事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

ハンニバル 1食目

2007-09-04 | 洋画

Hannibal さあ今回は人食いハンニバル公開当時のネタです。

「『羊たちの沈黙』って面白いの?」
週1回通うビデオ屋で妻が訊いて来る。
「ホラーは嫌いなんじゃなかったっけ」
「でも、『ハンニバル』を楽しむためには観ておいた方がいいんでしょ?」
「それはそうだけど……」
これが怖くなければ、たいがいのホラーは茶番ということになる。半端ではない怖がりのこの人が観れるものか。おまけに「ハンニバル」のようなスプラッタに耐えられるはずが……あ、借りちゃったよ。大丈夫かな。

「『ハンニバル』観た?」
事務室のある人はうらやましい。平気でこんな電話をかけてよこす。
「……観た、けど。」
「どうだった?」言えるか!隣には職員室のどんな小声の話も収集する教頭が控えているというのに。

 うちの学校の集金はまだ現金である。2年生の教室の前にそれはそれは立派な集金箱があり、学年毎の穴に子どもが集金袋を突っ込む仕組みになっている。去年のちょうど今頃、最初の集金日に、まあ最初だから付き合ってやるか、といつになく仏心を出して朝早くに出勤。まとわりつくガキどもを軽くあしらいながら
「学年間違うなよー」とか
「こらー、ランドセルここで広げるなー」
といかりや長介調で指導をかましていた。でも暇だから片手には文庫本を持っている。当時の新潮文庫の新刊「ハンニバル」。あどけない子どもたち(例外も多いが)に微笑みかけながら、人間の顔の皮を剥いで犬に食わせる男の話を読んでいたのだ。

 実は私、トマス・ハリスの小説は全部読んでいる。それだけではない、彼の作品は全て映画化されているが、そのすべての映画を観ているのだ。読破率100%。映画化率100%。鑑賞率100%なのである。こう聞くとすごいようだが、実はこの男、二十数年間で4作しか書いていない超寡作作家なのだった。

Hannibal1  アラブのテロを描いて、脅迫文が劇場に届いたおかげで映画の日本公開が中止になってしまった「ブラックサンデー」(新潮文庫)、人食いハンニバル・レクターのデビュー作「レッド・ドラゴン」(ハヤカワ文庫NV)、アカデミー賞受賞作にして前作の続編「羊たちの沈黙」(新潮文庫)、そして上下巻内臓出しまくりその名も「ハンニバル」これだけ。特にハンニバルが出るヤツは、現在の猫も杓子も変態シリアルキラー(連続殺人魔)ものミステリ群の嚆矢となっている。私もこのテは嫌いではないのでいいのだが、一般的にあまり受け容れられるジャンルではない。前任校のタバコ部屋でジェイムズ・エルロイを読んでいるとき、詮索好きの国語教師(♀)から「あ、堀さん、何読んでるんですか?」と訊かれ、説明するのも面倒なので「殺した男の目玉をほじくり出して、その穴にチンボ突っ込んで射精する男の話。」と答えたら二度と訊いてこなくなった。やれやれ。

……次のお食事は明日ね。

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アリーMy Love /  Ally McBeal

2007-09-04 | テレビ番組

Allymcbealcom92  絶対に、と言い切っていいと思うが、酒田市民の中で私しか観ていない映画に「カー・ウォッシュ」(‘76米)がある。リチャード・プライヤーが主演した黒人歌謡映画。

 たいしたヒットもせず、評判にもならなかったこの作品のことを、不思議と思い出す。ほとんどストーリーはなく、手で洗車することが売り物の(つまり設備投資もできない)、あるガソリンスタンドの一日を描いたもの。

 忘れられないのは、ラストシーンで近所の美人ウェイトレスをスタンドマンが口説くセリフだ。

「いつまでも白馬に乗った王子様を待っているつもりかい?」

現実的な選択をしろ、というわけ。夢見る十代だった私は「え?待ってちゃいけないのかよ」と憤然としたのだった。

 まあそんなに純朴でもなかったのは、女工(放送禁止用語?)を海軍の幹部候補生が抱えあげ、周りが拍手でそれを見送る某クソ映画(ほれ、リチャード・ギアの)にはもっと怒りまくったことでも知れる。でも、適当なところで付き合う相手を“手を打つ”という考えにはどうしても納得できなかった。

1167483975allymcbeal  「アリーmy Love」(このタイトル、サザンのもじりにもなっていない)はNHKが深夜にやっていたアメリカ製TVドラマ。そのエピソードの一つ「婚約」(The Promise)に同じようなシーンが出てくる。一週間後に結婚を控えた太っちょが、主人公の美人弁護士アリー・マクビールに惚れてしまい「求めるもの(One)を追わないで、あるもの(Only)で我慢しろって言うのかい?」と告白する。アリーは(二転三転するが)現実的な選択をすべき、と迷いながらも突き放してしまう、という筋書き。

 それはないだろう、とまたも考えながら、しかし四十になってすっかり現実的になった私は、十代の時とは別のことに気づいた。

 日本のテレビなら、あるいは日本人は、こんなミもフタもないことは“思っても絶対に言わない”。それは言わない約束でしょ、というコンセンサスが既に出来ている。日本で一番なんでもセリフで説明する脚本家、山田太一にしたってここまではやらない。

 でも、弁護士の成長物語だからというわけでもないが、このドラマでは、様々なネタが全て“論争”の具として、出演者と視聴者に提供される。人種や宗教(と所得)が多彩なあの国では、それは必然だったのだろう。そしておいおいそこまで言うか、とこちらが呆れかえる寸前に、例のダンシングベイビーや懐かしのポップスで笑いにくるんでしまう。まことに上等のドラマ。オフィス、というものを知るうえで参考になる部分がたくさんあるので(気を回しすぎて却って弁護士たちをストレスのどん底に叩き落す秘書の存在とか)、事務職員にもお薦めできます。

Intro_songs  エミー賞をとりまくったドラマ作りの天才デビッド・E・ケリー(くっそー、ミシェル・ファイファーの亭主である)の作品と較べるのは酷かもしれないが、日本のテレビも是非参考にしてほしい。ドラマとしての必然で、トイレが男女共用であるとの大嘘を除けば、セットのリアリティからして日本のそれとは段違いなのだ。

 余計なことかもしれない。でも「カー・ウォッシュ」のウェイトレスにしても、あの太っちょにしても、現実を受け入れ、少し寂しい顔をしながら、Only と共に、人生を歩む決断をする。うーん、人生ってやっぱり、そんなものなんだろうか。まあこのドラマには、主演のキャリスタ・フロックハートが実生活でハリソン・フォードの糟糠の妻をたたき出して略奪愛を成就させたという壮絶なオチもついているわけだが……

コメント (2)
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