太陽にとんぼが飛んでいると
子供は黒点の乱れを見て言うのだ
私は黙ってしまう
太陽にとんぼがいることは本当なのだから
私は何も言えなくなってしまう
ほんとうはとんぼは
太陽だけではなく何処にでもいるのだ
銀色のすきとおる羽をきらめかせ
ルリのような目を輝かせながら
宇宙をいっぱいに飛んでいるのだ
それを太陽に見つけたものだから
太陽にとんぼがいると子供は言うのだ
私は黙ってしまう
私はある大事な日に
ある大事なものをこわしてしまったのだから
あれは黒点にすぎないのだと
それから月には死んだ山があるばかりで
火星なら原始的なコケ類が
かろうじているだけなのだと
それだけしか言えないのだ
とんぼの見えなくなった私を
子供に覗かせるのは恐ろしいことなのだ
例えば暗い矮小な黒点と
死んだ山とコケ類しかいなくなった私を
太陽にとんぼが飛んでいる
子供は太陽を見て言っているのだ
きらきら光る超次元の知恵で
まっすぐに太陽を見ているのだ
□村上昭夫「太陽にいるとんぼ」(『動物哀歌』、1967【第18回H氏賞】)
↓クリック、プリーズ。↓

【参考】
「【詩歌】村上昭夫「金色の鹿」」
「【詩歌】村上昭夫「雁の声」」
「【詩歌】村上昭夫「うみねこ」」
「【詩歌】村上昭夫「鴉」」
「【詩歌】村上昭夫「荒野とポプラ」」
「【詩歌】村上昭夫「シリウスが見える」」
「【詩歌】村上昭夫「賢治の星」 ~ふたごの星~」
赤とんぼ

子供は黒点の乱れを見て言うのだ
私は黙ってしまう
太陽にとんぼがいることは本当なのだから
私は何も言えなくなってしまう
ほんとうはとんぼは
太陽だけではなく何処にでもいるのだ
銀色のすきとおる羽をきらめかせ
ルリのような目を輝かせながら
宇宙をいっぱいに飛んでいるのだ
それを太陽に見つけたものだから
太陽にとんぼがいると子供は言うのだ
私は黙ってしまう
私はある大事な日に
ある大事なものをこわしてしまったのだから
あれは黒点にすぎないのだと
それから月には死んだ山があるばかりで
火星なら原始的なコケ類が
かろうじているだけなのだと
それだけしか言えないのだ
とんぼの見えなくなった私を
子供に覗かせるのは恐ろしいことなのだ
例えば暗い矮小な黒点と
死んだ山とコケ類しかいなくなった私を
太陽にとんぼが飛んでいる
子供は太陽を見て言っているのだ
きらきら光る超次元の知恵で
まっすぐに太陽を見ているのだ
□村上昭夫「太陽にいるとんぼ」(『動物哀歌』、1967【第18回H氏賞】)
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【参考】
「【詩歌】村上昭夫「金色の鹿」」
「【詩歌】村上昭夫「雁の声」」
「【詩歌】村上昭夫「うみねこ」」
「【詩歌】村上昭夫「鴉」」
「【詩歌】村上昭夫「荒野とポプラ」」
「【詩歌】村上昭夫「シリウスが見える」」
「【詩歌】村上昭夫「賢治の星」 ~ふたごの星~」
赤とんぼ
