語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【社会】私学に広がる教員派遣と偽装請負

2013年02月12日 | 社会
 (1)派遣と請負の違いは何か。
  (a)労働者派遣・・・・自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること。【労働者派遣法第2条第1項】 よって、労働法上の労働者として法の保護を受けることができる。
  (b)請負・・・・労務提供者は雇用関係を結ぶことなく注文主と契約し、報酬と引き換えに一定の業務を遂行する。労務提供者は労働法によって守られる労働者ではないが、注文主からの指揮命令は受けない。仮に指揮命令が行われた場合、違法な偽装請負となる。労務提供者が刑事告発すれば、労務の受託者ともに1年以下の懲役、100万円以下の罰金が科せられる。

 (2)昨秋、偽装請負が教育現場でも起きていることが明らかになった。
  (a)Aさん(29歳、女性)は、2009年秋に派遣会社「イスト」(東京都渋谷区、「代々木進学会」の名で家庭教師派遣事業も行う)に登録し、「授業1コマにつき9,000円」の請負契約を結んだ。
  (b)私立X高校(埼玉県北部)は、「イスト」と請負契約を締結した。
  (c)Aさんは、X高校で2010年4月から2012年3月まで、2年間X高校に勤務。社会科担当。着任後、X高校から直接業務指示を受け、最低でも10時間はかかる試験問題の作成やその採点、赤点生徒のフォローも行った。さらに、校内研修への出席も事実上義務づけられていた。しかし、「イスト」との契約が「コマ契約」であるため、これらの業務はすべて無報酬でさせられていた。
  (d)Aさんの在職時、X高校には合計26人の非常勤講師が在籍していた。うち一昨年は10人、昨年は13人の講師がAさん同様の個人請負(いずれも「イスト」と契約)だった。部活動の指導や引率まで頼まれ、断りきれずに引き受けた請負の講師もいた。
  (e)X高校では、Aさんら非常勤講師は、正規の教員とは別の職員室で働かせた。これら非常勤講師は、有給休暇の取得や私学共済への加入ができなかった。私学の中には、集10コマ勤務の非常勤講師でも私学共済に加入できる学校もあるが、X高校ではそういう配慮は一切していなかった。
  (f)Aさんの年収はおよそ160万円。学校における授業とは別に、飲食店とコールセンターのアルバイトをかけもちした収入を含めた額だ。
  (g)Aさんは、昨年3月、学校から直接業務指示を受けて働いているにもかかわらず、身分は「請負」のままであったことを東京都労働局に告発した。
  (h)東京都労働局は、調査の結果、昨年9月14日、「イスト」とX高校に対してして是正指導を行った。

 (3)派遣労働者として教壇に立つ教員は、年々確実に増えている。ある調査によれば、全国の私立学校のうち、少なくとも35校に派遣・請負の間接雇用非常勤講師がいる。人数にして140人。うち請負は5校27人にのぼる。
 派遣講師の大部分が、3年を超えることなく契約が打ち切られる。当然、派遣講師は派遣3年目には次の職場を探す就職活動にエネルギーを奪われる。
 教員の雇用劣化は、私学の教育水準低下に直結する。

 (4)教員派遣事業を展開している会社は、「イスト」以外にもいくつか存在し、大手と呼ばれるところの多くが、有名進学熟の系列会社だ。
 教師たちは、企業の商品となり、差別待遇を受けている。その教師が、多感な時期にある生徒たちの授業を行う。
 生徒たちにとって、目の前に存在する「社会的不公正」が何よりの「教育」となるわけだ。

□古川琢也「アルバイトで生活費かせぐ派遣教員」(「週刊金曜日」2013年2月8日号)
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