女流作家の作品は肌が合わなくて、あまり読む事はないのですが、宮尾登美子作品だけはいつか、読んでみなければと思っていました。
しかし、女一代記のような作品は抵抗があって読む気にはならなかったのですが、『湿地帯』はサスペンス物だということで読んでみました。
この作品は、昭和39年に高知新聞で連載されたものです。
当時は、松本清張の社会派ミステリーがブームになっていたようで、その影響で、宮尾登美子さんもミステリー物を書こうとしたのだと思います。
『湿地帯』は、確かにミステリーの要素はあるのですが、物語のメインストーリーは、東京から赴任してきた県の薬事課長の小杉と、人妻とのダブル不倫的な物語です。
ミステリーというよりは、純文学的要素が強くて、中途半端です。
殺害された、薬局の女主人の妹が犯人を捜すというスリーリーをメインすればすっきりしたと思うのですが、社会派のミステリーにしたいがために、小杉を中心にした不倫の物語になったのは陳腐な感じがします。
物語のメインストーリーではないカメラ店の経営者と大学の教授の話とかがあるのですが、この話がミステリーの伏線になっているかといえばそうではない。
ただ、このソネカメラという名前の写真店のモデルは、『カメラのキタムラ』だろうと思います。
宮尾登美子さんも、当時、カメラを持って撮影していたのでしょうか。
この物語は、松本清張の影響がはっきりと表れています。物語の中にも松本清張と思われる人名も登場します。
ミステリーというのは、かならず、偶然にどこかで誰かに出会ったりするものですが、その偶然の出会いがどうも不自然です。
なぜ、内原野で、小杉と人妻の晃子が会ってしまうのでしょうか。
物語としてはそういう設定にしないと物語にならないからだと思うのですが、あまりにも、唐突すぎます。
あれも、これも書きたいという欲張なエピソードを混ぜてしまったため、ミステリーとしては、面白いとは言い難い。
事件の陰には、女ありというのがミステリーの常道ですが、この作品も終盤ではある意味、どんでん返しがあります。
犯人としては全くノーマークの人妻の晃子が突如として、犯人の名乗りをあげて、自身は自殺をします。
二つの死亡事件の犯人は人妻の晃子だったのですが、この二つの事件は偶然の間違いによって、青酸カリを飲んだ事によって起きた事件ですが、あまりにも、都合のいい偶然です。
ミステリーには偶然は付き物ですが、あまりに、不可解な偶然です。
『湿地帯』は、ミステリーというよりは、よくありがちな不倫の物語です。
宮尾登美子さんは、松本清張の、『ゼロの焦点』のような作品を書きたかったのだと思います。
ゼロの焦点でも青酸カリが使われます。
青酸カリでの殺人は当時の流行だったのでしょうか。
『ゼロの焦点』でも、犯人は、女性です。
事件の陰にはやはり女性がいます。
女とは、こんなにも恐ろしいものだということです。
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