作品のなかで実在の固有名詞を使用するかは微妙な問題だ。映画やテレビでは『この作品はフィクションであり、実在のものとは関係ありません』的なタイトルが出るのが常になっている(笑ったのはハリー・ポッターのエンドタイトル『この映画では一匹のドラゴンも虐待されていない』)。しかしなかには意図的に利用する人もいる。ミステリ作家の原尞などはその典型で「“毎朝新聞”だの“関東テレビ”だのという名を使うことは耐えられない」としている。
村上春樹もこのあたりは絶妙で、この短編集のなかでもメリルリンチやスターバックスなどの実名がいい味を出している。使われた方もオトナだから怒ったりはしないのだろう。
所収の「品川猿」にはしかし唐突にこんなフレーズが。主人公の夫の実家が酒田という設定で……
彼女は名古屋の生まれ育ちなので、北国酒田の冬の寒さと風の強さにはいささか閉口させられたが、年に一度か二度短いあいだ訪れるのにはなかなか良いところだ。
……大きなお世話だっ!住んでいる身にもなってみろ(笑)。おっと、ここで怒ってはいけない。わたしも一応オトナの酒田市民なんだから。