(承前)
さて『星座』の作品自体については前項で論じたので、道立文学館の展示について簡単に紹介しておきたい。
というか、今年は有島武郎の代表作にして北海道の文学の代表格である『生れ出づる悩み』が出版されてから100年にあたり、もし文学館が何かを企画するとしたらそちらだろう―と勝手に思っていたので、こんなマイナーな作品を推してくるとは意外だった。ただ、このマイナー小説がじつは面白くて先駆的・実験的な作品であることについては、前項で述べたとおりである。
『星座』が、特定の主人公を持たない、複数の視点でつづられた小説であることにあわせたのか、展示は、有島本人だけというよりも、周囲の人物とのかかわりに重点が置かれている(そもそも、単なる「有島武郎展」であれば、今さら開催する意味がないだろう)。
ところで、このブログとしては、どんな美術作品が展示されているのかが、気になるところだ。
有島は日本の近代文学を代表する小説家であるが、絵画もくろうとはだしで、今も続く美術団体としては道内最古の「北大黒百合会」の発足にかかわったことや、道立近代美術館に寄託されている「ヤチダモの木立」などは、よく知られているだろう。
今回、展示されている有島の絵は、次の通り。
「射撃兵」
「有珠無名谷の煙」
「佐溜太」(日高地方の風景)
「浅間山の夕暮」
「無題」(山と水田。手稲のようにみえる?)
「無題」(木の向こうに赤い屋根の家が描かれた絵)
「黒百合会の人々」(原田三夫ら7人の似顔絵)
「顔」
「耳・口」
「フランセスのプロフィール」(複製)
「真駒内ニ至ルノ途上 ツキサップ兵営望見」(1897年2月14日の記述あり。スケッチブックの一葉)
「札幌から対雁ニ至ルの…」(メモが読めない。すみません)
「黒百合会の人々」はさらさらっと書いたスケッチのようだが、こういうふうに顔を似せて描くのは、誰にでもできる芸当ではない。
このほか、木田金次郎や有島生馬(武郎の弟で、二科会の会員の画家)の絵もある。
冒頭画像は、札幌の漫画家の瀧波ユカリさんが『星座』の主要登場人物を想像で描いたもの。
展示室の中で、この場所だけが撮影OKになっている。
右側手前はおぬい。その奥は渡瀬で、体がでかい。
渡瀬は、下宿先の奥さんと恋の駆け引きのようなことをする一方で、すすきのの遊郭に登楼するという、異色の登場人物である。いちばんキャラが立っているといってもいい。
瀧波ユカリさんが登場人物たちの性格をよく読みとって絵にしていることに、感心させられる。
彼がおぬいのピュアさに心打たれて、したたかに酒に酔う場面があるのだが、その描写も見事で
「ああ確かに、酔っぱらいって、こういうことを口走るんだよなあ」
と感服させられた。
また、図録の表紙やチケットなどメインのビジュアルとして用いられているのが、高山美香さん作のちまちま人形。
実物が展示会場の入り口にあるが、このシリーズのご多分に漏れず意外と小さい。
ところで、会場の片隅で、札幌農学校の校歌が小さな音量でずっと流れていたのが気になった。
表示はないが、どうも歌っているのは「初音ミク」のようである。
副館長の趣味なのだろうか(笑)。
会場内のどこにいても耳に入ってくるのだが、機器の真っ正直に来てもきちんとは聞き取れないほどの音量である。これはヘッドホンを備えつけて、聴きたい人がしっかり聴けるシステムにしたほうが良いのでは―と思った。
そもそもの違和感は、札幌農学校の校歌を女性が歌うということがほとんどあり得ないところに起因するのだろう。
なお、道立文学館はほとんど毎週末、映画上映や講演など多彩な催しを開いている。
くわしくは、同館のサイトをご覧ください。
図録(1200円)では、平原一良さん(北海道文学館副理事長)の文章が笑えた。
最初の有島武郎著作集の表紙に「カインの末裔」が「カインの未裔」に朱書で誤植されているというのだ。平原さんは「校正恐るべし」という古典的なギャグを飛ばしている。
2018年2月3日(土)~3月25日(日)午前9時半~午後5時(入場~4時半)、月曜休み(2月12日は開館し翌日休み)
道立文学館(札幌市中央区中島公園)
□青空文庫「星座」 http://www.aozora.gr.jp/cards/000025/files/216_20490.html
過去の関連記事
有島武郎と木田金次郎の初のパネル展、チ・カ・ホで(2017)
有島記念館に行ってきた (2008)
札幌・菊水(4) 有島武郎邸の跡 (2008)
・地下鉄南北線「中島公園駅」3番出口から約410メートル、徒歩6分
・地下鉄南北線「幌平橋駅」から約480メートル、徒歩7分
・市電「中島公園通」から約550メートル、徒歩7分
・中央バス「中島公園入口」から約200メートル、徒歩3分
さて『星座』の作品自体については前項で論じたので、道立文学館の展示について簡単に紹介しておきたい。
というか、今年は有島武郎の代表作にして北海道の文学の代表格である『生れ出づる悩み』が出版されてから100年にあたり、もし文学館が何かを企画するとしたらそちらだろう―と勝手に思っていたので、こんなマイナーな作品を推してくるとは意外だった。ただ、このマイナー小説がじつは面白くて先駆的・実験的な作品であることについては、前項で述べたとおりである。
『星座』が、特定の主人公を持たない、複数の視点でつづられた小説であることにあわせたのか、展示は、有島本人だけというよりも、周囲の人物とのかかわりに重点が置かれている(そもそも、単なる「有島武郎展」であれば、今さら開催する意味がないだろう)。
ところで、このブログとしては、どんな美術作品が展示されているのかが、気になるところだ。
有島は日本の近代文学を代表する小説家であるが、絵画もくろうとはだしで、今も続く美術団体としては道内最古の「北大黒百合会」の発足にかかわったことや、道立近代美術館に寄託されている「ヤチダモの木立」などは、よく知られているだろう。
今回、展示されている有島の絵は、次の通り。
「射撃兵」
「有珠無名谷の煙」
「佐溜太」(日高地方の風景)
「浅間山の夕暮」
「無題」(山と水田。手稲のようにみえる?)
