(1)渡辺美樹・参議院議員が6月27日まで会長を務めたワタミ【注】は、次の3事業を主力事業としている。
(a)国内外食(居酒屋)
(b)介護
(c)高齢者宅配弁当
(2)(1)-(c)は、「ワタミの宅配」のブランド名で、主に高齢者の自宅に「まごころ御膳」などの調理済み食材を宅配する事業だ。売上高は388億円と介護事業を上回り、経常利益は27.5億円と国内外食事業をしのぐ(2012年度)。グループの稼ぎ頭だ。
この事業は、他の事業と大きく異なるビジネスモデルだ。弁当を客のもとへ運ぶのは、ワタミの従業員ではない「まごころスタッフ」。彼らは業務委託契約を結んだ個人事業主なのだ。
請負の場合、ワタミ側は労災保険料を始めとする社会保険料、業務に係る経費を負担しない。これにより、大幅なコストカットが実現できる。ただし、注文者(ワタミ)は日々の業務に関する指示はできない。当然ながら、勤怠管理、休日管理もできない。請負人は自らの決裁判断で業務を行う。
ワタミ社員いわく、まごころスタッフは全国各地にある営業所ごとで契約し、そこで担当エリアを与えられる。配達の際の携帯料金、ガソリン代は「自分持ち」。報酬は1軒配達するごとに115円、弁当が1個増えるごとに15円加算される。運べば運ぶほど儲かる仕組みだ、うんぬん。
(3)と・こ・ろ・が、まごころスタッフは「請負」と呼ぶには極めてマユツバな実態がある。契約書には書かれてないが、「50軒ルール」なる社内の暗黙のルールがあって、累積で50軒を超えた人には新規の客が回されなくなる。「ちょっと数を減らしてくれないか」などとワタミが通告したりする。
同業他社へ行って仕事をしたら訴える、などと営業所長が脅したりもする。
会社は細かい指令をたくさん出す。
「ワタミの宅食」と書かれたマグネットを必ず車に貼れ」
「産地を問われたら、中国産はほぼ使っていないと言え」
営業活動までさせる。弁当を取るのを途中で止めた客のリストを渡し、「あななたちにとっても得なんだから、もう1回行って注文するようお願いしてきてくれないか」。
要するに、「請負」という形態をとりながら、実質はワタミの指揮命令系統下にある従業員と同じ業務を行わせている(疑い)。
(4)偽装請負を裏付ける社内文書が存在する。
まごころスタッフの手数料明細書だ。「リーダー手数料」という記載があり、2万円が振り込まれている。
一部のまごころスタッフを「リーダー」と呼び、業務委託契約にはない仕事をさせていた。その対価として「リーダー手数料」という名目で、毎月1~3万円程度の金額を支払っていた。
例えば、1日1~2時間、営業所内の清掃、本部から送られてくる文書の管理、電話対応(営業所に社員が常駐していない場合には電話がリーダーの携帯電話に転送される設定にするよう指示される)・・・・といったリーダーの仕事をこなす。
冷蔵庫の温度を毎朝チェックしてサインせよ、と指示されるリーダーもいた。
要するに、自ら決裁判断できる請負ではなく、事実上ワタミの労働者であることを裏付けるのがリーダー手数料だ。
営業所という会社の管理下で働き、対価を受け取っていると労働者性は強い。労働者性を判断する上では、「会社側が指揮・監督していたかどうか」が重要になる。しかし、直接指示していなかったとしても、彼らが作業していたことを黙認することも指揮監督にあたる。だから、このケースは請負でない可能性が高い。広い意味で偽装請負と言える。【菊一功・元横浜労働基準監督署長】
(5)ワタミ自身、偽装請負の認識があった。
リーダー手数料が発生していた業務を請負からパート社員が行うよう、今年3月にワタミ本部から全国の営業所へ通知した。2通のメールのタイトルは、「リーダー手数料支払まごころスタッフの対応について」と「リーダー手数料の廃止に伴うパート社員登録確認について」だ。
ただし、パート契約はあくまでリーダー手数料を払っていた部分の仕事だけ。弁当の宅配は今までどおり業務委託のままだ。
つまり、旧リーダー手数料支払い対象者は、請負である「業務委託契約」とパート社員である「雇用契約」の2つを締結している。パートとしての勤務時間は正確には分からないから、ワタミは、リーダー手数料と同額を最低賃金で割った時間分働いたことにして給与明細を作っている。
同じ会社の密接に関連した業務をしているのに、委託と雇用で線引きしている。企業にとって都合のよい使い分けだ。労基署の監査で指導が入る可能性が高い。
一般的に企業が個人と業務委託契約を締結するのは、翻訳業・弁護士などの専門性が高い「丸投げ系」の仕事が多い。それ以外の仕事は指揮監督下に置かずに業務を行うことは実質的に困難だ。ワタミの宅食のように実態が労働契約になってしまうと、企業側は労災加入義務などの労働法上の義務を履行していないため違法と見なされる。【浜村仁之・ヒルトップ行政書士事務所代表】
このように極限までコストカットし、安い労働力で利益をあげる「ワタミ的ビジネスモデル」は確かに一見合理的だ。しかし、短期的に利益だけを追求することは、大量の労働者を痛めつけ、社会的損失となる。【佐々木亮・弁護士】
【注】「【社会】ブラック企業における過労死、ずさんな労務管理 ~ワタミ~」
□記事「ワタミ渡辺美樹前会長 高齢者宅配弁当“偽装請負”証拠文書」(「週刊文春」2013年7月18日号)
