本と旅とやきもの

内外の近代小説、個人海外旅行、陶磁器の鑑賞について触れていき、ブログ・コミュニティを広げたい。

村役場の宿直春秋抄(7)

2008-03-15 09:19:07 | Weblog
村役場の宿直春秋抄(7)

演説会の発案
 十一月三日の項で演説会なるものを発案している。封建制では権威に抑制されて言わざる、見ざる、聞かざるが三徳だったと述べ、ついで「時世一変、今日立憲政治の世になり、昔の三徳は徳にはあらずして三つの卑屈となった。今日では「より多く見よ」、「より多く聞け」、「より多く言え」というのが三徳になった」と論じ、「而(しこう)して、見ることは安し、聞くことは亦安し。言うことは非常に難事である。よって、言うことの稽古としてこの演説会を発起したのであるから宿直の諸氏は欄外に賛否を願います」で終わる。高等小学校の生徒を対象とした演説会の同意を求めている。今流にいえば弁論大会だが、児童が相手では「思うことの発表会」といったところだ。
 
 この演説会の発案は、戦死者の葬儀の所感から思いついたと書いている。よほど村葬の女史の弔詞朗読に感服したようだ。
 文末の「賛否を願います」の表現は、現代の「です・ます」の敬体文と変わらない。賛同を得たいための低姿勢の物言いなのだろう。ところが他の宿直者は賛否を述べていない。黙殺である。これでは、演説会の実現は叶わなかっただろう。
 日録帳に目を通すと、時に真弓は意見や感想を求めているがまるで手ごたえがない。宿直の面々に意志や抱負がないのか、真弓に反感を持っているのかさっぱりわからない。