「無題」(木の向こうに赤い屋根の家が描かれた絵)
「黒百合会の人々」(原田三夫ら7人の似顔絵)
「顔」
「耳・口」
「フランセスのプロフィール」(複製)
「真駒内ニ至ルノ途上 ツキサップ兵営望見」(1897年2月14日の記述あり。スケッチブックの一葉)
「札幌から対雁ニ至ルの…」(メモが読めない。すみません)
「黒百合会の人々」はさらさらっと書いたスケッチのようだが、こういうふうに顔を似せて描くのは、誰にでもできる芸当ではない。
このほか、木田金次郎や有島生馬(武郎の弟で、二科会の会員の画家)の絵もある。
冒頭画像は、札幌の漫画家の瀧波ユカリさんが『星座』の主要登場人物を想像で描いたもの。
展示室の中で、この場所だけが撮影OKになっている。
右側手前はおぬい。その奥は渡瀬で、体がでかい。
渡瀬は、下宿先の奥さんと恋の駆け引きのようなことをする一方で、すすきのの遊郭に登楼するという、異色の登場人物である。いちばんキャラが立っているといってもいい。
瀧波ユカリさんが登場人物たちの性格をよく読みとって絵にしていることに、感心させられる。
彼がおぬいのピュアさに心打たれて、したたかに酒に酔う場面があるのだが、その描写も見事で
「ああ確かに、酔っぱらいって、こういうことを口走るんだよなあ」
と感服させられた。
また、図録の表紙やチケットなどメインのビジュアルとして用いられているのが、高山美香さん作のちまちま人形。
実物が展示会場の入り口にあるが、このシリーズのご多分に漏れず意外と小さい。
ところで、会場の片隅で、札幌農学校の校歌が小さな音量でずっと流れていたのが気になった。
表示はないが、どうも歌っているのは「初音ミク」のようである。
副館長の趣味なのだろうか(笑)。
会場内のどこにいても耳に入ってくるのだが、機器の真っ正直に来てもきちんとは聞き取れないほどの音量である。これはヘッドホンを備えつけて、聴きたい人がしっかり聴けるシステムにしたほうが良いのでは―と思った。
そもそもの違和感は、札幌農学校の校歌を女性が歌うということがほとんどあり得ないところに起因するのだろう。
なお、道立文学館はほとんど毎週末、映画上映や講演など多彩な催しを開いている。
くわしくは、同館のサイトをご覧ください。
図録(1200円)では、平原一良さん(北海道文学館副理事長)の文章が笑えた。
最初の有島武郎著作集の表紙に「カインの末裔」が「カインの未裔」に朱書で誤植されているというのだ。平原さんは「校正恐るべし」という古典的なギャグを飛ばしている。
2018年2月3日(土)~3月25日(日)午前9時半~午後5時(入場~4時半)、月曜休み(2月12日は開館し翌日休み)
道立文学館(札幌市中央区中島公園)
□青空文庫「星座」 http://www.aozora.gr.jp/cards/000025/files/216_20490.html
過去の関連記事
有島武郎と木田金次郎の初のパネル展、チ・カ・ホで(2017)
有島記念館に行ってきた (2008)
札幌・菊水(4) 有島武郎邸の跡 (2008)
・地下鉄南北線「中島公園駅」3番出口から約410メートル、徒歩6分
・地下鉄南北線「幌平橋駅」から約480メートル、徒歩7分
・市電「中島公園通」から約550メートル、徒歩7分
・中央バス「中島公園入口」から約200メートル、徒歩3分
本棚をさがしていましたら、「星座」が出てきました。。「星座の会」シリーズ6冊から、小説とは思っていなかったんですね。さっそく、読みます。そのうちに、道立文学館の展示も観てきます。
『生れ出づる悩み』が出版されてから100年なんですね。暖かくなりましたら、のんびりと「有島記念館」に行こうと思います。
確かに、星座の会シリーズは、小説でない本の方が多いですもんね。
有島記念館は今年、藤倉さんの絵を展示するので、私も行きたいです。