の餌食になってしまう。だから、企業としては自己防衛のためにも、汚れ役をトップに据えることはしない。それが暗黙の了解事項であり、不文律である。
 トップに選ばれるものに比べ、汚れ役は損な役まわりだが、といって、成り手がいないということはない。
 社長というものは、いったんその座を降りると、にわかに影が薄くなる。
 当然である。新しく社長になったものが前任者の影響力をなくすことに全力を傾けるからだ。また、そうしなければ、二頭政治になって困るのだ。
 いったん社長になったものが、なかなかその座を譲ろうとしないのは、社長を退いたあとの寂しさをよく知っているからである。
 それに比べ、汚れ役の場合は、そういう寂しさや切なさを味わうことなく、老後を保障される。裏金づくりのノウハウを知っているために、後任者の相談にあずかるし、関連会社の役員に送りこまれたりする。社長をつとめたものには、それがない。本社のトップだったものが、子会社の役員になることは絶対にないのだ。
 しかし、この汚れ役がトップを狙うと、いわゆるお家騒動が起こる。かつて、ある大メーカーで、そういうことがあった。政界との窓口になって、集めた裏金をバラまいた。ある意味では、隠然たる勢力をもっていたのだが、トップの座を狙ったために、失脚した。支援してくれるはずの政治家たちが、いざとなると、彼に背を向けたのである。
 大株主である銀行や生保筋も、彼に難色を示した。不文律を犯すことになるからだった。
 結局、妥協が成立し、彼は退職して、国会議員になった。政界との窓口をつとめていたころは、派閥の領袖たちも彼に愛想よく接していたが、議員になってしまうと、掌をかえしたように冷たく扱った。資金調達能力を失った彼には、何の魅力もなくなったのだ。

□三好徹『ビッグマネー』(サンケイ出版、1987)から引用
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【経済】金儲けの三つの秘訣 ~安田財閥~