goo blog サービス終了のお知らせ 

語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】村上昭夫「太陽にいるとんぼ」

2015年05月31日 | 詩歌
 太陽にとんぼが飛んでいると
 子供は黒点の乱れを見て言うのだ

 私は黙ってしまう
 太陽にとんぼがいることは本当なのだから
 私は何も言えなくなってしまう

 ほんとうはとんぼは
 太陽だけではなく何処にでもいるのだ
 銀色のすきとおる羽をきらめかせ
 ルリのような目を輝かせながら
 宇宙をいっぱいに飛んでいるのだ
 それを太陽に見つけたものだから
 太陽にとんぼがいると子供は言うのだ

 私は黙ってしまう
 私はある大事な日に
 ある大事なものをこわしてしまったのだから
 あれは黒点にすぎないのだと
 それから月には死んだ山があるばかりで
 火星なら原始的なコケ類が
 かろうじているだけなのだと
 それだけしか言えないのだ

 とんぼの見えなくなった私を
 子供に覗かせるのは恐ろしいことなのだ
 例えば暗い矮小な黒点と
 死んだ山とコケ類しかいなくなった私を
 太陽にとんぼが飛んでいる
 子供は太陽を見て言っているのだ
 きらきら光る超次元の知恵で
 まっすぐに太陽を見ているのだ

□村上昭夫「太陽にいるとんぼ」(『動物哀歌』、1967【第18回H氏賞】)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【詩歌】村上昭夫「金色の鹿」
【詩歌】村上昭夫「雁の声」
【詩歌】村上昭夫「うみねこ」
【詩歌】村上昭夫「鴉」
【詩歌】村上昭夫「荒野とポプラ」
【詩歌】村上昭夫「シリウスが見える」
【詩歌】村上昭夫「賢治の星」 ~ふたごの星~

      赤とんぼ
    
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

【堤未果】本当に患者のためなのか ~国民健康保険法の改正~

2015年05月31日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)保険診療と保険外診療を併用する「混合診療」は、
   (a)国民の医療費負担増大
   (b)安全性・有効性が担保されない医療拡大
への懸念から、日本では原則として禁止されてきた。
 だが、政府の規制改革会議の強い要望を受け、2006年から、「保険外併用療養費制度」として一部例外的な適用が開始された。次の2種だ。
    ①「評価療養」・・・・保険収載を前提とした薬剤の使用や医療機器の治験につながる診療・先進医療など。
    ②「選定療養」・・・・保険に関係ない差額ベッドなど。

 (2)2015年4月28日、衆議院で「国民健康保険法改正」が通過した。
 改正の一部に「患者申出療養」がある。「混合診療」の申請は、これまで一部医療機関に限られていた。ところが、「患者申出療養」制度によって、「患者からの要望」にまで拡大される。
 患者は、医師から紹介された①臨床研究中核病院ないし②特定機能病院の専門部署で、未承認薬の説明を受ける。その後、医療機関側が、患者が納得したという署名付き同意書を添付した申請書を国へ提出する、という流れだ。

 (3)「患者申出療養」制度に係る疑問点。
   (a)現時点で、医療法に基づいて認定された臨床研究中核病院は一つもない。
   (b)特定機能病院に、申請前で治験も審査もされていない未承認薬の安全性・有効性に係る説明材料がどれだけあるか?
   (c)患者の同意署名付きの申請が受理された後、未承認薬の安全審査は、従来のような治験を通さずとも、国の審査会判断のみにで承認できる。そして、①現行6ヶ月間の審査期間が6週間に、2回目以降は2週間に短縮される。②さらに、一度承認された前例さえあれば、2回目以降は自動的に全国の医療機関で実施できる、という。・・・・要するに、患者は安全審査の結果が出る前段階の説明を受け、治験でなく審査会でスピード承認された新薬を自己負担で使う、ということだ。
   (d)では、有害事象が起きた時の責任の所在はどうなるのか? 「治験」であれば、製薬メーカー側が入る保険や政府保障など、法的に担保されている。「評価療養」では、保険に入っている医療機関はまだ半数だ。ところが、「患者申出療養」に関しては、この肝心の被害賠償についてまだ明確に決まってない、という。  

 (4)日本では、以前からカルテの保存期間が短すぎる、という問題が指摘されている。
 製薬会社との利益相反によるデータ改竄が疑われた「ディオバン事件」では、カルテが残っていなくて検証できなかった。この問題は未だに総括されていない。

 (5)政府は、今回の規制緩和はあくまでも例外だ、という。
 しかし、本筋である先進医療の保険収載に必要な症例積み上げのための専門医や設備自体、日本ではまだまだ不十分だ。
 「患者のため」を標榜するなら、書類審査だけで承認する新制度の拙速な導入よりも、安全が担保された薬を保険で使いたいという患者の「真の声」に耳を傾け、それが反映される仕組みを整備することが先立つのではないか。
 国民の命と健康に関わる重要な法改正は、いったい誰のためのものなのか?

□堤未果「本当に患者のためか? 「疑問符」がつく国民健康保険法の改正 ~ジャーナリストの目 第252回~」(「週刊現代」2015年5月30日号)
     ↓クリック、プリーズ。↓
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ  人気ブログランキングへ  blogram投票ボタン

 【参考】
【堤未果】サービス残業は絶対なくならない ~残業代ゼロ法案~
【堤未果】医師不足に拍車をかける国家戦略特区
【堤未果】「イスラム国」掃討と膨れあがる米の軍事費 ~いつか来た道~
【堤未果】格差大国アメリカの後を追う日本 ~金融緩和と年金改革~
【堤未果】米国社会の変質 ~ミズーリ州の武装警察~
【米国】国民皆保険という美名の裏で大増税開始 ~オバマケア~
【食】中国の鶏肉問題--流通のグローバル化で食の安全はますます困難に
【堤未果】「水道の民営化」が招く社会インフラ大崩壊 ~価格高騰に水質低下~
【堤未果】「社会保障のための増税」のウソ ~来るべき医療崩壊~
【堤未果】世界が危惧する日本のジャーナリズム ~「監視大国」米国以下~
【堤未果】アベノミクスと米国経済の危うい共通点
国の鶏肉問題--流通のグローバル化で食の安全はますます困難に」
【政治】国家戦略特区法の危険性
【米国】と日本における民営化の悲惨 ~株式会社化する国家~  



コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする