「蒼穹の昴」「珍妃の井戸」「中原の虹」「マンチュリアン・リポート」につづく、蒼穹の昴シリーズ第5弾。
第一作の刊行が1996年だから、もうこの大河小説は二十年以上も連載されている。文句なく浅田次郎のライフワーク。このシリーズのおかげでわたしも清朝末という時代に耽溺することになった。西太后、愛新覚羅溥儀、袁世凱、康有為、孫文、蒋介石、李鴻章、張作霖、張学良、そして毛沢東。これでもかという歴史的オールスターキャスト。
主役は李春雲という宦官と、義兄弟の梁文秀。今回の第一部はちょっと趣向が変わっていて、溥儀の側妃だった(なんと皇帝の妻が離婚訴訟を起こして離婚したという前代未聞の事件はほんとうにあったらしい)文繡の一人語りである。それが一転して第二部は都を離れる(蒙塵)ふたりの天子(溥儀、張学良)を中心に怒濤の展開。
基本的にこのシリーズは
・権力内部で次第に頭角をあらわす李春雲
・科挙を首席でとおりながら、次第に権力から離れていく梁文秀
のお話だ。背景にあるのは
・王座にのぼりつめる人間は“龍玉(ドラゴンボール!)”を手にするし、もっていない人間が王となると世も人も不幸になる
という設定。だから龍玉をもたない溥儀は、満州国の皇帝となっても幸福にはなれない。彼は女性どころか人間を愛することができない人物とされている。ラストエンペラーの孤独。
ああ相変わらず面白いなあと読み進めていたら、第二部のラストは梁文秀が今まで帰ろうとも思わなかった故郷に、妻とともに訪れるシーン。そこで彼は春雲がなぜ清朝で力を握ろうとしたかの一端を知る。なんかもう、二十年もつきあっていることもあって泣けて泣けて……ところで第三部はいつ出るんですかっ!