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(a)国内外食(居酒屋)
(b)介護
(c)高齢者宅配弁当
(2)(1)-(c)は、「ワタミの宅配」のブランド名で、主に高齢者の自宅に「まごころ御膳」などの調理済み食材を宅配する事業だ。売上高は388億円と介護事業を上回り、経常利益は27.5億円と国内外食事業をしのぐ(2012年度)。グループの稼ぎ頭だ。
この事業は、他の事業と大きく異なるビジネスモデルだ。弁当を客のもとへ運ぶのは、ワタミの従業員ではない「まごころスタッフ」。彼らは業務委託契約を結んだ個人事業主なのだ。
請負の場合、ワタミ側は労災保険料を始めとする社会保険料、業務に係る経費を負担しない。これにより、大幅なコストカットが実現できる。ただし、注文者(ワタミ)は日々の業務に関する指示はできない。当然ながら、勤怠管理、休日管理もできない。請負人は自らの決裁判断で業務を行う。
ワタミ社員いわく、まごころスタッフは全国各地にある営業所ごとで契約し、そこで担当エリアを与えられる。配達の際の携帯料金、ガソリン代は「自分持ち」。報酬は1軒配達するごとに115円、弁当が1個増えるごとに15円加算される。運べば運ぶほど儲かる仕組みだ、うんぬん。
(3)と・こ・ろ・が、まごころスタッフは「請負」と呼ぶには極めてマユツバな実態がある。契約書には書かれてないが、「50軒ルール」なる社内の暗黙のルールがあって、累積で50軒を超えた人には新規の客が回されなくなる。「ちょっと数を減らしてくれないか」などとワタミが通告したりする。
同業他社へ行って仕事をしたら訴える、などと営業所長が脅したりもする。
会社は細かい指令をたくさん出す。
「ワタミの宅食」と書かれたマグネットを必ず車に貼れ」
「産地を問われたら、中国産はほぼ使っていないと言え」
営業活動までさせる。弁当を取るのを途中で止めた客のリストを渡し、「あななたちにとっても得なんだから、もう1回行って注文するようお願いしてきてくれないか」。
要するに、「請負」という形態をとりながら、実質はワタミの指揮命令系統下にある従業員と同じ業務を行わせている(疑い)。
(4)偽装請負を裏付ける社内文書が存在する。
まごころスタッフの手数料明細書だ。「リーダー手数料」という記載があり、2万円が振り込まれている。
一部のまごころスタッフを「リーダー」と呼び、業務委託契約にはない仕事をさせていた。その対価として「リーダー手数料」という名目で、毎月1~3万円程度の金額を支払っていた。
例えば、1日1~2時間、営業所内の清掃、本部から送られてくる文書の管理、電話対応(営業所に社員が常駐していない場合には電話がリーダーの携帯電話に転送される設定にするよう指示される)・・・・といったリーダーの仕事をこなす。
冷蔵庫の温度を毎朝チェックしてサインせよ、と指示されるリーダーもいた。
要するに、自ら決裁判断できる請負ではなく、事実上ワタミの労働者であることを裏付けるのがリーダー手数料だ。
営業所という会社の管理下で働き、対価を受け取っていると労働者性は強い。労働者性を判断する上では、「会社側が指揮・監督していたかどうか」が重要になる。しかし、直接指示していなかったとしても、彼らが作業していたことを黙認することも指揮監督にあたる。だから、このケースは請負でない可能性が高い。広い意味で偽装請負と言える。【菊一功・元横浜労働基準監督署長】
(5)ワタミ自身、偽装請負の認識があった。
リーダー手数料が発生していた業務を請負からパート社員が行うよう、今年3月にワタミ本部から全国の営業所へ通知した。2通のメールのタイトルは、「リーダー手数料支払まごころスタッフの対応について」と「リーダー手数料の廃止に伴うパート社員登録確認について」だ。
ただし、パート契約はあくまでリーダー手数料を払っていた部分の仕事だけ。弁当の宅配は今までどおり業務委託のままだ。
つまり、旧リーダー手数料支払い対象者は、請負である「業務委託契約」とパート社員である「雇用契約」の2つを締結している。パートとしての勤務時間は正確には分からないから、ワタミは、リーダー手数料と同額を最低賃金で割った時間分働いたことにして給与明細を作っている。
同じ会社の密接に関連した業務をしているのに、委託と雇用で線引きしている。企業にとって都合のよい使い分けだ。労基署の監査で指導が入る可能性が高い。
一般的に企業が個人と業務委託契約を締結するのは、翻訳業・弁護士などの専門性が高い「丸投げ系」の仕事が多い。それ以外の仕事は指揮監督下に置かずに業務を行うことは実質的に困難だ。ワタミの宅食のように実態が労働契約になってしまうと、企業側は労災加入義務などの労働法上の義務を履行していないため違法と見なされる。【浜村仁之・ヒルトップ行政書士事務所代表】
このように極限までコストカットし、安い労働力で利益をあげる「ワタミ的ビジネスモデル」は確かに一見合理的だ。しかし、短期的に利益だけを追求することは、大量の労働者を痛めつけ、社会的損失となる。【佐々木亮・弁護士】
【注】「【社会】ブラック企業における過労死、ずさんな労務管理 ~ワタミ~」
□記事「ワタミ渡辺美樹前会長 高齢者宅配弁当“偽装請負”証拠文書」(「週刊文春」2013年7月18日号)
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