事務職員へのこの1冊

市町村立小中学校事務職員のたえまない日常~ちょっとは仕事しろ。

ぼんくら

2007-09-14 | 本と雑誌

 Bonkura 山形県の事務職員は女性が多い(8割強)。それはもう圧倒的。実際、圧倒されている。そしてその中でも40代が大多数を占めているのだ。30代後半からカウントすれば、おそらく全体の過半はこの層だろう。事務職員界における団塊である。

 この人たちがどんな本を読み、どんな映画を観ているか。部報を書いている時に考えたことがあった。結果、これはもう宮部みゆきがダントツだろうとふみ、そのアンチとして男性用に真保裕一の「震源」をお薦めしたのだった。

 どうして宮部なのかといえば、地方公務員としてのストレスを日々抱え、一時の子育ての狂騒を終え、職場では子どもたちが本を読まない、という教員たちのため息を連日聞かされている人間が行き着くところは、
・今さら人生の意義などというしゃらくさいものを考えさせるのではなく
・文学上の前衛を追ったりもせず
・胸倉をつかんで、読め!と絶叫しているような面白さがあり
・まるでアカデミー出版かハーレクインかと思うようなリーダビリティを誇り
・何よりも読者を癒す(嫌な言葉だ)小説であること

 Bk2004feb231 この諸条件を全てクリアできるのは、どう考えても宮部しかいないし、何よりも私のまわりのこの層には、彼女のファンがたーくさんいる。

 彼女の作品の特徴は、むき出しの悪がまず出てこないことがあるだろう。登場人物のそれぞれが、それなりの過去をかかえ、悪行やむなし、と思い込ませるぐらい優しい筆致で全てが描かれる。しかしだからこそ、スイカに塩をかけると甘みが増すように、悪行に走らざるをえない業、とか闇、が感じ取られ、その哀しみは増す。

 全作品がちょっとびっくりするぐらいのレベルを誇っているため、代表作はファンによって違っているが、直木賞をとった「理由」(朝日新聞社)や、盛名を確実にした「火車」(双葉社)を挙げる人は多いはずだ。闇が深いタイプ。特に「火車」は、直木賞の候補に上がった時は、黒岩重吾から「主人公が最後の最後まで出てこない欠点が」とかいう難癖をつけられて落選したが、この小説の最大のたくらみがそれであるぐらい素人の私にもわかったぞこら。

 でも、私が好きなのはもう一つの系統。登場人物たちの優しさそれ自体で突っ走るタイプ。超能力少年を描いた「龍は眠る」(新潮文庫)がベストだろうか。子どもを書かせれば天下一品であることを見せつけてくれる。

31030905  同じ超能力モノの「クロスファイア」(光文社)は両者折衷といったところか。時代物の多くもこの路線に含まれるが、先週やっと読んだこの「ぼんくら」はその中でもダントツに良かった。ベスト変更。主人公の同心と差配の造詣(ぼんくらを自認することで、他人の罪が許せている)がいいし、長屋から店子が一人一人消えていく、というまるで落語の世界にミステリをぶち込んだ設定もいい。同心が自嘲気味に話す、役人(公務員)であることの虚しさは事務職員団塊組には大受けすることだろうし。

 単行本化する時に書き下ろした終章にとんでもない闇はうかがえるが、これからも宮部には、この路線でがんばってほしい。実は私、スイカは塩をかけずに食べたいので。

コメント (2)
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